ダークネス
ケルベロスの討伐に成功したレオ達は、大きな瓶にケルベロスの血を入れてパーニズに持ち帰った。その後、酒場で報酬金を受け取り、外に出た。疲れ切った4人の頬をパーニズの優しい風と夕日が撫でていく。
「ありがとよ、スフィル。お前が来てくれて良かった。」
「あぁ。」
アランの言葉に対し、スフィルは冷静な表情で返事をした。するとスフィルは何かを思い出し、ポーチに手を入れて何かを取り出した。小さな丸い瓶に橙色の液体が入っている。
「1つだけだが、共に戦った証にこれを持っていけ。」
「…ありがとう。これは?」
レオは小さな瓶を貰い、中の液体を見つめた。
「SPドリンクだ。特にレオは、戦い方を見ていて無理をしているように思えた。そんなお前に役立つと思ってな。」
スフィルはそう言って商店街へと続く方向を向いた。
「勝つために全力になる事は良いが、人間には限界ってのもある。あまり無理はするなよ。」
「うん。ありがとう。」
レオの笑みを見たスフィルは、3人に静かな微笑みを残して去って行った。ネネカは彼の後ろ姿に軽く頭を下げた。
「よし、じゃあケルベロスの血をギルド小屋まで持って行こう。」
「はい。」
「………これは厄介になってきたな…」
「……まさか、パーニズに2つもあるとは……」
その頃ギルド小屋の中では、エレナス達がシルバを囲むようにして話し、頭を抱えていた。
「しかし、いつからあったのでしょうか。銀刄城の跡地に渦など……」
「これは行くしか無さそうかな?」
すると、入り口の扉が開き、レオ達が軽く頭を下げて入って来た。
「おっ、帰ってきたな。どうだ?例のアレは取れたか?」
最初に3人に口を開いたのはエレナスだった。レオはポーチから大きな瓶を取り出し、カウンターの上に置いた。
「持って来ました。ケルベロスの血です。これでダークネスの世界に行けるんですよね?」
「あぁ、上等上等。」
シルバは立ち上がり、瓶の蓋の上に手を置いた。そして彼はその表情から笑みを消し、レオ達に口を開いた。
「1つ、話がある。お前らがここを出てから、俺は東の方の銀刄城跡地に行った。そしたら、地下にアレがあったんだ。」
「………アレって……?」
アランは眉間にしわを寄せた。そして、真剣な眼差しを送る3人にシルバは言った。
「渦だ。」
「えっ……ほ、本当ですか…?」
レオは一足前に出た。今まで彼らにとって、ダークネスの世界へ続く渦など遠い存在だったため、驚くのも当然である。しかし、その事を知った3人の思いは以前とはあまり変わらない。
「なんだ。そんなに近くにあるのなら、ますます行きたくなってきた。」
「そうかアラン。だが、念のためもう一回言っておく。あっちの世界は比べモンにならねぇほど危険って話だ。」
シルバはそう言って瓶の蓋を開け、長めの匙を瓶に入れて血を掬った。そして4枚の小さい器に血を1滴ずつ垂らし、レオ達に配った。
「それでも行くって言うんなら、明日俺と来い。んじゃ、それ飲んだら今日はゆっくり休め。」
シルバはそう言って器の血を飲み、カウンター席に座った。レオ達はしばらく器の血を見つめて、一斉に飲んだ。
「……あ、言うの忘れてた。これすっげぇ不味いから。」
「うっ……ぉぇっ……」
「…………ぅぅっ……」
「そういうのは早く言ってくれよ…ぉぉぇぇっ!!」
3人の表情にシルバは苦笑いをした。
翌朝、レオ達はギルド小屋でシルバと合流し、銀刄城跡地へ向かった。久しぶりに歩くパーニズの草原には、デカハムやゴブリンがこちらをジロジロと見ながら立っている。しばらく歩くと、少しずつ焦げた臭いがレオ達の鼻を刺激し始めた。
「もうすぐだ。この辺りはニオイがちょっとキツイから我慢しろ。」
すると、4人の前に小さな雑草が生えた乾いた地面があらわれた。黒くなった石や瓦などの残骸が残酷な空気を残してころがっている。シルバは足を止めず、この乾いた土の上を歩き続けた。3人はシルバの足音と焦げた臭いに誘われて進む。
「ここに城が建っていたなんて嘘みたいだ……シルバさん、やっぱり銀刄城はかなり大きかったんですか?」
レオは赤い衣に包まれた頼れる背中に口を開いた。シルバは振り向くことはなかったが、レオに言った。
「いや、物心ついた時には城は焼け落ちてたから見た事ねぇんだ。それに、家族の顔もな……」
「兄を捜してるってペガサス貸出場の爺さんが言ってたけど、あれは……?」
アランはシルバに心配そうな顔で問いかけた。やはりシルバは振り向くことはなく、縛った金の髪を揺らして答えた。
「……分かんねぇけど、兄はどこかにまだ居るって思えるんだ。どんなに叶わねぇ夢でも、夢は夢だ。持ってて損はねぇだろ?………着いたぞ。」
シルバが止まると、3人も止まった。シルバの鋭い眼差しの先を見ると、そこには地下へ続く、暗く長い階段があった。先が見えないせいか、恐怖心が急に高まり、唇の渇きがひどくなった。するとネネカは手で鼻を覆いはじめた。
「……何か………臭くないですか………?」
「血と屍の臭いだ。地下に行けばマシになるさ。行くぞ。」
シルバは笑みを見せて言うと、松明を取り出し、火をつけて階段を降り始めた。屍の臭いに手招きされたレオ達は、鼻を手で覆いながら松明の光について行った。火は生温かく揺れ、不気味な光で4人を包む。
「……ついにダークネスの世界に………か。緊張するな…」
「…アランの口から緊張って言葉を聞いたの初めてだよ。」
少し肌寒くなった頃には、周辺に足音と呼吸の音が響き、耳に囁いていた。しばらく降りるとようやく床が平坦になった。シルバは少し歩き、松明を持った腕を前に伸ばして奥を照らした。照らされたところを見て3人は驚いた。パーニズの北に浮かぶ渦と全く同じものが禍々しく4人を見つめている。
「これだ。」
「……これが……………やっぱり、いざ入るとなると、怖いですね………」
レオ達は息を呑み、向かい合って頷いた。覚悟を決めたのだ。そんな3人を見たシルバは微笑み、口を開いた。
「じゃあ、行くぞ。」
4人は渦の中に入っていった。一瞬で辺り一面は気味の悪い禍々しい色に染まった。デルガドと戦った時のような緊張感に引き裂かれそうな気分だ。
目の前に光が見えた。一歩踏み出すと、渦から出た。左右を見れば、しっかり仲間がいる。4人は前を見た。上へと続く長い階段だ。4人は少しだけ不思議な気分になったものの、一歩一歩踏みしめるように上を目指した。
「ここは……どこかの地下か……?」
「そのようですね……いきなり魔物と戦うことがなくて良かったです。」
アランの言葉にネネカは小さい声で返した。少し上がると、何やら賑やかそうな音が上から聞こえてきた。ますます不思議な気持ちになってきた。上に行くたび、音はよく聞こえてくる。和楽器だろうか。さらに、話し声も聞こえてくる。ようやく階段を上り終えた。
「米俵がある……んじゃあここは……倉の中か?」
「この扉の先に魔物が……」
4人は大きな扉に手を置いて向き合うと、再び覚悟を胸に刻み、扉を押し開けた。外に出ると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「なっ…!?」
「これはっ……」




