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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
96/206

ハヤブサの如く

 レオの手の下には筒のような細長い物が3本あった。レオはそれを掴み、見つめた。


「………これは………巻物……?」

「何でしょうか……あっ、何か書いてありますよ。」


 ネネカは3本の巻物に指をさすと、レオは目を凝らして見た。ランプも無い暗い家の中で目を覚ましたばかりなので、字がボヤけて見える。字が見えた時には、レオはそれらを小さい声で読み上げていた。


「…フレア……フレイムブレード………ファルコンスラスト……」


 レオは3本目に見た巻物の紐を解いて広げた。そこには何やら筆を走らせたような文章が書かれており、とても読めるようなものではなかった。レオは苦笑いをしてネネカの顔を見た。


「………ますます分からないね。」

「…ですね…………ぁっ、レっ、レオさんっ!!」

「えっ…………っ!!」


 レオは再び巻物を見ると、目を大きく開いて驚いた。文章が光り出したのだ。それらは突如動き出し、レオの腕に吸い込まれるように入っていった。そして光は消えた。


「レオさんっ、大丈夫ですか…?」

「………ぅ…うん……何だろう………この感覚……。あっ、早くアランとスフィルの所に行かなきゃ!!」


 レオは前に置かれた自分の剣を手に取り、壁のない家から飛び出した。




 その頃、アランとスフィルは屋根の上でケルベロスを挟むようにして立ち、武器を握り締めていた。ケルベロスと向かい合うアランは、奥のスフィルに口を開いた。


「んで?考えってのは何だ?」


 ケルベロスはスフィルの放った弾丸で6つの目を失い、よだれとともに歯と歯の間から血を流していた。傷を負ったことで、先ほどよりも表情が凶暴になったように思える。


「見て分かるだろ?目を塞いだんだ。なるべく物音立てずに叩けばこっちの勝ちだ。」


 スフィルは笑って言った。すると、ケルベロスは数回鼻で空気を吸った。


「なんだ簡単じゃねぇか。なら、いかせてもらうっ!!」


 アランは右前の家の屋根に飛び移り、屋根を強く蹴って横を向くケルベロスに飛び掛かった。


「“銀の拳”っ!!」

『グォォォォォォッ!!』

「っ!?」


 その時、ケルベロスはアランの方を向き、鋭い爪を立てた右手を振った。アランは咄嗟に銀色の両腕を交差し、空中で受け止めた。


「っぅぐっ!!…のわぁっ!!」


 アランはケルベロスの腕力に耐えきれず、遠くに飛ばされ、屋根に体を叩きつけた。スフィルはすぐに銃口をケルベロスに向けた。


「っ、なぜっ!?」


 スフィルが無数の弾丸を放つと、ケルベロスはそれを回避しながら右の屋根に飛び移り、すぐにスフィルに飛び掛かった。


「っ!!やべっ!!」


 スフィルは前転をしてケルベロスの突進を避けた。背後で石が砕ける大きな音がする。ふり返ると、先ほどまで立っていた足場の屋根は、砂埃を纏うただの石の山となった。


「……なぜだ………目は塞いだはずだぞ……」


 スフィルは恐る恐る下を見た。砂埃は薄くなっていたが、ケルベロスの姿が無い。すると遠くの屋根で倒れていたアランが膝をつき、痛む頭を抱えた。手を見ると少し赤いのがついている。


「っ……打ち所が悪かったな………」


 その時、アランの目の前からケルベロスが飛び掛かってきた。


『グォォォォォォッ!!』

「まずいっ…!!」

「“ファルコンスラスト”!!」


 空中のケルベロスの横腹に何かが物凄い速さで突進した。


『グォォォッ』

「レオっ!!」


 レオの剣はケルベロスの横腹に刺さっていた。レオは剣を強く握って、体勢が少し横になったケルベロスの横腹に右足を置いて蹴り、真上に飛んだ。


「ライズスラッシュ!!」


 刃はケルベロスの横腹から背中までを走り、大量の血を吐かせた。ケルベロスは大きな体を地面に叩きつけたが、すぐに起き上がり、家と家の影に入った。レオは膝をつくアランの前に着地した。


「……すっげぇ…………なんだ今の……」

「それは後で。それより、ケルベロスの目が全部閉じてたように見えたけど…?」

「あぁ、スフィルがやったんだ。ただあの犬、目塞いだはずなのにまるで見えてるかのように攻撃してくるんだ。」


 アランは眉間にしわを寄せた。レオは剣に付いた血を払い、アランに口を開いた。


「……犬だからじゃない?」

「………は?…何言って……ぁ…………嗅覚…か?」

「そう。しかもその鼻は3つ。ケルベロスの視覚を奪っても、やつには自慢の嗅覚があるから意味ないんだよ。多分。」


 それを聞いたアランは立ち上がり、スフィルの方を向いて軽く睨んだ。


「なぁレオ……目を塞ぐ考えを先に実行したのはアイツだって事を覚えといてくれ。」

「………うん。」

『グォォォォォォッ!!』


 すると、2人の背後からケルベロスが飛び掛かってきた。レオとアランは複数の屋根を飛び移り、鋭い爪と牙を避けた。ますます敵の動きが速くなったように思える。2人が後ろを見ると、そこにケルベロスの姿は無かった。いつどのように襲ってくるか分からないという恐怖が、再び彼らを冷たく包み込む。


「ダメだ……あの動きだと僕たちの攻撃はまともに当たらない……」

「……ならどうするんだ?」


 苦い表情で話す2人が立つ屋根に、スフィルが着地した。


「銃弾も少なくなってきた。もう無駄にはできねぇ。」


 すると、レオはスフィルのポーチを見て、ある考えを思いついた。


「ねぇスフィル、そのポーチに入っている手榴弾のような物は何?」

「これか?これは手榴弾って言うより、毒ガス爆弾って感じのやつだ。投げると一定時間は周辺毒ガスまみれだ。」

「よし、それを使おう。僕に考えがある。」




『グルルルルッ……』


 アランとレオは家と家の影に隠れた。スフィルは2人の合図に合わせ、真上に手榴弾を投げた。


“まず、スフィルは僕たちが影に隠れた事を確認したら、真上に爆弾を投げてそれを弾で撃って。”


 スフィルは手榴弾に銃弾1発を撃ち、爆発させた。


“毒ガスの刺激臭でケルベロスの嗅覚を狂わせるんだ。するとやつに残されるものは聴覚ただ1つ。スフィルは周辺に弾を撃って大きな音を立てて。”


 スフィルは片手で鼻を塞ぎながら周辺に銃弾を撃ちまわした。


「さぁ!!来いよぉっ!!」


“そうすると、音を聞いたケルベロスは物凄いスピードでスフィルに飛び掛かってくるはずだ。恐らくさっき僕が使ったファルコンスラストでもあのスピードには勝てない。だから……”


「いくよっ、アランっ!!」

「あぁ、任せろ。」


 その時、スフィルの左側から物凄い速さでケルベロスが飛び掛かってきた。


『グォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

「今だっ!!“ファルコンスラスト”!!」

「“スクリュー・ストレート”ぉっ!!ぶっ飛べぇぇっ!!」


 アランの右腕から放たれた竜巻きにレオが乗り、ハヤブサのように一直線にケルベロスの横腹へ飛び込み、剣を刺した。


「っ!!“回転斬り”ぃっ!!」


 レオは足場となっている竜巻きに身を任せ、体を回転させてケルベロスの体に刃を走らせた。内臓を斬り尽くされ、大量の血を噴き出したケルベロスは地面に大きな体を叩きつけて倒れた。レオはスフィルの左側に着地した。倒れたケルベロスはもう動くことはなかった。


「ふぅ………討伐完了。」

「疲れたぁ〜……っ。」

「ったく、良い作戦じゃねぇかよ。」


 3人はそれぞれ笑みを浮かべた。屋根の上のレオとスフィルがケルベロス側の下を見ると、ネネカが石畳の上を走り回っているのが見えた。


「レオさ〜んっ、アランさ〜んっ、スフィルさ〜んっ!どこですか〜っ!……きゃぁ!!」


 ネネカは血塗れのケルベロスの前で驚き、立ち止まった。それを見たレオとスフィルは笑い、レオはネネカに手を振った。


「お〜い。やったよ〜っ!……よし、じゃあケルベロスの血を取ってパーニズに帰ろう。」

「あぁ。おいアラン、ヤツの血ぃ取って帰るぞ!」


 破壊された静かな村に立つ4人に、薄い砂埃の混じった冷たい風が吹いた。

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