暗黒界の番犬
『グオォォォォォォォォ!!』
ケルベロスは太い右腕を挙げ、石でできた屋根を大きい音を立てて殴った。砕かれた石はレオ達を目掛けて銃弾のように飛んできた。
「っ!!危ねぇぞっ!!」
4人は家と家の間の影に隠れ、降り注ぐ重い石を回避した。石が地に落ちるたびに石畳を砕く音が立ち、砂埃が舞い始めた。砂埃の中でワイルドオークの低い悲鳴も聞こえる。
「仲間を無視して攻撃っ!?」
「チィッ、とんでもねぇ野郎だ。」
「たっ…倒せますかね……」
しばらくすると石の雨は止んだ。4人は影から飛び出し、砂埃の中に立った。先ほどまで踏んでいた石畳は砕かれ、踏み締めるたびに液体のような感触が感じられる。血だ。前後をよく見ると、無数のワイルドオークが血を流して倒れている。
「こいつはひでぇ…」
中には背中や腹部を抉られ、骨や内臓が見えるのもあった。辺りに血の臭いが漂う。4人は背中合わせになった。
「どこへ行ったのでしょうか…?砂埃でよく見えません……」
「みんな、どこから来るか分からな…っ!!」
その時、レオの目の前の砂埃が一瞬で晴れ、目の前からケルベロスが突進してきた。
「ぅおあっ!!」
「ネネカっ!!」
レオは即座にネネカを押して家の影に飛ばし、アランとスフィルは真上に跳んで屋根の上に立った。
「っ!“ガードファントム”!…ぅっ!!」
ネネカはレオの前に透明な薄い壁をつくり、流れるように背中で着地した。レオは剣を横に構え、ケルベロスの突進を受け止めるように迎えた。
『グルルルルッ!!』
「ぅくっ…!!………っ!!」
ケルベロスは物凄い力でレオを押し出す。レオは歯を食い縛り、脚に力を込めて耐えるものの、なかなか止まらない。すると、
「“ギガ・クラッシャー”っ!!」
「オラオラオラオラオラァッ!!」
アランは屋根から飛び掛かり、ケルベロスの背中に重い右足を突き出して蹴った。スフィルは屋根の上からマシンガンの弾丸の雨を降らせた。
『ッ!!グオォォォォォォォォ!!』
「ぅっあぁっ!!」
ケルベロスは突進をやめ、雄叫びとともに3つの頭を勢いよく上げると、レオは真っ直ぐ飛ばされ、奥の家の壁を破壊して暗い家の中に転がった。
「ハッ…!!レオさんっ!!」
「“スクリュー・ストレート”っ!!」
ケルベロスの背の上に乗ったアランが、真下を目掛けて右腕に竜巻を纏わせて構えた。すると、ケルベロスは体を右に傾け、家の壁に勢いよく背中を叩き付けた。
「ぉぁああああっ!!」
「アランさんっ!!」
「チッ!!」
スフィルは体勢を低くし、マシンガンのマガジンを取り替えた。そして再び屋根の上から下を覗くと、そこにケルベロスは居なかった。
「っ!?なにっ!?」
見えるのは、破壊された石の壁の下でうつ伏せに倒れるアランと、それに回復魔法をかけるネネカの姿だけだ。
「おいっ!!ヤツはどこ行ったぁっ!?」
「わっ、分かりませんっ……!ただ、もの凄く早かったですっ……!」
「………んだと……」
スフィルはそう言って後ろを向くと、鋭い6つの目でこちらを見つめるケルベロスが居た。前足で屋根を掴み、後ろ足で立っている。
「ぉわぁっ!!」
『グオォォォォォ!!』
スフィルは突然の光景に怯み、一歩後ろに下がると、足を踏み外して落下した。落下の直前にケルベロスは爪を立てた左手を横に振り、スフィルの肩から少量の血を掻き出した。
「うぐっ!!」
「スフィルさんっ!!大丈夫ですかっ!?」
スフィルは着地し、左の肩を右手で強く押さえた。右手はすぐに赤く染まり、亀裂が入った石畳に血を1滴ずつ垂らした。
「大丈夫…なわけ……ねぇだろ…っ。いってぇ…なぁ…」
「……ぅぐっ……」
アランは起き上がり、スフィルの赤い肩を見た。
「……あ〜…それ痛いヤツだ。」
「アランさんっ!気を取り戻しましたか、良かったです。」
「あぁ、すまねぇな。スフィルの怪我を治したらレオの所へ行ってくれ。良いな?」
「ぁ…はいっ。分かりました。」
アランはネネカの顔を見て頷き、屋根へ跳び乗った。
「さぁ〜てと、どこ行きやがった……」
アランは屋根と屋根の間をなぞるように見た。すると、左の方にケルベロスの動く大きな背中が見えた。動きが鈍い。
「ふっ、そこかっ!!」
アランがケルベロス目掛けて飛び出したその時、ケルベロスは走り出し、アランの視界から姿を消した。
「…っ、なにっ!?」
アランは背後に気配を感じ、すぐに振り返った。そこには唸り声をあげ、よだれを垂らすケルベロスが居た。
「”スクリュー・ストレート“っ!!」
『グオォォォッ!!』
アランはケルベロスの1つの頭に竜巻を放ち、距離をとった。
「危ねぇっ…背中裂かれるところだった……」
『グオォォォォォォ……』
するとケルベロスの3つの口から禍々しい色の煙が溢れるように出始めた。
「……何だ?」
『グオォォォォォォォォ!!!』
ケルベロスが大きく口を開けると、3つの口から禍々しい色の波動が発射され、アランを吹き飛ばした。
「がはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
飛ばされたアランは石の屋根を滑るように転がった。
「………っ…ビーム出すとか……っ…聞いてねぇ……ぞ……」
アランは硬い石に両手をつけ、跪いた。すると、アランの右にスフィルが着地し、マシンガンを握り締めた。
「とんでもねぇ野郎だな。」
「…肩は…大丈夫なのか……?」
「傷口が塞がっただけだ。痛みは多少残ってる。んでよぉ、1つ考えがある。」
スフィルは銃口をケルベロスに向けて構えた。
「……考え…?」
「こうすんだよぉっ!!」
『グオォォォォォォォォ!!』
ケルベロスは2人の方へ走り始めた。するとスフィルは屋根を強く踏み、無数の弾丸を放った。
「あたれぇぇぇぇっ!!」
弾丸はケルベロスの6つの目を次々と撃ち抜き、ケルベロスの視界を塞いだ。
『グオッ…!!グォォォォォォッ!!』
「ちょっ…おいおいおいおいっ!!」
ケルベロスは足を止めることなく、2人の方へ突進して来た。アランは横に転がって屋根から降りたが、スフィルは真っ直ぐケルベロスの方へ走り、足と足の間をスライディングしつつ、腹部に無数の弾丸を撃ち込んだ。
『グオォォォォォォォォ!!』
スフィルは立ち上がり、ケルベロスを見下すようにして見た。
「後はこっちのモンだ。」
「…………っく……」
「レオさんっ。大丈夫ですか…?」
暗い家の中でレオは目を開けた。目の前には心配そうな顔でこちらを見つめるネネカが居た。
「……アランは……スフィルは……?」
「今、戦ってます。あの、1つ聞きたいのですが……」
「…何?」
レオはネネカに優しく首を傾げた。家の中は土や埃っぽい臭いがして、あまり良い気分にはなれない。
「レオさんが手に持っているのって……何ですか……?」
「……え?」
レオの手の下には筒のような細長い物が3本あった。レオはそれを掴み、見つめた。
「………これは………巻物……?」




