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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
93/206

悲しみと志しを胸に

 レオとアランとネネカは酒場に入った。食堂やカウンターの前には、大きな鎧に身を包んだ人や華やかなローブを着た人が集まっていて、賑やかだった。


「おい、このクエストどうよ?雑魚の討伐のくせに報酬でかいぞ?」

「何言ってんだぁ、どうせ受けるならでっけぇドラゴンとかだろ。」


「皆さ〜ん、新しい依頼がたくさん届きましたよぉ〜っ!」


 受付嬢の声で、多くの冒険者がカウンターの前に立った。クエストを受けると、次々と流れるように酒場から出て行った。机の上には、ソースで汚れた器が寂しく残されている。


「んじゃ、俺たちもクエスト受けるか。」

「うん。」


 レオはアランに頷いた。奥の食堂ではカウンターからデンテが口笛を吹きながら出てきて、皿を回収している。3人がカウンターの前に立つと、受付嬢は軽く頭を下げて微笑んだ。


「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?」

「…ケルベロスの討伐依頼ってありますか?」

「ブフッ…!!」


 レオの言葉にデンテが頬を膨らまして吹いた。アランは彼を見て、口を開いた。


「なんだデンテ。変な事言ったか?」

「ちょ、ケルベロスって…お前らまさかアレと戦うのか!?その依頼は何十年も解決してねぇんだぞ。つまりだ、敵はタダもんじゃねぇって事だよ。マジでやる気なのか?」


 デンテの表情は少し青くなったように見える。手に持った器も震えている。そんな彼を見て、ネネカは受付嬢に口を開いた。


「できるだけ多くの情報が欲しいです。お願いします。」

「はい。しばらくお待ち下さい。」


 受付嬢はクエストボードに手を伸ばし、穴を掘るように紙をめくりはじめた。紙の色は次第に黄ばんでいく。


「ありました。こちらになります。」


 受付嬢は1枚の古い紙をカウンターの上に置いた。3人が紙を見ると、間から覗くようにデンテも紙を見た。


「数十年前、突如ライトニングの地に現れた3つの頭を持つ魔物、ケルベロス。この魔物の襲来によって1つの国が滅び、人々はそこをケルベリアンと名付け、足を踏み入れる事を恐れました。」

「たった1匹で…国が……」

「ほら、やっぱやめた方が良いって。」


 所々字が霞んだ紙を見るレオに、デンテは軽く説得するように言った。


「戦うコツは?」

「詳しくは分かりませんが、ケルベロスはとにかく早いです。1回1回の攻撃力より、命中率を優先すべきでしょう。」

「なるほど、質より数か……」


 アランは眉間にしわを寄せた。すると、入り口から3人の足音が聞こえた。レオ達が振り向くと、そこにはコルトとオーグルとスフィルが居た。


「お前らぁ。」

「やぁ、久しぶり。今からクエスト?」


 すっかり魔法使いの服装に身を包んだコルトが声を掛けると、デンテがレオ達3人を指さしてコルト達に口を開いた。


「コイツらやべぇんだって!お前ら止めてくれよ!!ケルベロスだぞケルベロスっ!!」

「ケル……ん?……何て?」


 オーグルはデンテに首を傾げた。すると、レオはコルト達をしばらく見つめ、スフィルに声を掛けた。


「スフィル、一緒に来てほしい。良いかな…?」

「あ?…何で俺?」

「ケルベロスはとにかく素早い。君の持っているマシンガンなら、高威力のまま多くの攻撃を放つことができる。僕の勝手なお願いだから断ってくれても構わないけど…」


 レオの言葉を聞いて、スフィルはコルトとオーグルの顔を見た。コルトは頷き、オーグルはレオの方に首を振った。


「………分かった。ついて行ってやる。」

「ありがとうっ。」

「いや止めろって。」


 するとアランは、カウンターに置かれた古い紙に4人の名前を書き、受付嬢に渡した。


「んじゃ、これを。」

「はい。お気をつけて。」


 レオとアランとネネカとスフィルは出口に振り返った。その時、道を塞ぐように大きな斧を背負った男が、4人の前に立った。


「またクエストか。この世界からの脱出は諦めろと言ったはずだが?な〜ぜそこまで頑張れるかねぇ……馬鹿馬鹿しい。」


 バルゼフだ。以前より少し太ったかのように感じる。アランは睨み、口を開いた。


「んで、何が言いたいんだ?元・生・徒・会・長さんよぉ。」

「自分の命大切にしろって言ってんだ。それと、叶わねぇ夢を見続けるガキっぽい奴らを見るのが大っ嫌いなんだ。…………ん?」


 バルゼフは辺りを見回して問いかけた。


「おい、アイツはどうした?あの赤毛のうるせぇ女は……」

「……っ、そういえば…………」


 バルゼフの言葉に、コルトは戸惑った。彼だけではない。オーグルもスフィルもデンテも同じ表情を見せた。


「…………」

「………っ」

「……………………」


 しばらく黙ったままの3人を見て、バルゼフは口を開いた。


「…お…?まさか…?…………ぶっ、ハッハッ!!言わんこちゃねぇっ!!あんなに元気だったヤツがっ、嘘みてぇだぁっ!!ハッハッハッァッ!!」

「テんメェェェェっ!!!」

「…!!」


 アランが1歩前に出ると、レオは鋭い瞳でバルゼフに飛び掛かり、腹に膝蹴りを喰らわせ、両手で首を掴んでうつ伏せに倒すように床に叩きつけた。


「ヴォッハァァァッ!!…………」

「……わぁ〜ぉ…」


 スフィルは思わず口から声が出た。レオはゆっくり立ち上がり、倒れたバルゼフを横に蹴り払って振り向いた。


「…ごめん、ネネカ……特にアラン……悲しい事思い出したよね……………。行こうか。」

「……お…おぉう…。」


 4人は酒場を出た。酒場に残ったオーグルとデンテとコルトは、4人の背中と倒れたバルゼフを見て、小さい声で話した。


「…………おっかねぇな……レオ…………」

「……ど〜する…コイツ……起きるまでほっとく?」

「……………ドーマが……やられたのか…………」






 その頃、ダークネスの魔王城では…


「……ケルベロスの討伐とは…やはり、成長が早いな……人間は…………」

「私、ますます楽しみになってきました。ところでついさっき、銀刄城の渦をライトニングの数人が見つけたとの情報が入りました。」


 玉座に腰をかける男に、女は微笑んだ。


「……なるほど。ケルベロスの討伐も意味あっての行動というわけか。時が一気に近づいたな。…………彼に伝えておけ。朗報だとな。」

「はい。承知しました。」

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