狂
「きっ…………………………!!貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
デルガドは口と胸から血を吐いて叫び、倒れた。
「…………やっ………た…………倒………した……」
レオは腕から流れ出る血の付いた剣を下ろし、肩の力を抜いた。視線の先で倒れる屍は、地を真っ赤に染め、瞳に艶を失っている。
「…………よかった…………私達…………生きてる…………」
ネネカは口から言葉を溢し、一筋の涙を頬に流した。砂埃の消えた禍々しい空間は、瞼が重くなるほど静かだった。
「……ぁ…………なぁ…………アラン……」
「…………なんだよ…………ドーマ……」
潤んだ目をしたドーマは血を流すアランに近寄り、震える口を開いた。
「アタシ達…………倒したんだよな…………」
「…………あぁ………………そうだ…………」
「そっか……ははっ……良かった…………」
ドーマは下唇を震わせて、涙を流した。そんな彼女の表情に、アランは微笑み体の痛みを堪えた。レオは剣を鞘に入れ、3人の顔を見た。
「アラン……ドーマ……ネネカ…………ありが」
「………………………っ………………なん……………だ…………っ……」
アランは目を覚ました。気付いた時にはうつ伏せに倒れていた。周辺は砂埃と目眩であまり見えない。しばらくすると、砂埃が徐々に消え、状況を知った。
「…………!!ネネカぁぁっ!!」
目にしたのは、巨大な魔物の手で地に押さえつけられたネネカの姿だった。魔物の肌は灰色で、翼が生えている。ガーゴイルだ。
「おいっ!!……っ!!返事しろぉっ!!おいっ!!」
アランは震える腕に力を込め、立ち上がろうとしたが、膝を付くことだけで精一杯だった。ネネカを見て大声を出しても、ネネカは動かない。
「おいネネカぁぁっ!!おいっ!!…………レ…オ……っ!!レオぉっ!!」
次に目にしたのは、四足歩行の獣の手に押さえつけられたレオの姿だった。レオも動かない。獣の尾は蛇、背にはヤギの頭、頭部はライオン。キマイラだ。
「レオぉっ!!おいっ!!何があったんだよっ!!おいっ!!こっち見ろよぉっ!!」
レオは動かない。ネネカも動かない。喉を痛めるアランは、2人の姿を見た後、額から流れる汗とともに決して良い事ではない何かを感じた。
「…………ドーマ…………っ!!ドーマぁっ!!」
アランは辺りを見回した。すると、前の方から声が聞こえた。
「…………ぅ…………ぅぅ…………っ……」
「…………!!ドーマかっ!?ドーマぁっ!!ドー………………」
目にしたのは、確かにドーマだった。地に足を付けていない。何かに首を絞められていて、苦しそうだ。
「…おい誰だぁっ!!離せよっ!!ドーマを離せよぉっっ!!」
「アンタか…………私の弟を殺したのは…………」
「…っ!!」
ドーマの前には女が立っていた。女は悪魔のような尾をドーマの首に巻き付けていた。
「…………っ……ア……ランっ…………に……げ………………ぉ…………」
「おいっ…………おいっ…!!おいっっ!!!」
ドーマは首に巻き付く尾を強く握っていたが、その言葉を溢すと同時に両腕を下ろした。頬から顎にかけて、涙や唾液で濡れていた。ドーマが動かない。
「ドーマぁぁっ!!動けよっ!!返事しろぉっ!!」
女は左腕を刃に変えた。刃の奇妙な光沢が、アランの瞳と息を狂わせる。アランは力を振り絞り、震える脚でゆっくりと立ち上がった。
「…………誰だ……や………めろぉ…………!!やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!」
女は左腕を横に振った。女の足元には、ドーマの右腕と下半身と左腕が重たい音とともに落ち、生々しい色の内臓や溢れ出る赤い血で、女の立つ場を赤一色に染めた。その後は尾を離し、動かない上半身をゴミを捨てるように落とした。
「ぉあ゛あ゛あ゛ぁぁああ゛あぁあ゛あ゛ぁぁ゛ああああ゛ぁぁぁあぁああ゛っっっ!!!!」
アランは右手を握りしめ、歯を食いしばり、力強く地を蹴って、女に飛び掛かった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」
女は右手を開いてアランに向け、気功波を放ち、アランを遠くへ飛ばした。
「っがぁっはぁぁぁっ!!!」
アランの胸部の骨は砕け、息が出来ないほどの衝撃が重く伸し掛かった。飛ばされたアランは、地面に体を叩きつけられ、動かなくなった。
「……ぉ……ぉ………………ぁ…ぁ………」
女はニヤけた。そして、レオとネネカとアランの倒れる各地面に魔法陣を出し、3人を消した。
「…もがき…苦しめ……人間。」
「………………これが全てっす……」
「…………そんな………酷すぎるよ………………」
アランが言うと、クレアは涙ながらに口を開いた。夜空の下、パーニズの小屋はいつもとは違った静かさを見せている。
「どうやら、グレイス・カーリーで間違いなさそうだな。ヤツは確か、ダークネスの四天王の1人だったな。」
エレナスが言うと、マリスは立ち上がり、リュオンを睨んだ。
「さっきグレイスに会ったんだよね?どうして倒さなかったのっ!?」
「ちょっとの時間泳がすだけだ。なぁに、俺の娯楽さ。お前らには関係ない。」
「そんな事して良いわけっ」
「やめて下さいっ!!」
リュオンとマリスの間にネネカが入った。頬は濡れている。
「ここで争ってはいけません…………。今は……ドーマさんの事を受け入れさせて下さい…………」
「…………ネネカ…」
ネネカの言葉を聞いて、アランは体の力が抜けた。すると、カウンター席に座っているレオが、グラスの氷の音を鳴らして口を開いた。
「……そう……だね…………受け入れよう…………ゆっくりと………………。大切な仲間…………大切な人が死ぬと………………狂ってしまうほど………………悲しくなるから……………………。」




