幸せは風に吹かれ
レオは1人浜辺に座って、糸や針などの素材に囲まれて作業をしていた。作業に集中していると、波の音さえ聞こえない。
数時間前……
「……そうですか……パーニズには……行けないんですか…………」
落ち込んだレオの表情に、村長は口を開いた。
「……1つ手がある。レオよ、サブ職はやっておるか?」
「はい、一応クラフターを。」
「そうか。ならば、お前さんの力が試されるな。明後日には、この村にヴィーキングの集団が大きい船に乗ってやって来る。そこで、お前さんは漁に使う道具を多く作って、交渉するんじゃ。道具を渡すかわりにパーニズまで乗せてってくれとな。やれるな?」
村長の言葉にレオは顔をあげ、大きい声で返事をした。
「はい。できます。やらせて下さい。」
浜辺で作業をするレオが気になって、槍を背負ったカレンはレオに近づいて声をかけた。
「どう?上手くいきそう?」
「うん。村の人達が質の良い素材をくれたからね。一応、釣り針や仕掛け網を自分なりに作ってみたんだ。どう?」
レオはカレンの手の平に釣り針を置いた。
「うんっ、良いんじゃないかな。交渉成立間違い無しだねっ!」
「……いや、まだ足りないよ。ヴィーキングの皆はこの荒れた海を渡るんだ。予定では、僕のために……もっと良いものを作らなきゃ。」
すると、レオとカレンに何かが近づいてきた。羊のような姿をしている。
『…………メェェッ。』
「……………カレン、これって魔物…?」
「うん。スシープっていうんだ。魔物だけど、悪い事はしてこないの。背中に魚の肉を乗せていることから、そういう名前になったの。可愛いでしょ?」
『…メェ。』
スシープはレオの作った道具を見つめて、首を傾げた。背中に乗った赤身のネタの艶が綺麗だ。
「…………なんで魚の肉を乗せてるの?」
「特に意味は無いらしいよ。そういうところも可愛いじゃん?」
『メェェッ。』
すると、スシープは何事も無かったかのように、遠くの森の方へと歩き出した。
「……それでレオ君、何か手伝えることある?」
「う〜ん……あのさ、ヴィーキングの道具以外に、この村のために魔物除けの柵を作ろうと思うんだ。この近くに魔物が来ない所ってある?そこに使える物があると思うんだ。」
レオが言うと、カレンはしばらく首を傾げて考えた。とても小さな声で何かを呟きながら眉間にシワを寄せている。
「……あっ、近くはないけど、南にサイスっていう国があるんだ。そこの洞窟の中にファントムフラワーっていう蛍光色の花があって、魔物を寄せつけない効果があるんだ。私も一緒に行くよ。」
「うん。ありがとう。」
カレンの言葉を聞いて、レオは道具を置いて立ち上がった。するとカレンは何かを思い出したかのように家へ走り、中に入った。しばらく待つと、カレンは家を出て、走ってレオの元に戻ってきた。
「ごめんっ、リィルにまた留守番頼んできたんだ。」
「あはは、大変だね。でもリィルは良い子だから大丈夫だと思うよ。」
「私はリィルのお姉ちゃんだから、つい心配しちゃうのっ。……じゃあ行こっか。」
「うん。」
2人は村を出て、砂の上や森の中を歩いた。木々に囲まれていても紫色の曇り空からは雷の音が聞こえ、冷たい風が肌を刺すように吹く。レオは先を歩くカレンに口を開いた。
「カレン。そういえば、なんで君はあの村にいるの?」
「…ぁ…えっと………色々あってね…………」
カレンの歩幅は小さくなった。カレンの表情の変化に気付いたレオは、なぜ口に出たのだろうと後悔し始めた。
「レオ君、ちょっと前にパーニズに温泉建てたよね。完成した時、私のパーティの皆が元気になって、俺たちも協力して元の世界に帰ろうって言ったんだ。それで、海の秘宝入手クエストに挑んだら……皆魔物に殺されて…………。気付いた時には、レオ君みたいに浜辺で倒れてたんだ…………。」
カレンの頬に一筋の涙が流れた。カレンの言葉を聞いたレオは胸が痛くなり、無言で胸を押さえる事しかできなかった。
「……そんな事があったなんて……ごっ……ごめん……軽い気持ちで質問して……」
「いいの。……そんな時、あの村の人達が助けてくれたり、慰めてくれてね。それで、恩返しをしようと思って、村で過ごす事にしたの。」
カレンは涙を人差し指で払うと、少しだけ笑みを浮かべて、レオの顔を見た。
「ごめんね。悲しい話しちゃって……」
「いや…………謝るのは僕のほうだ。辛い事思い出させてごめん。」
「良いの。あの時の自分は弱かった……それだけだから。これからは死んでしまった仲間の分まで強くなって、多くの人を幸せにするんだ。」
すると、2人の前に大きな洞窟が現れた。中を覗くと薄暗く、所々蛍光色に光っている。
「レオ君、ここがファントムフラワーが取れる洞窟だよ。入ろっ。」
「うん。」
レオとカレンは洞窟に入り、足元に気をつけると同時に、所々に咲く蛍光色のファントムフラワーを見回して奥へ進んだ。少し肌寒い。
「綺麗だね。」
「でしょ?この花のおかげで、この洞窟には魔物は入って来ないんだ。もっと奥に花畑があるんだけど、そこの花を取って行かない?」
レオは頷いた。2人はしばらく歩くと、広い空間にたどり着いた。視線の先の地面には数えきれないほどの光る花が咲いている。薄暗い中、2人はその光景に感動して瞳を輝かせた。
「綺麗……」
「ほんと…………すごい…………っ」
レオの脚に何かが巻きついた。




