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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
83/206

侵入者

“ だが、忘れるな。我らダークネスは永遠に不滅だということを…。”



“ ヒト、嫌いだ!!ヒト、大っ嫌いだぁ!!”



“ 無駄だと言っている。結果は同じだ。俺の見る未来は貴様らの死を語っている。”




“貴様は危険だ。”


“レオ”


“レオ・ディグランス・ストレンジャー。”




「…………っ!!」


 レオは目を覚ました。奇妙で生々しい声を感じた。首の血管と胸の鼓動がレオを恐怖心で包む。仰向けのレオは、上半身を起こしてゆっくり辺りを見まわした。薄暗い。小屋だろうか。空いた窓から潮風の匂いが漂う。


「………………どこ……だ…………」


 そしてレオは、自分にかけられた毛布に気付くと同時に、裸体のあちこちに巻かれた包帯に少し驚いた。右に自分の鎧や服がある。


「あっ、起きた。お姉ぇちゃーーんっ!!」


 左には小さな女の子がいた。女の子は空いた窓の方を見て大声を出した。女の子の着ている服は、砂で汚れていて、少し貧しさが感じられる。


「はいはーい、ちょっと待ってねぇーっ。」

「…………お姉……ちゃん…………?」


 レオは女の子の元気な眼差しを見つめて呟いた。すると、正面の扉が開き、槍を背負った1人の女の人が入ってきた。


「リィル、お留守番ありがとっ。大丈夫?レオ君。」

「君は…………カレン…………?」


 レオはボヤける視線で、女の人の顔を見つめた。彼女の名はカレン・アルトハール(カレン)。レオの同級生だ。


「お姉ちゃんっ、この人、さっきも苦しそうに寝てたよっ。」

「リィル、“この人”じゃなくて、レオ君だよ。レオ君、何があったの…?」


 日に焼けた肌をしたカレンは壁に槍を立て掛けると、心配そうな顔をしてレオに近づいた。


「…………ぼ……僕は…………」

「昨日、リィルと砂浜を歩いていたら、レオ君が倒れてたんだ。魔物にやられたの……?」


 レオは思い出そうとした。だが、答えようとしても言葉が口に出ない。レオはとりあえず、首を縦に振った。


「カレン……ここは…………どこなの…………?」

「オーリン。海に囲まれた国だよ。それの小さい村。」

「…………オーリン…………」


 レオは初めて聞く国の名前に、肩の力を落とした。体中の切り傷や痣が痛い。外からは、海の音が微かに聞こえる。


「お姉ちゃんお腹すいたぁー。」

「うん。待っててね。……レオ君も食べる…?焼き魚で良ければ。」

「……ありがとう。」


 レオが言うと、カレンは微笑みボロボロのエプロンを着て、錆びたコンロで3匹の魚を焼き始めた。


「………怪我を見てくれたのって……カレン……?」

「あっ、うん。そうだよ。……き…気にしないで。怪我以外は……何も見てないから…………。」


 カレンはレオの横に置かれた服をチラチラと見て、頬を赤くして言った。


「そっか…………ありがとう。」


 レオは、体に巻かれた包帯を撫でるように触って言った。


「とっ……とりあえずっ…………服着なっ。」

「うん。」


 レオは右に置いてある服と鎧を着て、剣を腰の鞘に入れて、ゆっくり立ち上がった。


「焼けたよ。レオ君、リィル、そこの椅子に座って。」

「はーいっ!」


 リィルが返事をすると、3人は椅子に座り、焼き魚にかぶりついた。焼きたての白く柔らかい身が美味しい。


「美味しいねっ、お姉ちゃんっ。」

「そうだね。」

「…………カレン……お姉ちゃんって……?」


 レオはカレンとリィルの笑みを見つめて問いかけた。


「話せば長いんだ。…まぁ、簡単に言うと、この村に住んでいる人は、みんな家族みたいなものだから。」

「そうなんだ…………。ところで、さっき僕が寝てる時、槍を持って何してたの……?」


 すると、カレンの動きが数秒止まった。


「…………実は、最近……海も空も荒れてて、一昨日から魔物が村に侵入してくるんだ。それで…」


「たっ!!大変だぁぁっ!!3匹のシーマンが現れたぞっ!!」


 外から男の声が聞こえた。するとカレンは焼き魚を置いて立ち上がり、槍を持って扉を開けた。


「お姉ちゃんっ…」

「リィル、待っててね。すぐ戻ってくるから。……家から出ちゃダメよ。」


 するとレオも立ち上がり、カレンの前に立った。


「僕も行く。」

「ダメだよっ、レオ君まだ怪我治ってないし。」

「戦わないと気が済まないんだっ!!」


 レオは急に大声を出して言った。小屋の中はしばらく静まり、その後カレンが口を開いた。


「……無理しないでね。」

「うん…………ごめん。」


 2人は外に出た。空は紫色の雲で覆われ、海は荒れている。強い潮風の先には、3匹の魔物が立っていた。サメのような顔と体に、ワニのような手足。右手には槍を持っている。シーマンだ。


「またアンタ達ね……レオ君、気をつけて。」

「うん。」


 カレンが槍を握って言うと、レオは鞘から剣を抜き、構えた。


『ガァァァァァッ!!』


 3匹のシーマンが2人目掛けて走ってきた。カレンは1匹のシーマンを蹴り飛ばし、もう1匹の槍と自分の槍を交わるようにして押し合った。


「……っ!!…………くっ……!!」

「“ソードテンペスト”っ!!」


 レオは3匹目のシーマンに剣を振り、軌跡を放った。シーマンは槍で軌跡を弾き、再びレオの方へ走り出した。


『ガァァァァァ!!』

「っ!!」


 レオは右に転がって回避した後、シーマンの背後目掛けて体勢を低くして走り出し、剣とともに横に回転した。


「“回転斬り”っ!!」


 シーマンの脚が切断され、大量の赤い血を噴き出すと、レオは回転をやめ、剣を上へ振りながら高く跳んだ。


「“ライズスラッシュ”っ!!」


 両脚を失ったシーマンの背は縦に斬られ、血を噴き出して倒れた。レオは死体の前に着地した。


「……っ!!“スクリュー・ストレート”っ!!」


 カレンはバク転をして後ろに下がり、槍に竜巻きを纏わせて、シーマンの胸に突き出した。槍の先はシーマンを貫き、シーマンは赤い血を吐いて膝をついた。


『ガァァァァァァァッ!!』

「しまったっ!!」


 先ほど蹴り飛ばしたシーマンが、カレンに飛び掛かった。カレンは刺した槍を引き抜こうとするが抜けない。その時。


「はぁっ!!」


 レオはシーマンの正面に跳び、勢いでシーマンの喉を蹴って、真下の砂に叩きつけた。


『ガァァッ!!……ガァァァァァ!!』


 シーマンは立ち上がり、目の前に着地したレオに槍を突き出した。


「レオ君!!危ないっ!!」


 カレンが叫ぶと、レオはすぐに顔を上げ、槍を左手で掴み、シーマンの右腕に剣を振り、切断した。


「ふっ……はぁっ!!」


 レオは左手に持った槍を回転させた後、脚に力を入れてシーマンの喉に槍を突き出して貫いた。シーマンは血を吐いて膝をついた。レオは槍を離し、剣を鞘に入れてカレンの方を見た。


「……大丈夫?カレン。」

「…………う……うん…………。」


 カレンは瞬きをすることなく、レオの顔を見つめた。強い潮風に吹かれながら立つレオの姿は逞しく思えた。

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