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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
81/206

見えない足跡

 砂埃の舞うギルシェのパルティム神殿の中は、何やら騒がしい。


「おぉ…なんという事だっ……!!」

「ま…まさか……こんな事がっ……!!」

「おぉ……神よ…………!!」


 10人の僧侶が驚き、拝み、慌てている。すると、神殿にライラが入ってきた。


「おいおい……どうしたんだ、お前達……うるさいぞ……」

「あっ……ライラさんっ…………女神様がっ……女神様がご降臨なさったぞ!!」


 1人の僧侶が、ライラに主祭壇の方を見るよう言った。ライラは疑った表情で主祭壇に近寄った。


「……女神様…………?何を言ってるんだ。そんなはず…」


 ライラは足を止めた。視線の先に映る主祭壇の上には、ローブを着た1人の少女が仰向けになっていた。ライラは少女に驚き、すぐに近づくと、少女の肩を揺さぶり、声を掛けた。


「大丈夫っ?聞こえるっ…?」

「ちょ……ライラさんっ……まずいですって!!女神様ですよ!!そんな事したらっ…」

「この子は女神様じゃない。……っというか、お前ら下がれ……この子は俺の知り合いのネネカだ。」







“私のせいで…………私のせいで…………私のせいで…………私のせいで…………私のせいで…………私のせいで…………!!”







「…………ぅ……」

「あ、ネネカさん……大丈夫………?」


 ネネカは目を覚ました。見覚えのない天井が目に飛び込んできた。右から声が聞こえたので、顔を向けると、そこには心配そうな顔をしたライラがいた。


「…ラ…ライラさんっ………こ……ここは…………」

「ギルシェのパルティム神殿だよ。」


 ネネカは、寝ている姿を見られた事が恥ずかしくなって、耳の先まで赤くした状態で上半身を起こした。


 パルティム神殿には、以前ハーピーを討伐する時に来た事があったが、その時の神殿の姿とは比べものにならないほど綺麗になっている。四方八方で輝くステンドグラスが眩しい。


「それで、何があったの……?なんでここに……?レオさんやアランさんやドーマさんは一緒じゃないの……?」

「…………分かりません……」


 ネネカは下を向いた。ライラはその表情を見て困った。


「じゃあ…………ちょっとずつで良いから、思い出そうか。」

「…………はい。…………確か………ダークネスとの戦いがあって……」

「……一昨日か……それで……?」


 ライラは問い詰めることに少し躊躇したが、またネネカに問いかけた。


「……えっと〜…………朝ご飯に……ハンバーグを食べました…………」


 ネネカの口は閉じた。少し涙目になっているのが分かる。


「その後は…………分かりません……………。」

「…………そっか。ありがとう。」(でも何で、こんな所にネネカさんが………しかも1人……………昨日の戦いで、一体何が起こったんだ………………?)


 ライラは頭を抱えた。どう考えても、事と事が結びつかない。天井近くで微笑む女神像を見るたび、なぜか心が焦る。


「そういえば、気絶してたようだけど、怪我はない?」

「あっ……はい…………大丈夫です……。」


 ネネカの言葉を聞くたびに、謎が深まるばかりだった。ライラはネネカに質問するのをやめた。


「とりあえず、エポナに乗ってパーニズに戻ろう。」

「えっ……ペガサスじゃないんですか?」


 ネネカが言うと、ライラは少し困った顔をして、外を見た。


「昨日から空の様子が変なんだ。全面紫色に曇ってて、頻繁に雷が鳴って……とにかく、今はペガサスは出せないんだ。」

「そうですか…………ところで、エポナとは何ですか……?」

「えっと……簡単に言えば、俺達が本来乗ってるペガサスの角無し翼無しってかんじかな。」


 ライラの言葉を聞くと、ネネカはゆっくりと主祭壇を降りた。耳をすませば、外から雷の音が微かに聞こえる。


「よし、この中で動ける人はいるか?2人でいい。エポナでシルクロードを東に進み、チャナへ向かうぞ。」


 ライラが言うと、周りにいた数人の僧侶全員が挙手をした。


「私が行きましょう。」

「私は大丈夫です。」

「共に参りましょう。」

「………………じゃぁ……レニファとランドロイ。外に出てエポナの準備を。」


 ライラに指名された老婆とひげの男は、外に出てエポナを4頭引き連れて教会の入り口に立った。


「よし、じゃあ行こうか。ネネカさん。」

「あっ………はい。」


 4人はエポナに乗り、チャナへ向かった。ライラが言ったとおり、空は紫色の不気味な雲に覆われており、胸を打つような雷の音が聞こえる。


「あ、そうだ。この先はシルクロードだから、必ずって言って良いほど、エポナに乗った商人達とすれ違うんだ。気になる商品見つけたら、その人止めて何か買っても良いよ。」

「あっ…はい。ありがとうございます。」


 ライラの言葉にネネカが反応すると、ランドロイがネネカの顔を見て口を開いた。


「にしても可愛いなぁ、歳はいくつだぃ?」


 すると、2人の間に入るように、レニファがエポナを歩かせた。


「ちょっとあんた、僧侶のクセして心がなってないよ。悪いねぇ嬢ちゃん、名前は?」

「……ネネカです。」

「おぉ、優しくて良い名前だ。さぞ両親も良い人であろぅ。……おっと、あれは……お〜い、お待ちなさいな〜っ!」


 すると、前から1人の商人がゆっくりと近づいて来た。少し大きなエポナに乗って、大きな荷物を運んでいる。そして近づくにつれ、芳ばしい良い匂いがしてくる。4人と商人は隣になって止まった。


「トロンコッカーの骨付き肉あるかい?4つおくれ。」

「はいよぉ、200セリアねぇ。……おっと、ライラさんじゃぁねぇかぁ。どちらへ?」


 商人は肉を4つレニファに渡すと、レニファから金を受け取りながら、ライラに話しかけた。


「色々あってね。話せば長くなるんだ。このままシルクロードを進んでチャナに向かって、その後パーニズに行くんだ。」

「そうかぁ。だと、道なげぇから大変だなぁ。この天気、よく分かんねぇからぁ早めに行きなぁ。じゃなぁ。」


 そう言って商人はエポナを再び歩かせ始めた。レニファが肉を3人に渡すと、4人もエポナを歩かせ始めた。


「……そういえば、ライラさんはなぜギルシェに居たのですか……?」


 ネネカは小さい口で肉を食べながらライラに問いかけた。


「あぁ、特に理由はないんだけど、ダークネスとの戦いをした後に、必ず教会に行くんだ。今回の戦いで自分は何を救えたのか…何が足りなかったのか……目を閉じて、振り返るんだ。レニファとか、ランドロイとか、さっきの僧侶達も、その仲ってわけ……」


 すると、ランドロイはライラにエポナを近づけ、ライラの肩に腕を置いた。


「仲ってなんだよぉ。弟子って言えよぉ。弟子ってぇ。」

「うるさいなぁ、やっぱり帰れよランドロイ。」


 その後も数人の商人とすれ違ったが、4人は先へ先へと進んだ。砂埃舞う静かな道を。

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