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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
秘宝編
79/206

血よ…生命よ……

“約束…………いいですか……?”


“……うん。”


“絶対に私を一人にしないでください…。約束……です……。”


“分かったよ。絶対一人にしない。”


 人は……いや、人間は、なぜ生きるのだろう……。生きたいからか……死にたくないからか……幸せを掴むためか……誰かのためにか……何者かに言われたからか……願いを叶えるためか………大切な人との約束を果たすためか………。


 どう足掻いても、運命は決まっている。……ある者が言った。人と人との出会いは、限りなく低い確率で起こっていると。しかしその出会いが、もし決まっていた事だとしたら……


 過去は変えられなくても、未来は変えられる。誰かがそう言った。……しかし、この言葉の“未来”が決まっていた運命なのだとしたら…… この世界はとても狭い所なんだと……そう思ってしまう。


 運命という光。運命という闇。もし、世界がそういったものに縛られた場所であるのなら、限りなく青く澄んだこの空を飛ぶ鳥たちでさえ、窮屈に思えてくるに違いない。


 もし、世界が……自分が……決まった道だけを進んでいるのなら……。それ以外の道、可能性が見つからなかったら悲しいだろう。でも


 悲しくなったら泣けばいい。……涙を流せばいい。


 そして、涙を流したのなら、その雫の数だけ、明日…未来への幻想を思い浮かべる。それだけでいい。


 思い浮かべた幻想で、あなた自身が笑えているのなら……それでいい。





 禍々しい空が広がる異空間の中で、男は両手の剣を握り締め、レオとアランとドーマと倒れているネネカを睨んだ。鋭い視線は、既に4人の魂を喰らっている。レオとアランは男の腕の動きだけに集中している。


「もういい。早く片付けよう。貴様らを消した後、貴様らが世話になったライトニングの世界を消しに行くからな。……こちらも暇ではないっ!!」


「アラン、いくよっ!!」

「分かってるっ!!」


 男が勢いよく飛び出すと、レオとアランも同時に飛び出し、攻撃を放った。3人は剣と剣、剣と拳を弾き弾かれながらも、脚に力を入れ、攻撃の重さに押し潰されぬように耐えた。3人の間に、火花と響く音が溢れる。


「どうした、先ほどのように攻撃をしてみろ。俺が血を吐くほどのなぁっ!!」


 男が右手の剣で大きく振り掛かると、ドーマは遠くから素早い矢を放ち、男に飛ばした。男は右手の剣の方向を変え、矢を斬り刻みつつ、左手の剣に炎を纏わせて回転した。


「“バーニングブレイド”っ!!」

「うっ………くっ!!」


 舞う炎の熱さに、レオとアランは腕を交差させて身を守りつつ後ろに下がったが、炎が消えた瞬間に飛び掛かり、攻撃を放った。


「なぜ戦う?俺には未来が見えるのだぞ。どう勝とうと言うのだ。」

「うるせぇっ!!何かしら“手”はあるはずだっ!!テメェをぶっ殺す“手”がなぁっ!!」


 アランはそう言って、銀色の重い両腕を、男の顔面目掛けて何度も伸ばし続けた。男の鋭い目は拳の1つ1つと、剣による斬撃の1つ1つを捉えて、剣で弾き、避けている。


「ではその“手”とやらを早いうちに見つけるんだな。俺に殺される前にっ!!」

「アラン危な……」


 男が右手の剣を真っ直ぐ突き出すと、レオは一歩踏み出し、刃を右腕に受けた。刃が走った腕からは赤い血が流れ出し、指先までもが痺れるような痛みが右腕を中心に熱さとなって溢れ出る。


「レオっ!!」

「“エレキ・トロン”っ!!」


 男が左手の剣に雷を纏わせて横に振ると、アランは銀色の右腕で受け止めた。しかし、刃がその腕と火花を散らした時、アランの全身に、光を裂くような雷が走り、爆音とともにアランを激しく包み込んだ。


「あぁぁああぁあぁぁあぁぁぁっ!!」

「いっ…………!!アランっ!!“回転斬り”っ!!」


 レオは指先まで血が流れた右腕を揺らしながら、体勢を斜めにして、剣を握って回転した。男はアランの腕から剣を離し、2本の剣でレオの剣を受け止めた。


「ふっ、そんな攻撃で」

「“ソードテンペスト”っ!!」

「何っ!?」


 レオは剣を斜めに振り、男に軌跡を放った。男は後ろに転がり、地に手をついてレオを睨んだ。レオの剣の先は赤く染まっている。


「くっ……ゼロ距離でっ…………!!貴様ぁっ!!」


 男は頭から血を流して、レオに飛び掛かった。2つの刃はレオに向かって飛んできた。レオは1本の剣を剣で受け止めたが、もう1本が右から襲い掛かる。その時だった。


「!!……貴様っ……」

「くっ…………はぁっ……はぁっ…………!!」


 アランだ。雷に包まれた体からは黒い煙が湧き上がる。そして、レオが止めることの出来なかった剣を右手で掴んでいる。しかも銀ではない。素手だ。


「ぁっ……!!アランっ!!」


 アランの手の平からは赤い血が滴り落ち、刃をしっかり握っている。


「貴様っ、何をっ…!!」

「“メガ・クラッシャー”ぁぁぁぁっ!!」


 アランは小さく跳び、右足を男の腹部に突き出した。


「うっ!!うぼぁぁっ!!」


 勢いで男は少し後ろに下がった。同時に2本の剣を引いたため、アランの手の平からは血が流れ出した。


「いっ……!!」

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 男は赤い血で染まった左手の剣を2人に向け、歯を食いしばった。


「死ねぇぇぇぇっ!!“デストロイ・バースト”ぉぉぉぉっ!!!」


 その時、男の剣から紫色の稲妻を纏った巨大な波動を放ち、景色全てを禍々しい闇の光で染めた。耳の鼓膜が裂ける程の爆音、吹き飛ばされそうな程の強風。男は頭から血を流しながら、それを見て笑った。大声で笑った。




「…………ふっ……!!人間よっ!!これが運命(さだめ)だっ!!」


 男の周りには先が見えない程の砂埃が舞っている。奇妙に静かだ。男の声以外何も聞こえない。


「………………………………………………………………………………………………………………………………!!」


 砂埃が薄くなると、2人の姿が見えた。弱った体をたった2本の脚を震わせながら立っている。それは、どんなに目を開いても、レオとアランだった。


「……なぜっ……」

「………………“ガード…………ファントム”……」


 遠くを見ると、ネネカは倒れたまま、2人に必死に腕を伸ばしていた。


「ちぃっ!!まだ生きてい…」


 その時、男は何かを感じた。何の感覚なのか分からない。そして男は感覚に心を沈め、時に目を向けた。


 男の脳内に1つの言葉が浮かび上がる。額から一筋の汗が流れた。




          “(のが)れられない”




 男の胸から大量の赤く熱い血が噴き出し、その大穴には心臓は無かった。砂埃の煙幕の先を見つめると、1つの陰が静かに立って、赤い髪を靡かせていた。ドーマだ。


「“シューティングスター”……」



「きっ…………………………!!貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」




 男は血を吐いて叫び、その命という翼を、この砂埃に包まれた禍々しい空間の地におろした。

 ………………静かに……………………。

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