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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
秘宝編
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あの日の優しさ

 10年前のよく晴れた日のことだ。保育園の庭では子供達が元気に遊んでいた。砂場には、レオとアランとベリルとモルカが砂の山を囲むようにしゃがんでいた。


「わたし、おおきくなったらレオくんとケッコンするっ!!」

「モルカもっ!レオくんとぜったいケッコンするぅっ!だってレオくん、やさしーもんっ!!」


 ベリルとモルカが大きな声で言った。レオは砂遊びに使う鉤爪のような物を持って2人を見た。


「うっ、う〜ん〜……」

「でも、2人もいっしょにってのはムリらしいぜ?どうするよ?レオ。」


 するとレオは、保育園の入り口に1人の大人の女性と1人の保育士が話しているのを見つけ、それを見つめ始めた。女性の後ろの下には、小さな女の子が女性のズボンを掴んで隠れていた。


「どうした、レオ?めずらしいムシでもみつけたか?」

「ううん…ちがう。あそこにいるコって…」


 レオが言うと、3人はレオの視線の先を見つめ始めた。しばらく見つめると、モルカが女の子を見て口を開いた。


「あ〜、ネネカちゃんか……。もうオヒルなのに、いまくるなんて、おそすぎるわよ。」

「ネネカちゃん、これで4かいめよ。そんなにあそぶのがキライなのかな?あれじゃあトモダチできないよね〜。」


 すると女性とネネカは、保育士と共に中へ入った。レオは少し気になって、立ち上がった。


「おっおい…レオ。どうしたんだ?」

「あ、えっ…とぉ〜………と、トイレいってくるっ!」


 レオは砂遊びの道具を置いて走り出し、中へ入った。



「……それで……うちの子は皆に馴染めているんでしょうか…………?」


 レオは声の聞こえた部屋を覗いた。そこには、椅子に座って話す女性と、保育士の姿があった。ロッカーが並ぶ奥の方では、ネネカが1人で人形を持って遊んでいる。元気が無さそうだ。


「そうですね………ネネカちゃん、ちょっと恥ずかしがっちゃうところがあるので、ちょっとでも勇気を出してくれれば友達も増えるんじゃないですかね。ほら、ここの園児、みんな良い子ですから。」

「…そうですか………実は今日もネネカが、友達できないから行きたくないって言って遅く来たんです。これからどうなるのか……この子が心配です…………」


 保育士と女性は、そう言って元気の無いネネカを見つめた。しばらくすると、女性は立ち上がり、保育士に軽く頭を下げて部屋を出た。廊下にいたレオはすぐに隠れた。女性のスリッパの音がどこか寂しい。


「……ネネカちゃん、お外で遊ばない?お友達、待ってるよ?」

「…………いいの…………ひとりであそぶ…………」

「………………そっか。私、ちょっと他の部屋でお仕事あるから、いつでもお外に遊びに行っていいわよ。」

「…………うん……」


 ネネカが頷くと、保育士は心配そうな顔をして部屋を出た。レオは1人になったネネカを見ると、部屋に入り声をかけた。


「…ね……ねぇ、」

「……!れ……レオくん…………なに……?」


 ネネカは少し驚いた顔でレオの顔を見つめた。レオはネネカに近づき、正面に座った。


「そとであそばないの……?」

「…ぅ……うん……。わたし、はやくはしれないし……ムシ…こわいし…………はなそうとすると、なんか……キュッ…となって…………」

「………そっか。」


 レオは、少し涙目で人形を抱くネネカに優しく微笑んだ。そして、レオは箱からクマのぬいぐるみを出して、ネネカの前で歩かせた。


「じゃあさ、いっしょにあそぼ?……ね?」

「ぅ……うんっ。」






「……皆より長く生きれて嬉しいだろう。」


 男は、膝をついて動けなくなったネネカの前に立ち、剣を握った。


「だが、もうすぐ貴様も喜怒哀楽を失う。あの3人のようになぁっ!!」

「…………ない…………」


 ネネカは小さく口を開いた。


「……なんだ?」

「…………死なせない…………死なせないっ…………!!」


 ネネカは涙を流して男の顔を見上げた。


「死なせないっ!!!」

「っ!?」


 その時、ネネカの体から綺麗な緑色の光が放たれ、その光は倒れたレオとアランとドーマを優しく包み込んだ。


「なっ…なんだこれはっ……!!貴様っ!!何をしたっ!!」

「私のせいで…………私のせいでっ…………!!」


 ネネカの目からは涙が溢れ出てくる。突然の出来事に男は驚き、両手の剣を強く握った。


「答えろっ!!何をしたっ!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 男は声を聞くとすぐに振り向き、両手の剣で攻撃を受け止めた。そこには、先ほどまで死体のように倒れていたレオがいた。


「貴様っ!!なぜっ!!…っ!!まさかっ……」


 男は振り返り、ネネカを見ると、彼女は眠っているかのように倒れていた。頬が涙で濡れている。


「チィッ!!だが二度来たところで結果は同じだ!!次は容赦しないぞ!!」

「黙れぇぇっクソ野郎ぉぉぉぉっ!!」


 怒り狂った声の方を見ると、そこには両腕を銀色に光らせて走って来るアランがいた。体中の傷は消えている。


「貴様もかっ!!…っ!!」

「“みだれ矢”っ!!」


 男の頭上に、蛇のような動きの矢が5本飛んできた。男はレオの剣を振り払い、矢を回避した。


「あの女っ、胴体を斬ったはず…何が起こった………まぁいい、貴様らのヒーラーはもう動けない。もう一度俺という恐怖を味わい、………心置きなく死ねっ!!」

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