アポカリプス
旅からパーニズに帰ったレオ達は、ギルド小屋に向かった。先程の戦闘で剣が折れた事を伝えるためだ。レオは小屋の前に立ち、ドアノブを掴んだ。いつもより扉が重く感じる。
「…………御邪魔します……。」
「おや、これはどうも。……どうなさいました?」
エルドはいつものように落ち着いている。レオは何かに胸を締め付けられた気がして、深く頭を下げた。
「エルドさんっ!!すみませんっ!!エルドさんが作ってくれた剣…折ってしまいましたっ!!」
「……エルドさん。これ……折れた剣です。」
ドーマはポーチから剣の柄を取り出し、エルドに見せた。エルドはそれを受け取り、折れた部分を見つめた。
「レオさん、謝らなくても結構です。たかが私の作った剣です。…………変わった毒ですね。……ポイズングロリアスの討伐、お疲れ様でした。」
「えっ、毒なんかで分かるんですか?」
ネネカは冷静なエルドの顔を見て言った。
「はい。しかも、今回あなた達が討伐した魔物はただの魔物ではありません。」
「…た、ただの魔物じゃないって……どう言う事っすか?」
「アランさん……いえ、皆さん。これは大変な事です。そのポイズングロリアス、他の毒属性の魔物との融合体です。つまりこれは、敵軍から渡された実験。ダークネスが来る日が迫っているという事です。」
エルドは静かに剣の柄を置いた。
「ちょ、何言ってるのか分からないんすけど?」
「おいレオ。お前が鞘に入れているそれ、出せ。」
リュオンはタバコを咥えてレオの腰に指をさした。レオは剣を抜いた。
「ふっ……やはりな。そいつの名はアポカリプス。その剣を手にした者には、ある権利が与えられる。」
「……権…利…………?」
レオは剣の光沢に映る自分を見つめた。
「ダークネスがこの世界に来るのは恐らく明日。そこで皆さんに一つ質問が…」
エルドは目を閉じ、人差し指を立てた。そして、ゆっくり目を開けた。
「レオさんに問います。あなた達、人間は、ダークネスに立ち向かう勇気はありますか?」
レオは真っ直ぐな眼差しで頷いた。それを見たエルドは、リュオンとしばらく向き合い、レオに口を開いた。
「それではレオさん。ついてきて下さい。」
エルドはカウンターから出て、扉を開いた。
「あの…アタシ達は……?」
「同行は構いません。行きましょうか。」
エルドが言うと、四人は小屋を出て、エルドについて行った。空は暗く、夜を迎えようとしている。町の住人は玄関のランプに火をつけ、兵士は松明を持った。
しばらく歩くと、エルドと四人は城の中へ入り、赤いカーペットの上にいた。エルドは止まることなく玉座の間へと歩いた。大きな扉を前にすると、左右に立つ兵士が槍を立てて道を開けた。
「感謝します。では、行きましょう。」
左右に立つ兵士が大きな扉を押して開くと、五人は部屋に入った。視線の先には、椅子に座る王と、隣に立つエレナスがいた。エルドは片膝を床につき、頭を下げた。レオ達も、エルドの真似をするかのように頭を下げた。
「エルドよ。その後ろの者も、顔をあげてもよいぞ。」
「はっ。感謝致します。」
五人は顔をあげ、王の顔を見た。
「王よ、時が来たことを報告するため、ここへ来ました。我らが討つべき者達、ダークネスは、明日このライトニングに姿を現すはずです。そこで………レオさん、剣を。」
エルドがレオを見て言うと、レオは鞘から剣を抜き、王に見せた。
「おぉ……それはアポカリプス…。この世界の伝説の剣の一つ……。その者よ、以前は名を聞き忘れていたな。名は?」
「レオ・ディグランス・ストレンジャー…………レオです。」
「レオよ、こちらへ。」
王が言うと、エルドはレオの方を向き頷いた。レオは立ち上がり、王の前に立った。
「これまでのお前の働きはよく分かっておる。積極的に秘宝を集め、町を賑やかにし、時には仲間を立ち上がらせた。」
「……いえ。……僕だけではありません……。後ろにいるアラン、ドーマ、ネネカの力があったからこそです。」
レオが言うと、アランはレオを見て口を開いた。
「おいレオ、自信持てよ。王様、このパーティを作ってくれたのはレオなんす。」
「アラン…」
レオはアランの方を向いた。
「そうだ。レオがいなかったら、アタシ達、今頃どうなってたか……」
「ドーマ…」
「レオさんは、私に夢を与えてくれました。レオさんがいる…そう思うだけで、立ち上がれる気がするんです。」
「ネネカ…」
レオの瞳には三人の笑みが映っていた。
「うむ……。レオよ、一つ問おう。共に、戦ってくれるか?」
「……はい!」
「それでは、お前に権利を与える。」
すると、周辺に立っていた兵士全員が槍や剣で床を叩いて音を鳴らし、その後片膝を床について頭を下げた。
「レオ・ディグランス・ストレンジャー。お前に特別許可職の勇者になる権利を!!」




