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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
秘宝編
73/206

アポカリプス

 旅からパーニズに帰ったレオ達は、ギルド小屋に向かった。先程の戦闘で剣が折れた事を伝えるためだ。レオは小屋の前に立ち、ドアノブを掴んだ。いつもより扉が重く感じる。


「…………御邪魔します……。」

「おや、これはどうも。……どうなさいました?」


 エルドはいつものように落ち着いている。レオは何かに胸を締め付けられた気がして、深く頭を下げた。


「エルドさんっ!!すみませんっ!!エルドさんが作ってくれた剣…折ってしまいましたっ!!」

「……エルドさん。これ……折れた剣です。」


 ドーマはポーチから剣の柄を取り出し、エルドに見せた。エルドはそれを受け取り、折れた部分を見つめた。


「レオさん、謝らなくても結構です。たかが私の作った剣です。…………変わった毒ですね。……ポイズングロリアスの討伐、お疲れ様でした。」

「えっ、毒なんかで分かるんですか?」


 ネネカは冷静なエルドの顔を見て言った。


「はい。しかも、今回あなた達が討伐した魔物はただの魔物ではありません。」

「…た、ただの魔物じゃないって……どう言う事っすか?」

「アランさん……いえ、皆さん。これは大変な事です。そのポイズングロリアス、他の毒属性の魔物との融合体です。つまりこれは、敵軍から渡された実験。ダークネスが来る日が迫っているという事です。」


 エルドは静かに剣の柄を置いた。


「ちょ、何言ってるのか分からないんすけど?」

「おいレオ。お前が鞘に入れているそれ、出せ。」


 リュオンはタバコを咥えてレオの腰に指をさした。レオは剣を抜いた。


「ふっ……やはりな。そいつの名はアポカリプス。その剣を手にした者には、ある権利が与えられる。」

「……権…利…………?」


 レオは剣の光沢に映る自分を見つめた。


「ダークネスがこの世界に来るのは恐らく明日。そこで皆さんに一つ質問が…」


 エルドは目を閉じ、人差し指を立てた。そして、ゆっくり目を開けた。


「レオさんに問います。あなた達、人間は、ダークネスに立ち向かう勇気はありますか?」


 レオは真っ直ぐな眼差しで頷いた。それを見たエルドは、リュオンとしばらく向き合い、レオに口を開いた。


「それではレオさん。ついてきて下さい。」


 エルドはカウンターから出て、扉を開いた。


「あの…アタシ達は……?」

「同行は構いません。行きましょうか。」


 エルドが言うと、四人は小屋を出て、エルドについて行った。空は暗く、夜を迎えようとしている。町の住人は玄関のランプに火をつけ、兵士は松明を持った。




 しばらく歩くと、エルドと四人は城の中へ入り、赤いカーペットの上にいた。エルドは止まることなく玉座の間へと歩いた。大きな扉を前にすると、左右に立つ兵士が槍を立てて道を開けた。


「感謝します。では、行きましょう。」


 左右に立つ兵士が大きな扉を押して開くと、五人は部屋に入った。視線の先には、椅子に座る王と、隣に立つエレナスがいた。エルドは片膝を床につき、頭を下げた。レオ達も、エルドの真似をするかのように頭を下げた。


「エルドよ。その後ろの者も、顔をあげてもよいぞ。」

「はっ。感謝致します。」


 五人は顔をあげ、王の顔を見た。


「王よ、時が来たことを報告するため、ここへ来ました。我らが討つべき者達、ダークネスは、明日このライトニングに姿を現すはずです。そこで………レオさん、剣を。」


 エルドがレオを見て言うと、レオは鞘から剣を抜き、王に見せた。


「おぉ……それはアポカリプス…。この世界の伝説の剣の一つ……。その者よ、以前は名を聞き忘れていたな。名は?」

「レオ・ディグランス・ストレンジャー…………レオです。」

「レオよ、こちらへ。」


 王が言うと、エルドはレオの方を向き頷いた。レオは立ち上がり、王の前に立った。


「これまでのお前の働きはよく分かっておる。積極的に秘宝を集め、町を賑やかにし、時には仲間を立ち上がらせた。」

「……いえ。……僕だけではありません……。後ろにいるアラン、ドーマ、ネネカの力があったからこそです。」


 レオが言うと、アランはレオを見て口を開いた。


「おいレオ、自信持てよ。王様、このパーティを作ってくれたのはレオなんす。」

「アラン…」


 レオはアランの方を向いた。


「そうだ。レオがいなかったら、アタシ達、今頃どうなってたか……」

「ドーマ…」

「レオさんは、私に夢を与えてくれました。レオさんがいる…そう思うだけで、立ち上がれる気がするんです。」

「ネネカ…」


 レオの瞳には三人の笑みが映っていた。


「うむ……。レオよ、一つ問おう。共に、戦ってくれるか?」

「……はい!」

「それでは、お前に権利を与える。」


 すると、周辺に立っていた兵士全員が槍や剣で床を叩いて音を鳴らし、その後片膝を床について頭を下げた。


「レオ・ディグランス・ストレンジャー。お前に特別許可職の勇者になる権利を!!」

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