黒い夢と赤い指輪
『シャァァァッ!!』
ポイズングロリアスは身体中の傷から血を流しながら、青く光る粒子に包まれて弓矢の先に集中力を込めるドーマを目掛けて、翼を広げて飛んだ。
「ドーマぁぁっ!!逃げろぉぉっ!!」
「はっ…早いっ………そして…ドーマは今動けない………どうすれば…………っ!!」
アランが大声で叫ぶ中、レオはあることを思いついた。
「アラン!!僕に向かってメガ・クラッシャーを使って!!」
「なっ…はぁっ!?何で!?」
「アランが僕を蹴った瞬間にカウンターを使ってアランを弾き飛ばす!!敵に追いつくか分からないけど」
「それじゃあお前が危ねぇよっ!!」
「早くやるんだっ!!」
レオが大声で言うと、アランは少し躊躇して構えた。
「怪我しても…知らねぇからなっ!!」
アランは上に跳び、空中で仰向けになると、レオの胴体に向かって片足を突き出して蹴った。
「“メガ・クラッシャー”ぁぁぁっ!!」
「“カウンター”っ!!」
レオは腕を交差し、アランの重い蹴りを全力で受け止め、アランを敵の方へ弾き飛ばした。レオは勢いに耐えきれず後ろに飛ばされたものの、アランは敵の方へ弾丸のような速さで飛んだ。
「うわぁっ!!」
「ドーーーマぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
アランがポイズングロリアスの真下を通る瞬間、拳を上に構え、竜巻を纏わせて突き出した。
「“スクリュー・ストレート”ぉぉぉぉっ!!」
アランの拳は敵の腹部を刺す勢いで命中し、敵は叫び怯んだ。
「ドーマっ!!今だっ!!…うぅっ!!」
「ドーマさん!!」
アランが地面を滑るように着地すると同時に、ネネカがドーマの隣で言うと、ドーマは鷹のような鋭い目になり、青く光る一本の矢を敵に走らせた。
「“シューティングスター”……」
青い光は敵の胸に大きな穴を開けて貫き、静かに消えた。ポイズングロリアスは強く地面に体を叩きつけて倒れた。
「……ふぅ。アラン……助かったぞ………」
「…………やったのか………!!レオっ!!」
アランは立ち上がり、遠くで倒れるレオの方へ走り出した。
「おいレオっ!!しっかりしろっ!!おいっ!!」
レオを前にすると、アランはレオを何度も揺さぶった。しばらくすると、レオはゆっくりと目を開いた。
「ぅ……ぅぅっ…………ヤ…ツは………っ…」
「やったぞっ!ドーマが倒した!!お前が体張ったお陰だ!!」
「……そ…そうか………悪いけどっ………立たせてくれない……?」
「あっ、あぁ。」
アランはレオの腕を肩に掛けて立たせた。冷たい風が吹くたび、ポイズングロリアスは少しずつ散るとともに、光る物を残した。剣だ。アランとレオは剣の方へ歩いた。剣を前にすると、アランは剣を手に取り、見つめた。
「……秘宝………?武器が出るのは初めてだな……。レオ。お前、剣折ったんだから、こいつ使えよ。」
アランは弱ったレオの腰に縛られた鞘に剣を入れ、ドーマとネネカの方へと歩き出した。
「レオさんっ!!」
「すまねぇネネカ、コイツに回復魔法を…」
アランが言うと、ネネカは両手から柔らかい光を出して、その光でレオを包んだ。
「……ありがとう。ネネカ。…………帰ろうか。」
曇り空の下で、四人は静かに微笑んだ。だがこの時、空の表情が狂い始めている事を、四人は知らなかった。
『ガルルルルゥゥッ!!』
「もうすぐ…………」
『ススススゥッ……』
「始まる……」
『グルルルッ…!!』
「今日という日が沈み、また日が昇る…………」
『ウゥゥゥゥゥッ…………』
「日が昇ると共に攻撃を開始する。皆よ、ライトニングの愚かさと血を、己の刃に……刻め。」
「…………マスター、ダークネスの殺意が感じられます。明日には来そうです。」
「……そうかエルド。………しかし急だな……。」
「はい。狙いは恐らく人間…………ところでマスター、あの人達は大丈夫でしょうか………?」
「心配いらねぇと思うぞ。アイツらの眼差しがな、…欲しいものは自分の手で掴みたい…ってよ。何が目的で共に戦ってくれるかは分からんが、いつかはアイツらも目的を果たすだろう。期待してんだ……俺…。」
その頃、レオ達はペガサスに乗ってパーニズへ飛んでいた。空が少しずつ暗くなってきている。冷たい風が頬に流れるたび、先程までの戦いを少しずつだが忘れてしまう。
「……な、なぁ…ドーマ……。」
アランはペガサスをドーマに近づけた。ドーマは静かにアランを見た。
「さっき、戦ってる時……夢を見た…………」
「…………あの夢か……?」
「……あ…あぁ………」
アランはドーマの顔を見る事なく、小さい声で返事をした。
「…………何か……気持ち悪いよな……俺っ………」
「……知らねぇよ。夢くらい誰でも見る。……ただ、……アンタには、礼をしなきゃだな…………」
ドーマはそう言って、ポーチに手を入れた。
「れっ…礼って…………んだよ……」
「うるせぇ…………手ェ出せ。…ほら…早く……」
ドーマは何かを掴んだ手をアランの方に伸ばした。アランはドーマの握る物を受け取り、見つめた。
「………なんだ…?これ…………」
「レッドソウルリング………指輪さ…………商店街で買ったんだ。……綺麗だろ?」
「…………くれるのか?」
アランは指輪を握り、ドーマの瞳を見つめた。
「あぁ。…………アンタが見るその夢、正夢になったら…………って思ってな。…………いらねぇなら捨てても良いぞ。」
「……なんだそれ。…………ドラマみたいなこと言いやがって…………まさか、告——」
「うっ…うるせぇよ……。勘違いすんな……………ただ………アタシをこんなに心配する人…………いなかったから……よ……。さっきの戦いだって……アンタいなかったら…………」
ドーマの潤んだ瞳を見て、アランは赤く光る指輪をポーチに優しく入れた。




