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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
秘宝編
70/206

血の香りと毒の香り

 レオ達四人は曇り空の下、ローアの山岳地帯に降りた。乗っていたペガサスとは別れ、四人は敵を探すために歩き始めた。微かに血の臭いが漂っている。風が冷たい。地に足をつけた時から、四人の目は鋭くなっていた。


「……そういえば、バケモンがどんなヤツなのか聞いてなかったな。」

「まぁ、バケモンって言うほどだから、デカくて恐ろしいヤツだって事には変わりはねぇだろぅ……」


 辺りを見て言うアランの顔を見ることなくドーマは口を開いた。


「でも、大きいのであればすぐに見つかるはずですが………」


 ネネカの表情は曇り始めた。


「………大きいはずなのに…どこを見てもいない…ん、……だったらっ……!!上!!」


 レオが言うと、四人は灰色の空を見上げた。雲の陰に薄く何かが見える。それは翼を大きく広げて空を飛ぶ竜のように見えた。


「……あいつか………。でも俺達に気付いてねぇぞ………どうする?」

「…………ドーマ、あれに向かって矢を放って。ドーマの放ったその矢があれに当たった時、……戦いが始まる。」


 レオがドーマを見て言うと、ドーマもレオの方を見た。


「フッ……アタシ次第ってことか……。任せな。」


 そう言ってドーマは弓と矢を手に取り、真上に構えた。


「ヤツが降りて来た時にビビんじゃねぇぞ………!!そこだぁっ!!」


 ドーマは鋭く素早い矢を真っ直ぐ空に放った。矢は雲の陰を突き払い、竜に刺さった。


「よしっ!」

「皆さんっ!来ます!」


 竜は翼を縮め、物凄い速さで降りて来た。竜がレオ達の目の前に現れると四人は武器を握り締めて構えた。


「…テメェが……やったんだよなぁ…」


 アランは歯を強く噛み締めた。竜の鱗は紫色に輝き、尾の先には剣のような刃が付いている。牙や目は息を呑むほど鋭い。翼には歴戦の痕。腕や脚が無い蛇のような姿をしている。ポイズングロリアスだ。


「……さぁ…………どう来るっ……」


 レオの剣の先がポイズングロリアスの目に向けられる。辺りは静まり返ったのに、胸の鼓動が全身に巡って落ち着けない。


『シャァァァッ!!』

「来るぞっ!!“銀の拳”っ!!」


 アランはレオに噛みつこうとしたポイズングロリアスの左頬に、銀色に輝く重く硬い拳をぶつけた。ポイズングロリアスが怯むと、レオは少し後ろに下がった後、敵の周りを走り始め、剣の軌跡を無数に放った。


「“ソードテンペスト”っ!!はぁっ!!はぁっ!!」

「“ガードファントム”!レオさん!アランさん!弱点を探ってください!」


 ネネカは少し遠くから、レオとアランに透明な薄い壁を纏わせた。


『シャァァァッ!!』


 ポイズングロリアスは刃のような尾をアランに振ると、アランはすぐに銀色の両腕を交差させて受け止めた。鉄と鉄が交わったような大きな音がアランの耳に響いた。


「うっ…くぅぅっ………!!」

「“ハイリロード”っ!!アランっ!!」


 ドーマは素早く矢を弓に掛けては何本も放ち、敵の右の眼球を攻撃した。ポイズングロリアスが右目から赤い血を流して怯むと、アランは強く地面を蹴り、敵の顎の下にまわり、拳を突き上げた。


「“ライジングアッパー”ぁっ!!はぁぁぁっ!!」


 硬い拳は敵の顎に当たったものの、ポイズングロリアスは怯むことなく、アランに尾を叩きつけた。


「うぐっ!!あぁぁぁぁっ!!」

「アランっ!!」


 アランはネネカの前まで飛ばされた。腹部に浅い切り傷を負った。


「いっ……いってぇぇっ……」

「アランさんっ!“フレッシュ”……」


 ネネカは傷口に両手を置き、緑色の優しい光でアランの傷口を塞いだ。


「ぅ……っく、すまねぇな。薄い壁のお陰で軽く済んだ。」


 アランはすぐに立ち上がり、ポイズングロリアスの方へ走り出した。


『シャァァァァァッ!!』

「はっ!!」


 ポイズングロリアスがレオに牙を向けて飛び込むと、レオは素早い動きでそれを回避し、喉の辺りに飛び掛かって剣を振った。


「“回転斬り”!!」


 すると、ポイズングロリアスは翼を広げ、後ろに下がるように飛んで剣を回避した。


「…当たれっ!!」


 ドーマは素早い矢を敵に放ったが、翼が送った風で矢は弾かれ、空中にいたレオは飛ばされた。


「うわぁっ!!」

「……っちぃっ!」


 レオが着地をすると、アランは敵の送る風を突くように飛び込み、右の拳を突き出した。


「“スクリュー・ストレート”ぉっ!!」


 突き出した拳から一直線に竜巻きが飛び、敵の腹部に命中した。


『ァァァッ!!……シャァァァッ!!』


 ポイズングロリアスはすぐに体勢を取り戻し、空中にいるアランに襲い掛かった。


「やべっ!!」

「アランっ!!避けろぉっ!!」


 ドーマが叫ぶと同時に、ポイズングロリアスはアランの頭に顎を叩きつけた。アランは勢いよく地面に体を叩きつけられ、少量の血を吐いた。


「がはぁっ!!」

「“ソードテンペスト”!!」


 レオは少し遠くから剣を振って軌跡を二つ飛ばし、敵を怯ませた。それに続いてドーマは矢を放つと、先ほどと同じ眼球に刺さり、更に血を流した。


『ァァァァァッ!!』


 敵が怯んでいる隙に、レオはアランの方に走り出した。その時レオはある違和感を感じた。敵に近づくたびに、アンモニアのような臭いが微かに鼻を刺激する。ポイズングロリアスの目から出る多量の赤い血がアランに降りかかろうとしていた。


「アラァァァンっ!!!」

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