柔らかな光
日が少し傾き始めた頃、レオとネネカは、アランとドーマを迎えに行くために四頭のペガサスを連れてギルシェに飛んだ。下の海は一つ一つの波を光らせていた。
「……あの、…レオ…さん。」
「ん?どうしたの?」
「あの……レオさんって、志望校…すごいところでしたよね……?」
ネネカの小さい声が風と混じって聞こえる。
「…う、うん。レベルは高いほうだったかな。そう言うネネカもレベルが高い高校目指してたんじゃないの?」
「え、えぇ……っとぉ〜……」
ネネカの頬を流れる風が擽った。
「ハハ、……本来なら、僕たちは今頃、高校で楽しく過ごしてるんだろうけどね……。」
「そう……ですね……。お父さんとお母さん、あと、妹の事も心配になってきました……」
「うん……僕たちの事、ニュースになってるんだろうなぁ……。」
気がつけば、二人の瞳には下で光る海が映っていた。
「…………ん?ネネカって妹いたんだね。」
その頃、ギルシェの病院では。
「…………スゥ……スゥ………………」
「………………ぅ、……ぅぅっ…………。」
アランはゆっくりと目を開けた。まず病室の天井に吊り下げられたランプが目に映った。少し頭が痛い。右を見ると、半開きになったカーテンの隙間から傾いた太陽が顔を出していた。
「…………っ、眩しいな…………」
「………スゥ……スゥ…………」
左を見ると、椅子に座り、下を向いているドーマがいた。寝ている。
「…ぉ、ぉ〜ぃ……っ、起きねぇな……。」
ドーマの赤い髪に太陽の柔らかな光が当たり、どこか気持ち良さそうだ。いつもうるさいと思っていたドーマのこの姿を見ていると、先程までの頭痛を忘れてしまう。
「…………ん、…………ふぁぁ〜〜っ……お、起きたか。」
ドーマが目を覚ますと、アランはすぐに天井を見た。
「……あぁ……。」
「あ〜れ、………レオとネネカまだかよ……。」
「…………どこ行ったんだ?」
「ぁん?秘宝クエだよ。安心しな、アイツらは死なねぇ。」
窓の外で薄い砂埃が舞った。
「…………フッ、アイツらが強いこと、知らねぇとでも?」
「あぁ、スゲェ勢いで頭ブったんだ。記憶の一つくらい消えてると思ってな。」
「……一応言っとくけど、俺怪我人な。言葉選べよ。」
アランは微かな頭痛を感じ、窓に映る眩しい空を見た。しばらくすると、純白の大きな翼が目に飛び込んできた。
「ん?なんだ?」
「お、ペガサスか。レオとネネカかもな。」
「…………ドーマ。……その…なんだ……心配…かけた……な。」
アランは小さい声で言った。
「フッ、今さら何言ってんだ。アンタの夢の話聞いた時から、ほっとけねぇんだよ。」
ドーマは天井に吊り下げられたランプを見上げた。ランプの火がいつもより柔らかく見えた。
「なんだよ、急にコクハクか?お前こそ頭ブったんじゃねぇのか。」
「……勘違いは御免だ。」
すると、部屋の入り口からノックが聞こえた。
「入るよ。」
扉が開いた。そこには、鎧や服を泥で汚したレオとネネカがいた。
「よ、レオ。ネネカ。」
「うん、ドーマ。アランは起きた?」
レオはそう言うと、ベッドを覗くようにして見た。
「あぁ、思ったより元気だ。」
「おぅレオ、ネネカ。すまねぇな。油断した。」
アランは体を起こし、レオとネネカに笑顔を見せた。
「アランさん、大丈夫ですよ。元気になって何よりです。」
「それで、もう病院からは出れる?」
「あぁ。ちょっと頭いてぇが、問題ねぇ。」
アランはベッドから降りると、同時にドーマが立ち上がった。
「んじゃ、帰るか。ネネカ、何か奢ってやるよ。」
「あ、ありがとうございます。ドーマさん。」
「おい、普通奢るなら退院後の俺だろ。」
窓に映る空は、日が沈みかけていた。




