記憶にない力
「……………………ん……」
優しい風が頬に触れ、ネネカは目を覚ました。
「あ、ネネカ。大丈夫?」
少しぼやける視線の先には、レオの後ろ姿があった。下を見ると青く大きな海が見えた。どうやら、ペガサスに乗ってどこかへ飛んでいるようだ。腰には縄が縛られていて、レオと結ばれていた。
「ごめんね、起きたら空にいるなんて驚いたよね。」
「い、いえ……大丈夫…です……。」
レオの背中に密着しているからか、耳の先まで赤くなるのを感じた。
「お、起きた起きた。どうだ、調子のほうは。」
声の方に振り向くと、カルマがいた。
「あ…はい。大丈夫です…。あの…、クエストは……?」
「あぁ、ネネカのおかげで無事に終わらせることができた。あの時君がいなかったら、今頃俺たちは死んでたかもな。」
オーグルが右腕の義手をなでながら言った。三人の顔はどこか清々しいように思えた。しかし、ネネカは違った。
「死んでた………私がいなかったら…………私、何もしてないです……と、いうか…今回もみんなの足ばかり引っ張って、何もできなかった……と……」
ネネカは三人から顔を背けた。合わせる顔がないと思ってしまったのだ。それに対しカルマはレオとネネカが乗るペガサスに自分のペガサスを近づけて言った。
「まぁまぁ、照れないの。本当に助かったんだ。な?自信持てよぉ。」
カルマは笑った。しかしネネカの表情は変わらない。共に戦った記憶さえ薄く、自分が一体何をしたのか全く覚えていない。時に、みんながわざと嘘をついていると感じ、申し訳なく思ってしまう。
「もうすぐパーニズに着くよ。…ネネカ、報酬をもらったらアランとドーマの所へ行こう。」
彼女の複雑な気持ちに、頬をなでる風さえも味方をしてくれなかった。
「…………いかがでしょうか?」
女は椅子に座っている男の肩に優しく手を置き、言った。
「……うむ。やはり、予想通りだ。……ライトニングの民でもない、そして我々ダークネスの民でもない、新たなる存在。人間。……力を隠し持っていたか。」
「しかしその“力”を本人たちは誰も気づいていない。……可哀想だと思いませんか?」
女は男の耳元で囁くように言った。男はゆっくり横に首を振った。
「その程度で可哀想だと思うと、この戦いでは生き残れんだろうな。名も知られず静かに地に翼を下ろした兵も数えられんほど出ている。勿論、今も絶えず。………引き続き、人間の研究を頼む。この戦いの革命的存在になるだろう。」
男が言うと、女は優しく微笑み、頷いた。
「こちらが報酬になります。お疲れ様でした。」
いつもは賑やかな酒場に受付嬢の声が響いた。カウンターに置かれた報酬金が入った袋をレオが握ると、四人は受付嬢に軽く頭を下げ、酒場をあとにした。
「いや〜、疲れたなぁ〜。」
カルマはそう言って両腕を上に伸ばすと、オーグルと共に報酬金が入った袋に手を入れ、金貨を一握りしてポケットに入れた。
「じゃぁな。お前らのパーティ、悪くなかったぞ。」
オーグルが言うと、レオとネネカに微笑み、カルマと共に商店街の方に歩いて行った。
「ふぅっ…、じゃあネネカ、アランとドーマの所に行こうか。」
「はい。行きましょう。」




