美しき翅
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
アランはキャリオンクローラーの繭に銅の拳を突き出した。しかし繭は鉄のように固く、アランの拳では歯が立たなかった。
「チィッ、固すぎだろ………」
「アラン、無駄に体力を使うだけだ。止めとけ。」
ドーマは瓦礫に腰を掛け、薬草ジュースを飲んでいる。
「そうだよ。今は戦いに備えたほうがいい。」
レオはネネカの首に手を添えて言った。
「……分かった。……………それにしても、だいぶ静かになったな…ワームもどこへ行ったのやら……」
アランは拳を元に戻し、辺りを見回した。
「おいレオ、ネネカは大丈夫か?」
「うん。まだ気を失ってるけど、息はしている。ドーマは大丈夫なの?その肩……」
ドーマは瓶を置いて、右肩を抑えた。
「あぁ。少し痛いが、ちゃんと弓は使える。……………お前らはいいよな。」
「え、何が?」
ドーマはジュースを一口飲み、ニヤニヤしはじめた。
「本当のこと言えよ。付き合ってんだろ?ネネカと…。アタシなんか、好きな男もいねぇっつうの。」
「ドーマ?僕、付き合ってないよ…?」
レオは首を傾げて言うと、ドーマは疑うような眼をして笑顔を見せた。
「へぇ~…本当かなぁ~?ねぇアンタ、ネネカと何か約束とかしてるんじゃないの?コッソリと……」
「…約束かぁ……。そう言えば、この前ネネカを病院へ迎えに行った時、絶対に一人にしないでって言われたっけ…………」
レオはそう言って黒く曇った空を見上げると、ドーマはレオに詰め寄ってきた。
「やっぱそういう関係なんじゃん?ん?どうなのどうなの?」
「いやぁ……僕、そういうのよく分かんないからなぁ………」
レオが言うと、ドーマは仰向けに倒れた。
「レオ、アンタ鈍感すぎんだろ~………だから彼女できないんだぞ。って言うか、ネネカそんな事言ったのかよ。ほぼ告ったのと一緒じゃん………」
その時、巨大な繭が割れ始めた。
「来るよ!アラン、ドーマ、戦闘態勢にはいって!!」
「来たか、イモムシの時の姿よりマシなら良いんだがな。」
レオは剣を鞘から抜き、アランは両手を前に構え、ドーマは立ち上がって弓を構えた。三人が見つめる繭からは、ゆっくりと綺麗な翅が出てきて、同時に無数のワームが瓦礫から顔を出した。
「やっぱり、イモムシは蝶になるんだな……見た目はマシかもな。」
ドーマが言うと、蝶になったキャリオンクローラーが繭を全て破り、姿を現した。名はスカイクローラー、四枚の美しい翅を持ち、首のあたりには大きな綿のようなものがあるが、全て触手だ。手の部分は人間のように指がある。
「アラン、ドーマ、行こう!!」
三人はスカイクローラーの方へと走り出した。




