帰還
「あとは、これをくっつけて…と。」
マリスは作った義手をオーグルの右腕に装着し、義手の腕の部分から出たワイヤーをオーグルの背中につけた。ワイヤーの先には吸盤のようなものが付いている。
「あの……このワイヤーと吸盤って、つける意味あるんですか?」
オーグルは装着した義手を見つめて言った。
「もちろんあるよ!背骨には神経が通っているでしょ?」
「中枢神経ってやつだな。」
ドーマは腕を組んで、オーグルの義手を見つめた。
「そう、中枢神経!そして、このワイヤーと吸盤を背中につければ、脳から出た情報をすぐに義手に伝えることができるの。指が思い通りに動くよ。やってみて!」
マリスが言うと、オーグルは義手を見つめながら指を動かした。
「本当だ……思った通りに動く………あ、ありがとうございます。」
「へへ、こんなの楽勝だよ!」
マリスは人差し指で鼻の下をこすった。
「すっげぇ…」
「本当の腕みたいですね。」
「オーグルさん、よかったですね。」
アランとレオとネネカが義手を見つめながら言ったその時、ギルド小屋の扉が開いた。
「ただいま戻りました。」
入口に立っていたのは、落ち着いた顔をしたエルドだった。
「お、じっちゃん!」
シルバはエルドの方を見て片手をあげた。
「エルドじぃ!大丈夫?ケガとかしてない?」
「クレアさん、心配はいりません。ありがとうございます。そんなことより、留守番のほうはどうでした?」
エルドはカウンターの方へ歩きはじめた。
「あぁ、客が来てるぞ。」
リュオンがタバコの煙をはきながら言うと、レオ達はエルドに向かって軽く頭を下げた。
「これはこれは。ごゆっくりどうぞ。」
エルドは五人に優しい笑顔を見せると、ワイングラスを拭きはじめた。
「そういえば、お前らレベルはどんな感じだ?」
ココは五人の方を向いた。
「僕は…20です。」
「俺は21だ。」
「アタシは22。」
「私は20です。」
「お前ら高いな…俺は16だ。」
五人が言うと、エルドは手を止めてレオ達の方を見た。
「そうですか。以前ドーマさんには言いましたが、レベルが20上がるごとに、通常職は職業名が変わるんですよ。」
「そうなの?ドーマ。」
レオはドーマの目を見て問いかけた。
「わるいわるい、言い忘れてた。アタシ、アーチャーからガンナーに変わったんだ。」
「おい、レオ。この前俺ボクサーになったって言ったろ。」
アランの言葉にレオは首を傾げた。
「えっとぉ…………いつ?」
「おいっ!!」
「そうですねぇ…レオさんは戦士から騎士に、アランさんは武闘家からボクサーに、ネネカさんは僧侶からプリーストに変わります。名前が変わるだけであって、能力が変わったり、リセットされるわけではないのでご安心ください。」
エルドはワイングラスを後ろの棚に置き、皿を拭きはじめた。
「おいエルド。いつまで待たせる気だ?お前まさか、わざわざ外に出たのに情報なしってことはねぇだろうな?」
リュオンはタバコを吸いながらエルドを睨んだ。
「ちょ、リュオンさん…そんな言い方ないでしょう?」
「ライラさん、止めなくて結構ですよ。…リュオンさん、お客様がいるのですよ。おもてなしが最優先です。」
エルドは手を止め、目を閉じた。
「フッ、おもてなしだと?じゃあなんだ?貴様が外に出たのは、ただの旅行程度だったのか?」
リュオンは内ポケットから黄金のハンドガンを取り出し、エルドの額に銃口を向けた。
「おいリュオン!」
「リュオン!!今あなたが何してるのか分かってるの!?」
ココとクレアはリュオンに叫んだ。レオ達はリュオンに怯えている。
「あの、エルドさんはどこへ行ってたのですか?」
レオは目を閉じているエルドを見て言った。
「あぁ、こいつはダークネスに行ってたんだ。…さぁ、話してもらおうか。俺が欲しいのは奴らの情報だ。それでも客を優先するのなら、貴様を無能野郎と見てトリガーを引く。」
「おいリュオン!!いい加減にしろよ!!」
ライラがリュオンの横に立つと、リュオンはライラに銃口を向けた。
「おっと、このギルドは何のためにあるか……忘れたのか?ダークネスの奴らを排除するためにあるんだろう?そんなことに客への心はいらねぇ。それともライラ、貴様も無能野郎と見られたいと?………死にたいのか?」
すると、エルドはゆっくりと口を開いた。
「分かりました。リュオンさん、銃口をこちらに向けなさい。」
リュオンは無言でエルドの額に銃口を向けた。
「みなさんに、あちらの世界について言いましょう。しかしリュオンさん、その銃の一発で私を殺せると思ったらの話ですがね。」
「フッ…そうか。」
リュオンは銃を内ポケットにしまった。
「エルド、なにも話さなくていいぞ。」
「……………いいえ、やはり……話しましょう。」
エルドは目を開いた。




