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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
秘宝編
33/206

奪還

「よ、今帰ったぞ。」

「これはこれは。どうでしたか?マスター。」


 男はギルド小屋に入り、エルドの前のカウンター席に座った。


「ん?あぁ、アイツのことか。なんとなくだが、うまくいきそうだ。」


 男は言うと、エルドが出したワイングラスを手に取り、赤紫の液体をグルグルとまわした。


「そうですか。それは良かったです。私も正直、どうなるかと思ってましたよ。」

「ふっ、俺もだ。あとは、アイツら次第ってことだ。」


 男はワインを一口飲んだ。


「そうですね。……そういえばマスター、この前のことを覚えてますか?」

「この前のこと?…あぁ、エンペラーグリズリーと人間のか。」

「はい。そのことなのですが、……少し調べたいことがありましてね。」

「めずらしいな、お前が動くとは。まぁいい。外に出る許可ならいくらでもやるぞ。」


 男はワイングラスを置き、エルドの顔を見た。


「ありがとうございます、マスター。私、今すぐ行きたい所があるんです。…………ダークネスです。」





「レオ、今から向かう所ってどんな所なんだ?」


 レオとドーマとネネカは、ペガサスに乗って南の大陸を目指している。


「フリール大陸。ライトニング最南端で、とても寒い大陸らしいよ。」

「そこにアランさんがいるのですね。」

「っていうか、最南端で寒いとか…南極かよ。」


 ドーマが体を震わせている。


「大丈夫。この時のために、こんなもの買っておいたよ。」


 レオがアイテムポーチから何かを取り出し、ドーマとネネカに投げた。


「ヒートペッパー。見た目も味もトウガラシだけど、食べると寒さに耐えることができるんだ。」

「と、トウガラシかぁ…辛いのは苦手じゃねぇけど……」

「い、いただきます……」


 三人は一斉にヒートペッパーを口に入れた。


「……!!かっれぇぇぇぇぇっ!!!水!水!」

「うぅ…レオさん……水がほしいですっ……」

「…ぅっ……だめだよ。水を飲むと効果がなくなっちゃう。」

「そんなぁぁ………」





「ちぃっ……くそ、こいつら全部で何匹いやがる……一匹ずつ殺してやる!はぁぁぁぁぁっ!!!」





「よし、この近くにアランがいるはずだ。急ごう。」


 レオ達はフリールに着くと、アランを探し始めた。周りは純白の景色が広がっていて、地面や海は厚い氷で覆われている。三人の息も、積もった雪のように白い。


「アランさん、寒さで死んでなければいいのですが…」

「っていうか、わざわざこんな寒い所に来なくても、パーニズの外にいる魔物倒してレベル上げればいいのによ。やっぱ馬鹿だよな~、アイツ。」


 ドーマは白い息を大きくはいた。


「ん?ネネカ、ドーマ、これを見て。」


 レオが地面を見た。地面にはいくつかの亀裂が入っていて、血痕もあちこちに残っていた。


「おいレオ、あれ見ろよ。ペンギンが倒れてっぞ。」

「本当だ。……もしかして、アランが?」

「レオさん、ドーマさん、こっちに亀裂がつづいています。急ぎましょう。」


 三人は地面に入った亀裂を頼りに走りはじめた。





「ぐはぁっ!!……くっ、腕の感覚がなくなってきたぜ……寒すぎて体も動かなくなってきた……」

『ピェェェェッ!!』

「かかってこい……かかってこいやぁ!!ペンギン野郎ぉっ!!!」

「そこだぁっ!!」


 その時、一本の矢がペンギンの胸に刺さった。


「なっ……お前ら、何しに来た……」

「聞きたいのはこっちのほうだ、アラン。なんで一人でこんな所に来た!!」


 レオはしっかりと剣を握っている。アランは白い息をはきながら、がくがくと震えていた。


「レオ!図鑑でこいつら調べたぞ。名前はアイスピングー、氷属性。群れで生活していて、火属性に弱いらしい。討伐平均レベルは15だ。」

「ありがとうドーマ。みんな、全力でいこう!!」


 レオとドーマとアランは一斉にアイスピングーの群れに飛び掛かった。


「どりゃぁっ!!てめぇら、俺一人で十分だって言っただろ!!邪魔すんな!!」


 アランが両腕に銅を纏い、アイスピングーを殴り飛ばしている。


「へぇ~、そうかい。でも、体は正直だな。ネネカ、コイツにレッシュかけてくれ。」


 ドーマが弓を引きながら言うと、ネネカはアランに杖を向け、レッシュを唱えた。


「アランさん、無理しないでください。」

「チィッ……余計なことを……お前ら、俺をナメては困るぜ。お前らがいねぇ間に、俺はレベル20になったんだ。新しい技、よく見とけよ……」


 アランは目を閉じ、構えた。


「……いくぞ!”スクリュー・ストレート”!!!」


 すると、アランは右腕を力強く前に突き出し、拳と風圧で複数のアイスピングーを巻き込み、飛ばした。


「アラン…今、何を……」

「へっ、武闘家からボクサーに変わった俺に、敵はいねぇんだよ!!うぉぉぉぉぉっ!!」


 アランは気をため、アイスピングーを殴り飛ばした。


「そうか…アランは、本当に強くなったんだ……僕だって!」


 レオは周りのアイスピングーを、回転斬りで倒し、少し奥の群れに飛び込んだ。


「……いつも前向きな、レオ・ディグランス・ストレンジャー。情熱的で面倒な、ガルア・ラウン。シャイだけど精一杯な、クナシア・ネネカ。そして、アタシ……フッ、なんかアタシ達、どこまでも強くなれる気がするよ。」


 ドーマは小さい声で言うと、目を閉じ、両脚を開いて、弓を構えた。


「どりゃぁっ!!…ぅぐはぁぁっ!!」


 一羽のアイスピングーが、アランの背中に嘴で攻撃した。


「アラン!今行く!!」


 レオがアランの方に走り出すと、複数のアイスピングーが壁になって、レオに飛び掛かった。


「っく、そう来たか…”連続斬り”!!」


 レオは、飛び掛かってきたアイスピングーを一羽ずつ斬り倒した。


『ぴぇぇぇぇぇぇっ!!』

「アランさん!危ない!!」

「しまった!!」


 アランに向かって、一羽のアイスピングーが飛び掛かった。


「おい、アラン!伏せろぉっ!!」


 ドーマが目を開き、弓を力強く引き、俊足の矢を放った。


『ぴっ!!』


 矢はアイスピングーの脳天に命中し、アランの目の前で倒れた。


「ふぅ……アタシって、やっぱ才能あるかも。」


 生き残ったアイスピングーは、慌てて逃げ出した。


「アラン、一つ言いたいことがある。」


 レオが、腰に縛られている鞘に剣を納めた。


「そ、そんなことより、俺の背中見ろよ……」


 アランが震えながら、赤い背中を見せた。


「わ、私が回復魔法を……」


 ネネカが杖を構えると、レオはネネカの肩に、手をおいた。


「ネネカ、気持ちはありがたいけど、レッシュはかけないで。」

「レ、レオさん……?」


 ネネカは動きを止めた。


「アラン、…悪かった。一緒にパーニズに帰らないか?」

「………し、しょうがねぇなぁ………温泉、できたんだろ…?早く、この冷えた体、温めてぇぞ……」


 四人は、ペガサスの方向に歩き始めた。すると、奥からタキシードを着た一人の男が歩いてきた。エルドだ。


「あれ?エルドさん、何しにここへ?」

「少し、用がありましてね。ここは冷えますから、お体に気をつけてくださいね。」


 エルドはそう言うと、白い吹雪の中に消えていった。


「なんでしょう……」

「あの人、外に出るイメージないんだけどね。……行こうか。」


 四人はその後、ペガサスに乗って、パーニズに向かって飛んだ。




「いやぁ~、最高だなぁ。」

「まさか、イルアの文化の温泉をつくるとは、人間も大したもんだ。」

「ふぅ、疲れたぜぇ。」


 パーニズの暗黒の空には、無数の星が輝いていた。酒場の横の温泉では、多くの人が集い、温まっている。パーニズに着いたレオ達も、温泉で温まっている。


「お、レオじゃん。それにアランも。」


 コルトが言うと、カルマと共に、レオとアランの所に行った。


「おいアラン、ちゃんと謝ったか?」


 カルマがアランの肩を肘で押した。


「う、うるせぇ。お前もぶっ飛ばすぞ!」

「まぁまぁ……」

「そういえば、レオ。どこに行ってたの?」


 コルトが心配そうな目でレオを見た。


「ああ、ちょっとフリールに……」

「ふ、フリール!?……めっちゃ寒いって聞いたけど、大丈夫だったか?」


 カルマが立ち上がった。


「おいカルマ。股にぶら下がったきたねぇモノ。俺に見せるな。」


 アランが言うと、カルマは静かに座った。


「まぁ、確かに寒かったけど、皆大丈夫だったよ。」

「おいレオ!俺、背中に嘴受けたんだけど!?」


 アランが立ち上がった。


「おいアラン。股にぶら下がったきたねぇモノ。俺に見せるな。」


 カルマは呟いた。


「で、アラン。どう?温泉は。」


 レオがアランの顔を見た。


「……へっ、悪くねぇな。」


 夜空に、一筋の流れ星が光った。

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