奪還
「よ、今帰ったぞ。」
「これはこれは。どうでしたか?マスター。」
男はギルド小屋に入り、エルドの前のカウンター席に座った。
「ん?あぁ、アイツのことか。なんとなくだが、うまくいきそうだ。」
男は言うと、エルドが出したワイングラスを手に取り、赤紫の液体をグルグルとまわした。
「そうですか。それは良かったです。私も正直、どうなるかと思ってましたよ。」
「ふっ、俺もだ。あとは、アイツら次第ってことだ。」
男はワインを一口飲んだ。
「そうですね。……そういえばマスター、この前のことを覚えてますか?」
「この前のこと?…あぁ、エンペラーグリズリーと人間のか。」
「はい。そのことなのですが、……少し調べたいことがありましてね。」
「めずらしいな、お前が動くとは。まぁいい。外に出る許可ならいくらでもやるぞ。」
男はワイングラスを置き、エルドの顔を見た。
「ありがとうございます、マスター。私、今すぐ行きたい所があるんです。…………ダークネスです。」
「レオ、今から向かう所ってどんな所なんだ?」
レオとドーマとネネカは、ペガサスに乗って南の大陸を目指している。
「フリール大陸。ライトニング最南端で、とても寒い大陸らしいよ。」
「そこにアランさんがいるのですね。」
「っていうか、最南端で寒いとか…南極かよ。」
ドーマが体を震わせている。
「大丈夫。この時のために、こんなもの買っておいたよ。」
レオがアイテムポーチから何かを取り出し、ドーマとネネカに投げた。
「ヒートペッパー。見た目も味もトウガラシだけど、食べると寒さに耐えることができるんだ。」
「と、トウガラシかぁ…辛いのは苦手じゃねぇけど……」
「い、いただきます……」
三人は一斉にヒートペッパーを口に入れた。
「……!!かっれぇぇぇぇぇっ!!!水!水!」
「うぅ…レオさん……水がほしいですっ……」
「…ぅっ……だめだよ。水を飲むと効果がなくなっちゃう。」
「そんなぁぁ………」
「ちぃっ……くそ、こいつら全部で何匹いやがる……一匹ずつ殺してやる!はぁぁぁぁぁっ!!!」
「よし、この近くにアランがいるはずだ。急ごう。」
レオ達はフリールに着くと、アランを探し始めた。周りは純白の景色が広がっていて、地面や海は厚い氷で覆われている。三人の息も、積もった雪のように白い。
「アランさん、寒さで死んでなければいいのですが…」
「っていうか、わざわざこんな寒い所に来なくても、パーニズの外にいる魔物倒してレベル上げればいいのによ。やっぱ馬鹿だよな~、アイツ。」
ドーマは白い息を大きくはいた。
「ん?ネネカ、ドーマ、これを見て。」
レオが地面を見た。地面にはいくつかの亀裂が入っていて、血痕もあちこちに残っていた。
「おいレオ、あれ見ろよ。ペンギンが倒れてっぞ。」
「本当だ。……もしかして、アランが?」
「レオさん、ドーマさん、こっちに亀裂がつづいています。急ぎましょう。」
三人は地面に入った亀裂を頼りに走りはじめた。
「ぐはぁっ!!……くっ、腕の感覚がなくなってきたぜ……寒すぎて体も動かなくなってきた……」
『ピェェェェッ!!』
「かかってこい……かかってこいやぁ!!ペンギン野郎ぉっ!!!」
「そこだぁっ!!」
その時、一本の矢がペンギンの胸に刺さった。
「なっ……お前ら、何しに来た……」
「聞きたいのはこっちのほうだ、アラン。なんで一人でこんな所に来た!!」
レオはしっかりと剣を握っている。アランは白い息をはきながら、がくがくと震えていた。
「レオ!図鑑でこいつら調べたぞ。名前はアイスピングー、氷属性。群れで生活していて、火属性に弱いらしい。討伐平均レベルは15だ。」
「ありがとうドーマ。みんな、全力でいこう!!」
レオとドーマとアランは一斉にアイスピングーの群れに飛び掛かった。
「どりゃぁっ!!てめぇら、俺一人で十分だって言っただろ!!邪魔すんな!!」
アランが両腕に銅を纏い、アイスピングーを殴り飛ばしている。
「へぇ~、そうかい。でも、体は正直だな。ネネカ、コイツにレッシュかけてくれ。」
ドーマが弓を引きながら言うと、ネネカはアランに杖を向け、レッシュを唱えた。
「アランさん、無理しないでください。」
「チィッ……余計なことを……お前ら、俺をナメては困るぜ。お前らがいねぇ間に、俺はレベル20になったんだ。新しい技、よく見とけよ……」
アランは目を閉じ、構えた。
「……いくぞ!”スクリュー・ストレート”!!!」
すると、アランは右腕を力強く前に突き出し、拳と風圧で複数のアイスピングーを巻き込み、飛ばした。
「アラン…今、何を……」
「へっ、武闘家からボクサーに変わった俺に、敵はいねぇんだよ!!うぉぉぉぉぉっ!!」
アランは気をため、アイスピングーを殴り飛ばした。
「そうか…アランは、本当に強くなったんだ……僕だって!」
レオは周りのアイスピングーを、回転斬りで倒し、少し奥の群れに飛び込んだ。
「……いつも前向きな、レオ・ディグランス・ストレンジャー。情熱的で面倒な、ガルア・ラウン。シャイだけど精一杯な、クナシア・ネネカ。そして、アタシ……フッ、なんかアタシ達、どこまでも強くなれる気がするよ。」
ドーマは小さい声で言うと、目を閉じ、両脚を開いて、弓を構えた。
「どりゃぁっ!!…ぅぐはぁぁっ!!」
一羽のアイスピングーが、アランの背中に嘴で攻撃した。
「アラン!今行く!!」
レオがアランの方に走り出すと、複数のアイスピングーが壁になって、レオに飛び掛かった。
「っく、そう来たか…”連続斬り”!!」
レオは、飛び掛かってきたアイスピングーを一羽ずつ斬り倒した。
『ぴぇぇぇぇぇぇっ!!』
「アランさん!危ない!!」
「しまった!!」
アランに向かって、一羽のアイスピングーが飛び掛かった。
「おい、アラン!伏せろぉっ!!」
ドーマが目を開き、弓を力強く引き、俊足の矢を放った。
『ぴっ!!』
矢はアイスピングーの脳天に命中し、アランの目の前で倒れた。
「ふぅ……アタシって、やっぱ才能あるかも。」
生き残ったアイスピングーは、慌てて逃げ出した。
「アラン、一つ言いたいことがある。」
レオが、腰に縛られている鞘に剣を納めた。
「そ、そんなことより、俺の背中見ろよ……」
アランが震えながら、赤い背中を見せた。
「わ、私が回復魔法を……」
ネネカが杖を構えると、レオはネネカの肩に、手をおいた。
「ネネカ、気持ちはありがたいけど、レッシュはかけないで。」
「レ、レオさん……?」
ネネカは動きを止めた。
「アラン、…悪かった。一緒にパーニズに帰らないか?」
「………し、しょうがねぇなぁ………温泉、できたんだろ…?早く、この冷えた体、温めてぇぞ……」
四人は、ペガサスの方向に歩き始めた。すると、奥からタキシードを着た一人の男が歩いてきた。エルドだ。
「あれ?エルドさん、何しにここへ?」
「少し、用がありましてね。ここは冷えますから、お体に気をつけてくださいね。」
エルドはそう言うと、白い吹雪の中に消えていった。
「なんでしょう……」
「あの人、外に出るイメージないんだけどね。……行こうか。」
四人はその後、ペガサスに乗って、パーニズに向かって飛んだ。
「いやぁ~、最高だなぁ。」
「まさか、イルアの文化の温泉をつくるとは、人間も大したもんだ。」
「ふぅ、疲れたぜぇ。」
パーニズの暗黒の空には、無数の星が輝いていた。酒場の横の温泉では、多くの人が集い、温まっている。パーニズに着いたレオ達も、温泉で温まっている。
「お、レオじゃん。それにアランも。」
コルトが言うと、カルマと共に、レオとアランの所に行った。
「おいアラン、ちゃんと謝ったか?」
カルマがアランの肩を肘で押した。
「う、うるせぇ。お前もぶっ飛ばすぞ!」
「まぁまぁ……」
「そういえば、レオ。どこに行ってたの?」
コルトが心配そうな目でレオを見た。
「ああ、ちょっとフリールに……」
「ふ、フリール!?……めっちゃ寒いって聞いたけど、大丈夫だったか?」
カルマが立ち上がった。
「おいカルマ。股にぶら下がったきたねぇモノ。俺に見せるな。」
アランが言うと、カルマは静かに座った。
「まぁ、確かに寒かったけど、皆大丈夫だったよ。」
「おいレオ!俺、背中に嘴受けたんだけど!?」
アランが立ち上がった。
「おいアラン。股にぶら下がったきたねぇモノ。俺に見せるな。」
カルマは呟いた。
「で、アラン。どう?温泉は。」
レオがアランの顔を見た。
「……へっ、悪くねぇな。」
夜空に、一筋の流れ星が光った。




