一滴の成長
「シルバだぁ?へっ、このゲームのモブか。まぁお前、その手を離そうか。」
「お、おいデンテ…やめとけよ……その人、レベルが…」
デンテの後ろにいたキュレスが言った。
「あ?そんな怯えることねぇだろ……!ご、ごごご59!!??」
「ま、いいや。」
シルバが手を離すと、デンテは逃げ出した。
「シルバさん。な、何しにここへ?」
レオが質問した。
「ちょっとな。…はーい、みんな注目ー!」
シルバがテーブルの上に座った。
「この中でレベル20いってるよ〜って人…手~あっげてっ!」
「……あ、アタシちょうど20だが…」
ドーマが手を挙げた。すると、シルバはドーマに向かって指を鳴らした。
「はいビンゴォ~。ちょっと話あるんだけど、来てくれない?」
「あ、ああ…アタシで良ければ…」
「OK、じゃあ行こう!」
シルバはドーマを連れて酒場を出た。
「な、なんだったんだ?……」
ドーマはシルバについていくとパーニズギルダーズの小屋に着いた。入口の上に掛けられた看板には、前と変わらず、〈パーニズ相談事務所〉と書かれてある。
「じっちゃん、連れてきたよ~。」
シルバが扉を開けた。
「おやおや、ずいぶん遅かったですね。」
小屋に入ると、カウンターの奥には、ワイングラスを拭いているエルドがいた。
「また酒場で居眠りですか?それとも、人を殴った…とか?」
「お、じっちゃんすごいな。居眠りは正解だ。」
「喧嘩は?」
リュオンが椅子に座ってチェスの駒を見つめながら言った。
「喧嘩?してないしてない。ってかしない。したくない。」
「あれれぇ~、この前アランちゃんを突き飛ばしたとかなんとか…エルドじぃとライラ君から聞いたよ?」
クレアが楽器を置いてシルバの方に寄ってきた。
「あ………ば、バレた?」
「フフ、このおバカさん。」
「まあまあ、クレアちゃん。あれは正当防衛って言って、しゃぁないことだったの。許してちょ。」
マリスが奥で機械をいじりながらクレアを睨んでいる。
「あ、あの~…アタシは?」
「おっと、すまんすまんドーマ。まぁここに座って。」
シルバがカウンター席を用意すると、ドーマは「失礼します。」と小さな声で言って座った。
「早速ですが、あなたの職業は?」
エルドはドーマの前にワイングラスを置いた。
「アーチャーです。昨日のクエストでレベル20になりました。」
「そうですか、それは良かったですね。」
エルドはドーマの前のワイングラスに紫色の飲み物を注いだ。
「ドナウで採れたスズラングレープを使ったワインです。どうぞ。」
「あの~、まだ15なんですが…」
ドーマは苦笑いをした。
「………失礼。」
「じゃ、代わりにもらうぞ~。」
リュオンがワイングラスを取り上げ、椅子に座った。
「しかし、レベル20になったあなたは、もうアーチャーではないのですよ。」
「え、どういうことです?」
「この前言っただろ?」
シルバがドーマの横に座った。
「レベルが上がると、職業の名前が変わるんだよ。おまえはアーチャーだったから、今はもう立派なガンナーさんってわけ。」
「ガンナー……ちょっとカッコいいかも…で、でもガンナーだから銃しか使えないんじゃ…」
「弓を使いたいんだよね。大丈夫だよ。冒険者の中には、魔法使いのくせに斧を持ってる人もいるし、俺なんかヒーラー職なのにレイピア持ってるし。」
ライラがココをなでながら言った。
「なんか、色々とありがとうございます。……あ、一ついいですか?」
「なんでしょう?」
エルドがワイングラスを拭きはじめた。
「シルバさんはさっき酒場で見たと思いますが、最近友達がクエストに出てくれなくなってきて…」
「ほう。どうしたいのです?」
「やっぱ、そこは皆で協力してダークネスに勝ちたいと言うか…」
エルドがワイングラスをドーマの前に置いた。
「そうですね…それなら、皆で何か大きなものをつくってはどうでしょう。温泉がおすすめですが。」
「なるほど、温泉かぁ~…」
「もしつくるのならば、あなたたちにサブ職のクラフターになる権利をあたえますが、どうでしょう。」
「サブ職?…」
エルドはドーマの前のワイングラスに透明な飲み物を注いだ。
「チャナで採れたドラゴンアップルを使ったワインです。どうぞ。」
「あの~、まだ15なんですが…」
ドーマは苦笑いをした。
「………失礼。」




