ざわめく森
「ほう、イルアの森に?」
「はい。たった今、三人の若者が。」
ギルドの小屋の中で、エルドとパーニズ城の一般兵が話している。
「それで、その一人の若者を襲った魔物とは?」
エルドがワイングラスを拭きながら言った。
「はい。おそらく、エンペラーグリズリーかと。」
兵士の焦った声でランプの火が揺れる。
「そうですか。親熊の場合レベル50ほどで倒せますが、最近は子連れが多いですから厄介ですよ。」
エルドは自分の白いひげをさわりながら、呆れたような口調で言った。
「それでしたら、レイドクエストが良いかと。」
兵士がそう言うと、エルドはワイングラスを拭く手を止め、少し間をおいて口を開いた。
「…ならば、パーニズギルダーズから何名かイルアへ調査に行かせるのはどうでしょう。こういうのに私共のギルドは黙りませんからねぇ。それで、もしイルアの森が大変なことになってましたら、クエストを出すことにしましょう。」
すると、シルバとココがエルドと兵士の話に入ってきた。
「それなら、俺が行こうか?」
「オイラも行くぞ!」
シルバとココがそう言うと、エルドは兵士に「ほらね。」と言いながら、ワイングラスを棚に置いた。
「シルバ。」
マリスがシルバのほうへ寄ってきた。
「……………気を付けて。」
「大丈夫、兄を見つけるまで俺は死なないさ…………じゃ、行って来る。」
シルバはマリスにそう言うと、ココと共にイルアへ向かった。
「バーノン……………………」
レオ、ネネカ、アラン、ドーマ、トキアの五人は、教会の椅子に座って下を見ている。
「ごめん、僕には何も出来なかった………………」
レオは小さい声で言った。
「…お前のせいじゃないさ。…………………はぁ…」
ドーマはレオの肩に手をのせて言った。
「まさか、あんな事になるとは、思いもしなかったよ……………………」
トキアは背中を丸めて言った。
その頃、ペガサスに乗ったシルバとココはイルアの森に到着していた。
「さてと、どこだ?例の熊ちゃんは。」
シルバがそう言うと、ココは奥のほうを見つめた。
「あ!シルバ、あそこ!」
「ん?」
シルバはココの見ている方を見た。すると、そこにはエンペラーグリズリーの死体がころがっていた。シルバとココは死体の方へ向かった。
「どういう事だ?死体が無ければ、熊の内臓は綺麗にえぐり取られている。…ん?」
シルバは森のもっと奥を見つめた。
「おっと、予想通りの光景だな。」
シルバの見ている先には、エンペラーグリズリーの子どもが群れとなって集まっている。
「なぁシルバ、今は戻った方がいいんじゃないのか?」
ココが言うと、二人はペガサスに乗ってパーニズへと飛んだ。
「ココ、なんで熊が集まっているか、分かるよな。」
シルバは下を見ながら言った。
「おぅ、アイツらは自分の親を殺したヤツを探しているのだろう。……かなり怒っていた。……でも、あのデカブツ、誰が……」
「……そうだな。」
シルバとココは急いでパーニズへ向かった。
数分してシルバとココが帰ると、すぐにエルドと兵士に知らせた。
「何、エンペラーグリズリーの子供が!?……やはり、そうであったか。」
兵士が一滴の汗を垂らした。
「そうですか。では兵士さん、酒場へこのクエストを出しに行ってください。」
エルドが皿を拭きながら落ち着いた口調で言った。
「了解です。」
兵士が扉を開くと、エルドが兵士に声をかけた。
「あ、それから、放送で言ってほしいことがあります。……………」
そしてレオ達は、教会で何十分も座っていた。
「………いったい、なんなんだよ…この世界は……」
アランが息をつまらせながら口を開いた。
「これでもう五人は死んでいる……魔王を倒すまでに全滅しないだろうか………」
トキアが頭を両手でかかえて言った。
「でも、ここで諦めちゃだめだ。僕達だけでも現実の世界に帰らなきゃ。」
レオが少しだけ頭をあげ、奥にたつ大きな十字架を見つめた。ネネカは涙でぬれた瞳を輝かせながら、ただただ黙っている。
『皆に報告する。』
酒場からの放送がかかった。
『これより、緊急クエストを出す。現在、イルアの森に多くの魔物が出現している。早いうちに、この魔物の全滅を期待する。そして、今パーニズにいる人間という種族の皆はパーニズ城の地下室へ集まるように。………以上。』
放送が終わった。レオ達はパーニズ城の地下室へ向かった。
「何だ?こんな時に……」
五人が地下室に入ると、生徒のほとんどが椅子に座っていた。薄暗い部屋の壁には、松明が辺りを照らすようにかけてある。
「来たか、待っていたぞ。」
部屋の奥には、エレナスが立っている。
「えっと、兵長……これは……」
レオが辺りを見回しながら言った。
「あぁ。今から、お前たちに大きな仕事を与えてやる。この緊急クエストに誰が出るかを決めてもらうぞ。司会は……お前だ。」
エレナスはレオに指をさした。
「ぼ、僕が?」
「出来るよな?じゃ、頼んだぞ。」
エレナスはそう言うと、レオの肩に手をのせ、部屋を出た。
「……何だったんだ?それよりレオ、お前出来るのか?」
ドーマがレオのほうを見て言った。
「……やるよ。僕が皆をまとめるよ。」