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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
199/206

雷電と刹那

「チリとなれェ゛ェ゛ェェェぃッッ!!」


 アランは死を覚悟し、目を閉じた。瞼で覆ったはずの世界は明るかった。恐らく、ギルガの放つ光束が原因だろう。激しい爆発音が鼓膜を揺らした。


「…………」


 痛みなどなかった。“死”とはこういうものだからだろうか。しかし、アランは知っていた。死ぬ時も痛みはある。一度死んだ経験があるから分かる。だが、今回はそれが無い。つまり生きている。アランはゆっくりと目を開いた。そして、目に映った光景に、しばらく口が塞がらなかった。


「…………ぉ……おぃ…………何……して…んだ……」


 立ちのぼる黒煙、ギルガの動揺した表情。彼の前にはシェウトが立っていた。


「………ぃ……いってぇぇぇ……………ッッ……!!」

「……シェウト……お前…………」


 彼の足元には焼け焦げた血が流れ落ちていた。そして、その周辺には砕けた瓦礫が飛び散っている。なんとシェウトはギルガが光束を放つ瞬間に、パワードアームの穴に右腕を突き入れて蓋をし、爆発させたのだ。


「……師匠が……言ってたろ……こいつは、左腕を無くして、代わりに鉄塊を付けたって………じゃあそれさえ破壊すれば、少しは有利になる………ようやく……だな………こいつはもう……自慢の左腕を使えない………」

「そうじゃねぇッ!!お前の腕はどうなっちまったんだッ!!」

「………安心しろ………」


 シェウトがそう口にすると、焼け焦げた右腕を下ろした。血が流れ落ちているが原形はある。


「……神器… 天昇拳ゴッドハンドが……守ってくれたんだ………そのかわり………神器も…俺の右腕も……使い物にならなくなったがな……」

「…ッ!待ってろッ!!今そっちに行ってやるッ!!一緒に戦ってやるッ!!……ぅわぁッ!!」


 アランは麻痺した脚を無理矢理動かそうとした。だが思い通りに脚は動かず、床に倒れてしまった。シェウトが危ない。だが、脚の痺れのせいで彼の元へ行けない。アランは悔しさを噛み締め、床を強く殴った。


「……………お前にはぁ度胸がぁある……まさかぁ、自分の腕を捨ててまでぇ俺に向かってぇ来るとはぁ………だがァ!たかがぁ腕1本ッ!!この距離のぉ格闘にぃ、何の変わりもぉ無ェェ!!」


 ギルガは右腕を振り、シェウトの左頬に叩きつけた。その衝撃でシェウトは横に飛ばされ始める。その瞬間、ギルガは左脚でシェウトの脚部を蹴り上げ、彼を空中で回転させた。


「ブッ飛べェ!!“金の拳”ぃぃぃッ!!」


 真っ直ぐ放たれたギルガの黄金の拳はシェウトの腹部に捻じ込まれ、彼を物凄い速さで遠くに飛ばした。


「シェウトォォォッ!!」

「“ボルトボディ”ッ!!かぁぁぁぁッッ!!」


 全身に電気を纏ったギルガは床を強く蹴って、シェウトの方へ飛んだ。その速さは正に電光石火。飛ばされるシェウトの横に大男の影が一瞬にして現れ、彼の背を蹴り上げた。


「やめろギルガぁぁッ!!シェウトが死んじまうッ!!」

「ハハハハァァッ!!覚悟があってェ俺に向かってきたぁ、そうだろう?俺の戦場(リング)にぃ、『待った』は無゛ェッ!!」

「やめろォ゛ォ゛ォォォォッ!!」


 ギルガは宙を舞うシェウトを追うように高く跳んだ。そして、彼の横で一回転すると同時に全身に纏った電気を右脚に集中させ、それを力強く振り下ろした。


「“エレクトロンストライク・メテオ”ォォォッ!!」


 重い踵がシェウトの胸に叩き込まれる。その瞬間、全身に電気を浴びた彼はまるで落雷のように爆発音と共に一瞬にして床に落ちた。落下地点の床は抉れられ、煙幕と黒煙で彼の姿を隠した。


「………し……シェウトッ…………!!」


 その後ギルガは着地し、倒れるアランの方を向いた。次はお前だと言わんばかりの興奮と暴力に満ち溢れた表情だ。そして、大男はゆっくりと向かってくる。動けないアランが思いついたのは時間稼ぎ。それが精一杯だった。


「っ……!!」


 パワードアームの先を左腕で調節し、レバーを引く。狙いを定めるが、焦りと麻痺で左腕が震え、照準が定まらない。一か八か、彼はギルガに向けて光束を照射した。


「当たれェェェェェッ!!」


 放たれた光束は地面を削り、爆発音と強い風圧を起こす。


「……っぐ!!」


 照射が止み、その先を見るとギルガの姿が無い。消し飛ばしたか。そんなはずが無い。今の攻撃は誰だって避ける。それにギルガがあれを全身で浴びても、恐らく火傷を負う程度だ。そして、彼の体を大きな影が覆っている。アランは横に見える大きな足をゆっくりと見上げた。


「まだぁ立てないのかぁ?動けねぇ武闘家はぁ、敗北者に等しいッ!!」

「……ちくしょうッ……!!」


 ギルガは右腕を高く挙げた。そして硬い拳をつくり、足元のアランに白い歯を見せる。


「俺がァッ!最強の武闘家だァァ!!」


 その時、ギルガの前を何かが通った。一瞬の出来事だったため、2人にはそれが分からなかった。ギルガの右頬にできた擦り傷から、一滴の血が流れ落ちる。


「………何だぁ………?……今のはァ………」


 ギルガは首を左に向けた。1人の傷だらけの男が静かに立っている。男は口から流れる血を腕で拭き取り、ギルガを睨みつけた。


「………し……シェウトッ!!まだ動けたのかッ!!」

「……なぜぇ……あのダメージぃ………死んでいてもぉおかしくないはずだぁ………一体ぃ……何がぁ…」


 動揺するギルガ。それを鋭い目で見つめるシェウトは、拳を握り締めて口を開いた。


「アラン、コイツをブッ飛ばすんだろう?じゃあとっととその脚治しやがれ。その間、俺が時間を稼ぐ。………行くぞギルガ。この状態(・・)には時間の限りがあるんだ。」

「………この……状態(・・)……?……ッぅガァッ!?」


 一瞬だった。あまりの速さに避ける事も受け止める事もできなかった。シェウトが視界から姿を消したのだ。横腹に蹴りを受けた。


「はっ……速いッ……!何だぁッ……ゥゴぉっ!!」


 顎を蹴り上げられた。速さが威力となってギルガにダメージを与えている。


「チィッ!!“ボルトボディ”ッ!!」


 ギルガは全身に電気を纏い、一瞬にしてその場を離れた。自身の動きを俊敏にして、彼の動きを捉えようとしたのだ。そして、ようやく彼の姿が見えた。


「ソラァ!!ソラァッ!!」

「っ……!!フッ……!!」


 ギルガは拳を放ち、蹴り払う。だが、大半の攻撃は避けられる。手応えがあったとしても、それは防御されている。


「っ……!ソィア゛ァ!!フンッ!!ソラァ!!」


 狙いは確実だ。だが、伸ばした腕の先にシェウトは居ない。蹴り払っても受け止められ、再び攻撃を放っても避けられる。そして、思いもしない方向から攻撃を受ける。


「……ッごハァッ!!」


 見えたところで攻撃もできなければ避けることもできない。ならば受け止める以外方法はない。左に現れたシェウトに瞬時に反応し、右腕を胴体の前に構えた。


「“金の拳”ッ!!……ぅガァっ!!」


 背中に足を捻じ込まれ、蹴り飛ばされた。


「………これはァ……まさかッ……魔王様が言っていたぁ人間の能力っ……ティア・イリュージョンかぁッ………ぅッ!!ガほァッ!!ぅゴァ!!」


 胴を蹴られ、顔面を殴られ、喉に踵を落とされた。一瞬の攻撃が繰り返され、状況どころか痛みすら理解が追い付かない。ギルガは口に溜まったものを吐き出した。血反吐だ。ここでギルガは、初めて敵であるシェウトに怒りを覚えた。


「ぅぐォッ!!……どこだァッ!!ぐガァッ!!……ちょこまかとォッ!!ゴホぉッ!!」


 ギルガは右腕を振り回した。手応えが無い。そして片脚を蹴り払われ、宙を舞ったその時、ほんの一瞬だけシェウトの姿が見えた。彼は床に踵を落とす。


「“土竜起こし”ッ!!」


 床が捲れ上がり、無数の破片が飛んだ。そして、彼の最も恐怖すべき攻撃が、これから始まろうとしていた。


「容赦はしないぞッ!ギルガァァ!!」

「何をぉッ……!?」


 その瞬間、四方八方から強力な蹴りを受けた。横からだけではない。上からも下からもだ。シェウトは自身の素早さと蹴りの威力を利用し、飛び散った無数の破片を足場にしてギルガを蹴り、着地後にまたギルガを蹴り、再び空中の破片を足場にする。これを一瞬で行い、何度も繰り返したのだ。


「ッ!!ガァッ!!ガハァッ!!ゥガァッ!!ゴボァッ!!」


 血が飛び散る。誰の血だ。打撃音が聞こえる。誰が受けた。骨が砕けた音がする。誰の骨が折れた。考えている間に傷と痣が増えていく。手も足も出ない。彼は生まれて初めてその言葉を頭に過らせた。


「………ッ!!ぅオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオッッッ!!!」


 彼の怒りが爆発した。途轍もない覇気が放たれ、シェウトはそれに弾かれる。その一瞬、彼が足の先に見たギルガの体は、目を疑うものだった。透き通る輝きを放ち、思わず見惚れてしまうほどの美しい色をしていた。そして何より硬い。


「ダイヤ……モンド………」


 シェウトは理解した。これが彼の怒りの先、これが彼の本気である事を。そして、その一瞬見せた油断が大きな不覚となった。硬く重く輝いた拳に、胴体を殴り飛ばされたのだ。だが、それだけではない。彼が受けた拳は左腕のものだった。


「ぐはァァッ!!」


 シェウトは破片と共に床に落ちた。そして、多くの傷を負ったギルガが、ゆっくりと立ち上がる。


「シェウトぉッ!!………なっ…何だ…っ………あれはッ……」


 アランは目に映った大男の姿に息を呑んだ。無いはずのギルガの左腕が、ダイヤモンドで形成されていたのだ。


「………ダイヤモンドぉ……この世でぇ最も硬く美しい、鍛錬とぉ執念の終着点っ……名付けるならぁ、“金剛の拳”ぃ。」


 ギルガは透き通った輝きを放つその手を開いては閉じ、それをただ見つめていた。そしてその手で拳をつくり、2人に首を向けた時、大男は最強であり最恐とも言える姿を見せた。


「そしてこれがァ………これこそがァァ………」


 胸を中心に、ダイヤモンドの輝きが全身へと広がっていく。アランの口は塞がらなかった。


「……全身をぉダイヤモンドに変化させたぁ“ダイヤボディ”…………おめでとう。お前らはぁ俺を本気にさせたァ…」

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