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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
191/206

落雷の前の武闘家

「よォ、久しぶりだなァ………お前らぁ。」


 レオ達の前に着地したギルガは、ゆっくりと立ち上がった。2mを軽く超えた体と、左腕のパワードアーム、そしてこの鍛え上げられた肉体。圧倒的だ。


「おっと…殺したはずのぉヤロウがいるなぁ。確かぁ………アランか。また会えて嬉しいぜぇ。」

「へっ……あん時はど〜も。このとおり、地獄から戻ってきたぜ。ギルガ。」


 アランは、ギルガの顔を見て笑みを浮かべた。しかし、彼は左手に汗を握っている。闘志と少しの恐怖から出た汗だ。すると、シェウトが小さく口を開いた。


「ギルガ……師匠が言ってたヤツか。こんなゴリラ野郎だったとはな……」


 すると彼はギルガの前まで歩き、地を踏み締めて構えた。そんなシェウトを見て、レオ達は驚いた。特に衝撃を受けたのはアランだ。


「って、おい!ギルガを倒すのは俺だっ!なんでお前がっ!?」

「悪いがアラン。お前とは違って、俺はこいつに会ったことがない。ただ名前とどんなヤツかを聞いただけだ。だが、俺が目指した敵であることは変わりない。俺はこいつを倒すために鍛えてきた。だから俺が戦う。これでも不十分か?」

「あぁ不十分だ!!わけわかんねぇ!!俺だってこいつを倒すために鍛えてきたんだっ!!ギルガと戦うのは俺だっ!!」


 アランはそう言ってシェウトよりも一歩前に出て構えた。するとギルガは余裕の笑みで2人に口を開いた。


「ならばぁ2人同時に来い。楽しければぁ誰が相手だろうと関係ねぇ。」

「「何っ!?」」


 アランとシェウトはその言葉を聞いて、大男に顔を向けた。彼らは思った。奴のこの余裕の笑みは何だろうかと。奴から感じる覇気のようなものは何だろうかと。そしてその後、彼らは思った。2人同時に相手にするなど、舐められたものだと。すると、彼らの後ろに立つライラがレイピアを抜き、口を開いた。


「貴様など、ここにいる全員で掛かればすぐに倒せる。我々と貴様らは互いに敵軍同士、誰が相手かなんて関係無いッ!戦場とリングを履き違えるなッ!」

「勝手にやらせておけライラ。」


 そう口にしたのは、静かにタバコを吸うリュオンだった。彼は続けてライラに話す。


「全員で掛かれば?…フッ、少なくとも俺はコイツに銃を向けない。興味がねぇからだ。おまけに俺は、既に戦場とゲームを履き違えちまっている。」

「それに、私たちが今すべきことは、ギルガとの戦闘ではないようですからね。」


 リュオンの後にそう話したのはエルドだった。彼は静かな目で周囲に目を配っている。ライラは彼が見る方向に目をやった。ぶつかり合うパーニズの兵士と魔物の群れ。地を染める赤。ライラはギルガに向けたレイピアを下ろした。


「………そう…ですね。今は魔物の殲滅と一般市民の避難が優先。アランさん、シェウトさん、ギルガは任せます。」

「大丈夫っすよ、ライラさん。絶対に負けないっす。」


 アランはライラに真っ直ぐな視線を向けて口にした。そして、レオ達がアランとシェウトを残して魔物の群れの方へ飛び出すと、2人は再びギルガの顔を見上げて構えた。


「待たせたな、ギルガ。一応言っとくが、全力で掛かって来いよ。」

「それはぁお前ら次第だぁ。俺を本気にさせてみろぉ。」


 ギルガは、アランにそう話した。彼らの間を、血の匂いを滲ませた静かな風が吹き抜けていく。アランとシェウトは目を鋭くさせた。


「「いくぞッ!!」」

「来いァァァァァッ!!」


 2人は同時にギルガに飛び掛かった。アランは右腕に付けた重いパワードアームを振り、シェウトは拳を突き出す。するとギルガは、アランのパワードアームを手首で、シェウトの拳を左腕のパワードアームで受け止めた。


「言ったはずだぁッ、俺を本気にさせてみろってェなぁッ!!そんな攻撃ではァッ!!」


 するとギルガは、アランの腹部を蹴り上げて彼を上へ飛ばし、左手のパワードアームを横に振ってシェウトの拳を払った。


「“金の拳”ィぁ!!」

「ッ!“破岩壁”っ!!」


 シェウトは咄嗟に踵を地面に叩きつけ、目の前に岩の壁を出した。しかし、ギルガの金色に染まった右腕はその壁を突き破り、シェウトの首を掴む。


「ぅがッ!!」

「フンッ!!」


 ギルガはシェウトの首を強く締めたまま腕を引き、シェウトの顔面に岩の壁を叩きつけた。


「ッ、がはァッ!!」

「“ ギガ・クラッシャー”ぁぁ!!」


 宙を舞うアランは右脚を突き出し、ギルガ目掛けて急降下した。それを見たギルガは、右腕を力強く引いて岩の壁を砕き、シェウトを上へ投げる。


「そぃァ!!」

「っ!?やべェッ!!」


 アランは突き出した右脚を曲げ、飛んでくるシェウトを体で受け止めた。すると、ギルガはパワードアームのレバーを1つ引き、上の2人に向けた。


これしき(・・・・)でぇ、くたばってくれるなよォッ!!」


 そして、ギルガのパワードアームから雷を纏った波動弾が放たれた。弾が2人に命中すると、稲妻のような大きな音を立てて爆発し、黒煙の中からアランとシェウトが降ってきた。2人は体を地面に叩きつける。


「っぐ…!」

「かァッ……!」


 ギルガは倒れる2人にゆっくりと歩み寄る。


「他と比べればぁ頑丈、しかしッまだ貧弱ッ!!その肉体ぃ、その気合いではぁまだ足りん。」


 アランとシェウトは傷ついた体を起こし、ギルガの笑みを見つめた。


「ッ……やっぱり強ェな……」

「…まともに正面から向かってはダメだ。こっちは2人で、しかもヤツよりは身軽。背後をとるには

十分な条件だ。やれるな。」

「言われなくても分かるってんだよシェウト。」


 そう言って2人は立ち上がり、構えた。ギルガは白い歯を見せて笑ったままだ。


「さァ来いッ!さっきの程度じゃぁ面白くねぇ。」

「あぁ、たとえ体が砕けても向かって行ってやるよ。ハァッ!!」


 アランは地面を強く蹴ってギルガの方へ飛び出した。


「“銀の拳”ッ!!」

「“金の拳”ィッ!!」


 2人の光沢をもった拳が、大きな音を立ててぶつかり合った。しかし、アランはじりじりとギルガの力に押される。すると彼は右腕のパワードアームを地面に付け、それを軸にして脚を振った。アランの蹴りがギルガの横腹に直撃する。


「ぬるいッ!!」

「ッ!?」


 ギルガは金色に輝く硬い拳を力強く突き出して、アランの銀の拳を押し切り、左腕のパワードアームの爪でアランの体を掴んだ。


「ぅぐッ!!」

「どうするッ!!このままではぁ体が握りつぶされてしまうぞォッ!!……ッ?」


 この時、アランは右腕のパワードアームでギルガの左脚を掴んでいた。そして、ここで一歩優勢だったのはアランだった。


「喰らいやがれェッ!!」


 アランのパワードアームから光が放たれ、脚を掴む大きな手が爆発した。先ほどギルガに蹴り上げられた時、空中で2つレバーを引いていたのだ。そして、ギルガの背後に1つの陰があった。


「“ゴーレムストレート”ッ!!」


 ギルガの大きな背中に、岩のような重い拳が捻じ込まれた。シェウトだ。アランがギルガに攻撃している間、気配を消して背後に回ったのだ。ギルガはパワードアームの爪からアランを離した。


「お前は攻撃力も防御力も桁違いだが、機動性と注意力は持ち合わせていないらしい。」

「だがぁ、それを補うものこそがぁ…パワーだァ!!」

「何ッ!?」


 ギルガはアランに掴まれている脚を持ち上げた。見ると、先ほどの爆発が無かったかのように、彼の脚はほぼ無傷、同様に背中にも傷は見えなかった。


「“ボルトサイクロン”ッ!!」


 ギルガの右脚に雷が纏われ、彼はそれを振り回した。アランは雷を全身に浴びながら振り回され、シェウトはその脚を横腹に受け、2人は遠くへ飛ばされた。地面に体を叩きつけて倒れる2人、その後起きあがろうとした彼らは動けなかった。感電し、身体が麻痺したのだ。


「うぅっ……」

「……ぅ……動けねぇっ……」


 状況は絶望的だった。動かない体をなんとか起こそうとし、目に入ったのは一歩ずつ地面を砕きながら歩み寄る大男の姿。彼らは悔しさを感じていた。まだ力は残っている、それなのに麻痺した身体が思うように動かないからだ。


「貧弱、ぬるい、まだ足りんッ。だがぁ、動けないとなればもはや最期。…俺に立ち向かった武闘家の中でもぉ、お前らはぁタフな方だった。それはぁ認める。せめてぇ俺の拳で砕けるがぁいい。」


 ギルガは倒れる2人の前に立った。彼の大きな影が2人に覆い被さる。その影は天高く拳を挙げた。彼らは死を覚悟し、目を閉じた。


「“サンダーボルトストライク”ッ——」


 その時、1つの陰がギルガの頬を蹴って、彼の前を通り過ぎていった。この時、ギルガは初めて怯んだ。


「ッぐ………この蹴りぃ…………フ…フッ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!やはりィお前かァッ!!俺と戦うにィ相応しい武闘家はァ!!」

「勘違いするなギルガ。戦いに来たわけではない。お前を止めに来たんだ。」


 ギルガの背後に着地した陰はゆっくりと立ち上がり、鋭い目つきで振り返った。犬のような耳をした黒髪の獣人、キドゥーだ。

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