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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
189/206

約束されし宣戦布告(オーメン)

 オーリンの村で一夜を過ごしたレオ達は、村の人々に別れを告げた後、ヴィーキングにローアまで送ってもらった。リィルとの仲を戻すことができたレオの顔は、少しだけ曇りが晴れているような気がした。


「よかったですね。リィルちゃんに失念(・・)の事、しっかり分かってもらえて。」

「…うん。それに僕も、カレンのことをいろいろ思い出す事ができた。」


 ネネカはレオに優しく微笑んだ。そして彼らは要塞都市の門を潜り、日の当たらない長い階段を上る。都市全体を囲むように聳え立つ壁は、いつ見ても圧倒される。するとアランは、パーニズの方向に首を向けて口を開いた。


「まさか秘宝持ちの魔物を2体連続で倒す事になるとはなぁ……これで光の階段はいくつだ?」

「108……だな。さっき船からパーニズを見たが、光の階段はほぼ闇の渦に届いてたぞ。」


 シルバがそう話すと、ちょうど彼らは長い階段を上り切り、広い道に出た。街は上品な落ち着きはあるものの、店の前を歩く人が増えて賑やかだった。


「そうか…もう階段は渦に届いてるのか……思い返せば、この旅も長かったな。」


 アランがそう言うと、レオとネネカは頷いた。


「そうだね。……辛い事もたくさんあった。だけど、この旅は僕たちを確実に成長させた。」

「いろんな方とも出会いましたね。ゲームの世界ではありますが、それでもこの世界での出会いには大きな意味があったように思えます。…美味しいものもいっぱいで…」


 彼らの中で、これまでの旅の記憶が蘇った。旅の始まり、戦い、初めての勝利、仲間との絆、突然の別れ、絶望の中で見た希望の光…全てが彼らを形作った。しかし、旅はこれで終わりではない。それを理解しているシルバは、彼らには何も口にしなかったが、真っ直ぐな目で彼らの背を見つめていた。


「さて…と。天界でみんなが待ってるぞ。」


 路地裏を通り、天界へと続く広場に出た。アランはそう言って、3つのティアステーラと陽光と月光の破片が置かれた場所に立つ。しかし、ネネカは立ち止まった。


「……どうしたの?ネネカ……」

「…………なんでしょうか……嫌な…予感がします…」

「何っ……?」


 ネネカの呟きで、レオとアランは目を大きく開いた。一方でシルバは天を見上げ、眉間にしわを寄せている。


「…………あぁ、すげぇパワーだ。味方では無さそうだ。……ハクヤ以上かもな。……天界に誰か居るぞ。」

「っ…じゃあ、コルト達が危ねぇんじゃねぇかッ!?」

「すぐに向かいましょうっ!」


 アランとレオは慌てて目を閉じ、天界へと消えた。それを追うようにネネカとシルバも天界へと向かった。










 目を開くと、そこは何も変わらない天界だった。黄金の雲海、苔の生えた石畳、聳え立つ宮殿と祠。コルト達は亀神を囲むように立っていた。しかし、彼らの様子がおかしい。


「…………居るっ。」


 シルバの目は鋭くなった。彼が視線に捉えていたのは、紫の大きなマントと白く長い髪を靡かせた男の後ろ姿だ。男の前に立つ亀神も、険しい表情をしている。シルバは口を開いた。


「誰だ。下界からでもその邪気がビンビン伝わってきたぞ。」

「……なるほど、銀刄のシルバか。」


 男はゆっくりと彼らの方に振り向いた。白い肌に鋭い目付き、肋骨のような鎧と漆黒の衣に身を包む彼は、背筋が凍るほどの存在感を放った。そして彼の耳は尖っていた。


「…な……なんだ…アイツ………ダークネスかッ…。今までの敵とはまるで違うッ……」


 アランは背負っていたパワードアームに手を掛けた。するとシルバはアランに手の平を向け、同時に亀神が口を開いた。


「止まれアラン。お前に敵う相手ではないッ。」

「……!!」


 アランは腕をおろした。すると男は表情を変えることなく彼らに視線を配った。


「………失念のレオ。レオ・ディグランス・ストレンジャー。」

「…っ!?」


 レオは驚いた。当然だ。自分は彼を知らないが、彼は自分を知っている。そして男は続ける。


「情火のガルア・ラウン、慈悲のクナシア・ネネカ、才智のコヨーテ・ルティエンス、刹那のシェルキー・アラート。下界にあと数人居るようだが、運命は貴様らを選んだようだ。」

「……き……急に…何を……」

「答えよう、レオ・ディグランス・ストレンジャー。貴様ら人間の行いは全て見せてもらった。人間という種族は死を前にすると秘めたる力を発揮する。しかしそれは生きる意思が強くなければ発揮されない。絶望の運命を引き裂き、その意思を力とする。私は名付けた。“ティア・イリュージョン”と。」

「……ティア・イリュージョン…………」


 レオの口からは、ただそれだけがこぼれ落ちた。なぜだろうか、彼の口から放たれる言葉でさえ、それを聞く彼らを圧倒する。しかし、そんな中でアランは一歩前に出た。


「そんな事はどうでもいいッ!!何者なん——」

「しかし予想外だった。流星のマァド・リリーマと、不動のオーガスト・リーグ、無常のヒロナギ・カルマがここまで到らぬとは。」

「ッ!!………ドーマと……オーグルと……カルマの事かッ………それは……テメェらダークネスが殺したんだろうがァッ!!テメェら一体なんなんだッ!?」


 アランは怒鳴った。しかし、男は動じない。


「ダークネス。それは闇。邪悪。暗黒。終焉。脅威。憎悪。この世界を聖と闇に分け、この世界を変革へと導く。この世界には変革が必要だ。流れゆく時代の中で誰もがそれを望んだはずだ。だが奴らはそれを成そうとせず、汚れきった血を流しては浴び続け、ただ震えながら身を潜め、そしてその愚かさを極めた。では誰がその変革を成す。誰が変革の旗を掲げる。私だ。私がその旗を高く掲げ、世界に鉄槌を下す。私は自ら貴様らの敵となり、あえて自ら悪を名乗ろう。私こそがダークネスの創造者であり、貴様らライトニングが討つべき存在、魔王ヴォルシスである。」


 魔王。それを聞いたレオ達は皆、固唾を呑んだ。奴だ。奴こそが彼ら人間をこの世界に閉じ込めた。奴を倒せば、この世界から現実世界へ帰ることができる。だがそれは、奴を倒さなければ帰ることができないということだ。彼らの前に立つその存在は希望であり、絶望であった。この体の震えは何だ。武者震いか。圧倒で生まれた恐怖か。


「えっと、魔王さん。ちょっと質問OK?」


 そう口に出したのはシルバだった。彼は軽い足取りでヴォルシスに歩み寄る。


「光の階段はもう渦に届いてる。そんでもって、ダークネスの大将自ら、ライトニングの世界の理を掌る神に会いに来た。つまり魔王さん、決戦の日は近いって事で正解?」

「あぁ、明日だ。明日、全ての渦から魔物を放つ。この戦いは時代を変え、世界を変える。銀刄シルバ、是非貴様とは一度刃を交えたかったが、人間が居る以上それは叶わないらしいな。私の刃は人間に向いている。」

「俺だって、ハクヤが居るからな。残念だが、今回はお預けだ。」


 シルバは口角を上げた。それを見たヴォルシスも少しだけ口角を上げた。2人の余裕の笑みからは、強者の覇気のようなものが感じられる。すると、ヴォルシスはシルバの腰に縛られた刀とココに目をやり、口を開いた。


「……シルバよ。貴様はまだ刀の神器を持っていないのだな。」

「あぁ、それが無くても十分戦えるがな。」

「駄目だ。変革を迎える戦争に神器は必要だ。…どうやら貴様らは神器の力を理解していないようだな。」


 彼は周囲に立つレオ達に目を配りつつ、右腕を横に伸ばし、大きな鎌を出した。その刃は鋭い光を不気味に放っている。


「神器には他の武器が持たない特別な属性を持つ。神属性。全ての属性に有効、加え聖属性と闇属性にはさらに有効。弱点は聖属性と闇属性が重なる攻撃ただ1つ。状態異常は封印。無論、私が持つこの大鎌も神器だ。」


 ヴォルシスは大鎌を回転させると、彼の手からそれは消えた。


「では、私はダークネスへと帰ろう。明日、貴様らはパーニズで待つと良い。共に新時代を迎えよう。“モーメント”。」


 そして、彼らの前からヴォルシスは消えた。レオ達は肩の力が一気に抜けた気分だった。すると、亀神はマリスとエルドの顔を見て、小さく口を開いた。


「……まったく…なんと気の毒な……。討つべき敵を統べる者が自身の父親とは……」(まぁ、わしの孫であるというのは言う必要無いかの。色々説明面倒じゃし。)


「………いよいよ……か……」

「うん。………生きて帰ろう。みんなで。」


 レオとアランはそう言葉を交わした。高ぶる緊張感のせいか、彼らを包む雲海の流れが速く見えた。

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