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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
166/206

重手甲

 天界にも日が昇り、雲海は黄金を取り戻した。アラン達は目を覚まし、ベッドから立ち上がった。そこにレオの姿は無く、ネネカは昨日よりも彼が心配になった。


「………レオさん…」


 すると、遠くから亀神の声が薄く聞こえた。


「………ぃ………ぃ………ぁ〜………ゆぃ…」


 シェウトとコルトは顔を見合わせた。


「………痒いのか。」

「じゃあまた下の世界で異変があったのかもしれない。行こう。」


 彼らは荷物をまとめ、亀神の元へ集まった。祠の下に立つ亀神が大きな体を揺さぶっている。昨日も見た光景だ。


「かぁ〜ゆぅ〜いぃ〜っ。」

「おはようございます亀神様。」


 ライラが亀神の前で片膝をつき頭を下げた。教会でも働いている彼は、神の前では特に礼儀正しい。


「あ〜もうっ、そういうのはどーーーでもいいっ!ほれっ、こっち来んかっ!背中がムズムズしてたまらんっ!」


 亀神の大きな体に飾られた宝石や金属がジャラジャラと音を立てている。彼らは祠に入り、亀神のガラスのような甲羅を見つめた。ガラスの奥に映る下界を隅から隅まで見回し、異変を探した。しかしよく分からない。


「どの辺りが……その〜……痒いんすか?」


 アランは亀神に問いかけた。


「ん〜そじゃな……。首から尻尾の方へスゥーーーっと真っ直ぐいって………あぁもう!説明しづらいのぉ!首と背の中心の間じゃ!森がないかのっ!?」

「………森?」


 彼らの目に映ったのは、以前エンペラーグリズリーの一件で降り立ったイルアの森だった。よく見ると、森の一部分が赤黒くなっている。紅葉などの赤い葉をつける木はあるが、それと比べると不気味で異常な色だった。彼らはその色に見覚えがあると感じたが、それはおそらく血だろう。


「………嫌な予感がします…」


 ネネカが小さな手を握りしめた。この世界に来て、彼女の予想はほぼ当たっている事を知るアランは、彼女のその言葉に固唾を飲んだ。


「さてと、選抜するかの。」


 亀神がそう口にすると、彼らの中の4人のアイテムポーチが光を放った。4人はアイテムポーチからアバトファクトを取り出した。選ばれたのは、アラン、カルマ、ライラ、マリスだった。


「……俺か。」


 カルマはアバトファクトを強く握った。亀神は目を閉じ、彼らに口を開く。


「…今回は厄介じゃぞ。前回の魔物の名をエリザベスと勝手に名付けたが、ヤツとは違う奇妙なものを感じる。気を引き締めてかかれよ。」


 4人は頷くと、アバトファクトを握って目を閉じた。






 冷たい風が頬を撫でる。アラン達は目を開くと、そこは要塞都市ローアの広場だった。アランは深く息を吸い込み、気合いを入れた。


「よし、じゃあ行くか。」

「ちょっと待って、その前にパーニズに寄らせて!」


 マリスがアランの前に立った。彼女は何かを待ちきれそうにない顔をしている。アランは彼女の表情の理由をすぐに理解した。ライラはそんな彼女に口を開いた。


「パーニズか。長居はできないぞ。」

「分かってるって!すぐだから!」


 そして彼らは4頭のペガサスを借り、パーニズへと飛んだ。






 その頃、ガイアの南にあるバルキの地で、ある人物の影が動いていた。この国は草木があまり育たないガイアよりも環境が悪く、空が陽の光を見せたこともない。そのため、人の姿もほとんどない。言わば死んだ国なのだ。


「………やっと……やっと見つけた……ッ」


 灰色の大地に両膝をつけた女が震える両手で何かを掴み、握り締めた。彼女の声は枯れており、目からは今にでも涙が流れそうだ。


「……これで………父さんも………あいつも報われる………」


 女は握ったそれを涙を流しながら抱きしめた。


「…後のことは…お姉ちゃんが……頑張るからね………ぅっ……っ…………フッ」


 笑った。女は肩を揺らしながら不気味な笑みを浮かべた。


「フフフフフフ……ハハハハハハハハァァッ!!殺してやるッッ!!私から家族も人生も何もかも全て奪ったお゛前を゛ォッ!!……オルクスッッッ!!!!」


 女がそれを握った瞬間から、彼女の運命は決められた。その手に握られていたのは、冥双角・ロンギヌスの名を持つ槍の神器だった。






「ただいまっ!」


 マリスが勢いよく扉を開いた。アラン達4人はパーニズのギルド小屋の前に降り立ったのだ。


「………あれ?誰もいない……」


 小屋の中は薄暗く、いつものような賑やかさは無かった。マリスが肩を落とすと、ライラが彼女の隣に立ち、小屋の中を覗いた。


「みんな揃って出かけたのか。……まったく、鍵もかけないで…不用心にも程があるよここの連中は。」


 彼はため息を吐き、中へ入った。続いてマリス、アラン、カルマも小屋の中へ入った。


「アラン君、こっちこっち!」

「あ…あぁ、はい。」


 2人は奥へと進み、大きな物体の前で立ち止まった。アランはそれに見覚えがあった。


「……これは。」

「そう!これこそ私の自信作!アラン君のために作った最っ強の武器だよ!」


 それは樽のような形の鉄塊に取手の付いたレールが5本あり、先には金属の拳がある大きな義手だった。


「その名も重手甲(パワードアーム)!ガントレットとキャノンを組み合わせた重装甲高火力を誇る武器で、普通に殴り飛ばすのもヨシ!レバーを引いて巨大なビームキャノン砲を放つのもヨシ!あらゆる状況下で活躍できる優れ物だよ!重いけど…」


 アランとカルマはそれを見て同時にある人物を思い出した。ブランカの武闘大会で突然現れたギルガだ。彼の左腕にも似たような物が付けられていた。息を呑むアランに、マリスは首を傾げて問いかけた。


「……どうしたの?気に入らなかった?」

「………っ、あぁいや、何というかそのぉ〜……ありがとう…ございます。」

「どういたしましてっ!さっ、右腕に付けてみて!」


 パワードアームには腕を入れる穴があり、鉄塊の横からは1本の太い管が伸びている。この管はおそらくオーグルが付けていた義手同様、背中につけるものだろう。アランは恐る恐る穴の中に右腕を入れ、持ち上げた。


「ぅおっ!ちょっと重いっ!」


 彼の感覚では10kgほどの重りを片手で持ち上げているようなものだったが、実際のこの武器の重量はそれよりも遥かに上だ。それほどの重量であるように感じるのは、彼の筋肉が大きく成長したからだ。するとマリスは太い管を案の定アランの背中に付けた。


「よしっ、じゃあ手を開いてみて。」

「手……こう…っすか?」


 アランはパワードアームの先を見つめ、右手を開こうとした。すると、アランの右手は動かず、パワードアームの先にある大きな拳が開いた。不思議な感覚だった。それに加え、管を背中に付けてから右腕の鉄塊が安定しているのを感じた。


「おぉすげぇっ!まるで本物の手みてぇに自由に動く!」

「よかったぁ!ちゃんと動く!そうそう、ビームキャノン砲を撃つ時は絶対に手を開いてね。じゃないとドッカーンだから。」


 マリスは嬉しそうだった。アランはパワードアームの手を開いては閉じてを繰り返し、上手く使いこなす事を心に決めた。そして、同じような武器を左腕に付けるギルガと、これから戦う未知の敵に対して闘志を湧き上がらせた。

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