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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
159/206

川はいずれ

 活力、恵み、鮮麗、3つのティアステーラを手に入れたレオ達は、ケルピーに乗って海を駆け、要塞都市ローアに戻った。長い旅を終えた3人の姿は、どこか誇らしげに感じる。聳え立つ白く分厚い壁の門を(くぐ)り、長い階段を上がると、そこには以前見た景色と同じように、純白の壁内を彩る青い屋根や人々の賑わいがあった。薄い雲が広がる空からはちらちらと雪が降っている。


「相変わらず、綺麗なトコだなぁ。」


 アランは微笑みと呆れを濁らせたような表情で呟いた。降る雪に太陽の光があたることで、この壁内がより一層美しさを増す。レオは口を開いた。


「とりあえず、女王様に無事帰還したことを報告しよう。」

「そうですね。行きましょう。」


 3人は奥に聳える城へ歩き出した。白い煉瓦の上を歩く音が弾んで聞こえる。建ち並ぶ民家や店の間を通り、中央の大きな噴水とすれ違うと、左右に街灯が立ち並ぶ橋が少しずつ見えてきた。その先に城がある。アランは頭の後ろで腕を組み、口を開いた。


「それにしても、俺たちよく頑張ったよな。あんなにデカくておっかねぇのと3日連続で会って交渉したんだぞ?」

「確かにそうだね。1週間ほど休みが欲しいくらいだ。」


 レオが微笑んでそう答えると、アランはある事を思い出し、レオを見た。


「……そういえばお前、また死にかけてたらしいじゃねぇか。無茶すんなってあれほど言ってんのに、それも守れねぇのかっ。いいか!?もう勝手に死ぬんじゃねぇぞっ!」

「……私からも………お願いします。」


 急に左右から強い視線を向けられたレオは、口角を下にして固くし、小さく頭を下げた。


「今後……気を付けますっ……」


 そうしてしばらく歩いていると、3人は城へと繋がる長い橋の前に出た。橋の先には、城の入り口であろう大きな扉と、その前に立つ4人の兵士が見える。冷たく優しい風がレオ達の背中を押す。固唾を呑んだ後、3人は橋を渡ると、1人の兵士がこちらに大きく手を振った。


「以前の旅の者か〜っ!!」

「そうで〜すっ!!」


 彼の言葉にレオは答えた。兵士は続けて大きく口を開く。


「そうか〜っ!!お前達には女王様から許しが出ているはずだ〜っ!!すぐに扉を開けるから少し待ってくれ〜っ!!」

「ありがとうございま〜すっ!!」





 そして彼らは城の中へ入り、女王の前に立った。女王は大きな椅子に姿勢よく座っており、鋭い眼差しで3人に視線を配っている。


「ほぅ……随分と早い帰還だったな。それで、ティアステーラは手に入ったのか?」


 女王は氷のような冷たい声でそう問いかけた。レオ達はすぐにそれぞれのポーチからティアステーラを取り出し、女王にその輝きを見せた。


「はい。このとおりっ……。」

「………なるほど、てっきり私はもっと時間がかかると思っていた。……が、どうやら、私が思う以上に力も運も持っているのだな。ご苦労であった。」


 その時初めて女王の口から温かい言葉が出た。しかし彼女は顔色ひとつ変えない。すると、女王は横に立つ兵士から何かを受け取り、続けて口を開いた。


「先ほど、お前達宛てにこんなものが届いてな。」

「……手紙…ですか………?」


 ネネカは女王が手に持つ物を見て小さく口を開いた。女王は頷く。


「あぁ。お前達が言っていたリュオンという者からだ。普通手紙というものは郵便局で預かる物だが…どうやらその者が私からの手渡しを望んでな……。まったく、変わり者だな。」

「…そう…なんですか。リュオンさんが………?」


 レオは首を傾げながら女王に歩み寄り、手紙を受け取った。そして静かにアランとネネカの元へ戻った。


「私からは以上だが、他に用はあるか?」

「いっ、いえ。無いですっ。ありがとうございましたっ。」


 アランは姿勢を正し、女王の鋭い目から視線を逸らしてそう答えた。


「よろしい。行ってよいぞ。……お前達にクラウ・ソラスの加護があらんことを……」


 その言葉の後にレオ達は頭を下げ、玉座の間を出た。部屋の大きな扉が閉まると、女王は小さく口を開き、呟いた。


「………そういえばあの手紙……裏に青い羽根が描かれていたな。………幸せの…青い鳥……か。………フッ、ますます気に入ったぞ。リュオン。」





 城を後にしたレオ達3人は、街灯が立ち並ぶ長い橋を渡り壁内中央の大きな噴水の前まで歩くと、レオを真ん中にして噴水の縁に腰をかけ、手紙を開いた。



〈これがローアに届く頃には、ティアステーラが3つ手に入っていることだろう。さて、お前らには天界の神を呼ぶために動いてもらったわけだが、大事なことを思い出してな。確かに3つのティアステーラは必要だ。だが、その他に2本の刀が必要だった。刀の名は陽光と月光だ。幸運なことにその内の1本、陽光はシルバが持っている。しかし月光はまだこちらには無い。そこでだ。引き続きお前らには月光の入手のために動いてもらう——〉



「はぁ〜っ!?もうヘトヘトだっての。……ったく、人にものを頼んでるのに『お前ら』って……」


 アランは頭を掻きむしった。しかし、手紙には続きがある。



〈——どうやらここから先の旅には危険が伴いそうだ。そこで、お前らに助っ人を手配することにした。使うといい。



リュオン〉



「………助っ人……?」


 レオがそう呟くと、3人の足元に複数の影が覆い被さった。


「よっ。」


 その声にレオ達は頭をゆっくり上げると、そこにはシルバ、マリス、ライラ、コルト、シェウト、カルマが立っていた。下を見ると、ココもいる。


「皆さんっ、来てくれたんですねっ。」


 ネネカのその声と同時にレオ達は立ち上がった。3人の前に立つ彼らの面構えはとても心強く思えた。


「あぁ。随分と頑張ってるそうじゃねぇか。ここからは俺たちも混ぜてもらうからな。」

「心強いですシルバさんっ!」


 レオはシルバの顔を見て、思わず握手を構えた右手が前に出た。シルバはそれに応えるように彼の手を右手で強く握った。シルバの手は大きくて温もりがあった。そしてアランが口を開く。


「それで、俺たち次は月光っていう刀を探しに行くんだけど……」

「話は聞いてるよ!それがある場所なら、簡単に分かるってシルバが言ってる。陽光と月光は、この前ハクヤと戦った時から共鳴を始めてるらしくてね。」

「だから、次はシルバと動いてもらう事になるから、よろしくね。」


 マリスとライラが、アランにそう答えた。すると、レオとの握手を終えたシルバが腰に手をあて口を開いた。


「よし、とりあえず今はメシにしよう。俺の奢りだ。」


 シルバは酒場へ歩き始めた。


「ぇっ……ぁあっ、待ってくださぁいっ!!」


 レオ達はシルバの背を追いかけた。

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