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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
149/206

森皇獣

『…ヌゥ………おぬしら…人間だな……』

「…は…はいっ。」


 森皇獣はレオ達3人にゆっくりと口を開いた。その巨大な体を前にすると、思うように口が開かない。森皇獣は続けて口を開いた。


『……ほぅ……そしておぬしが……武闘大会で優勝したガルア・ラウンだな……噂は聞いておる……そこのキドゥーとなかなかの激戦を繰り広げたそうだな……』

「っ!……そ、そうっす。」


 アランが固唾を呑みながらそう答えると、周囲に居た獣人達は大きく目を開いて彼を見た。


「あぁ!そういえば!」

「あの時の人間かっ!」

「あの試合は興奮したぜぇ!」


 獣人達の表情はますます柔らかくなる。すると、いつまでも冷静な顔のキドゥーが森皇獣に口を開いた。


「森皇獣様、申し訳ないが早速本題に入らせて欲しい。この3人がここに来た理由はかなり深刻なものでな。」


 その言葉で、周囲の獣人達は一斉に止まった。しばらく、風に揺れる葉の音だけが全員の耳元を通り過ぎていった。そして、森皇獣はレオ達にゆっくりと口を開く。


『……フム……聞かせてもらおうか……おぬしらがここに来た理由とやらを……』


 その言葉の後に、レオは1歩前に出た。その視線は鋭く、真っ直ぐだ。


「…ティアステーラを頂けないでしょうか。」


 彼の一言で、周囲の獣人達は互いを見合い、ざわめき始めた。


「おい聞いたかっ…」

「あぁ。……この戦争はもうその段階まで来てるってことだ……」


 森皇獣はしばらく目を閉じて黙った。そして、ゆっくりと目を開き、レオ達3人に鋭い視線を向けた。


『……呼ぶのだな。あの神を。』

「……はいっ。勿論、タダでティアステーラを頂こうとは思ってません。」

「ま、1個目貰う時がアレだったからなぁ。」


 レオが口を開いた後に、アランは両腕を後頭部で組んで苦笑いをした。すると、森皇獣は小さな笑みを見せた。


『フッ……さては、炎王竜に面倒をかけられたな?安心せい、ワシはヤツほど頑固ではない。それに、この世界とは無縁の人間がこの戦いに協力してくれるというのだ。取引など要らんよ。』

「しっ…しかし、それでは恐縮過ぎます。そんな簡単にティアステーラを頂くなんて……」


 ネネカは首を横に振りながら言った。レオも彼女と同じ事を思っている。森皇獣はしばらく黙った。


『………ん〜……』


 森皇獣は眉間にしわを寄せ、首を傾げている。


『ん〜………』


 すると、小さな蝶がひらひらと舞い、森皇獣の鼻に乗った。その途端に、森皇獣は何かを思い付き、3人に口を開いた。


『ならば、せめてワシの話を聞いてはくれんか。長い間胸の奥で閉じ込めていた話を……』


 森皇獣がそう言うと、レオ達3人は大きく頷いた。森皇獣は続けて口を開く。


『…うむ……ところでおぬしら、なぜ武闘大会が開かれるか知っておるか?』


 3人は顔を見合わせ、首を傾げた。


「……いえ、存じ上げません。」

『そうか。まぁ無理も無い。いい機会だ、おぬしらにも話そうか。』


 森皇獣の言葉で、周囲に居た全ての獣人族はその声に耳を傾けた。


『このブランカで行われる武闘大会は、そもそも力を競い合う行事ではなかった。嘗ては世の恵みを讃える祭典だったのだ。』

「……世の恵みを……となると、今行なっているものとは、かなりかけ離れているのでは……?」


 レオの口が動いた。すると、森皇獣は首を横に振り、口を開いた。


『いや、そうでもない。命ある者、恵みは大切だ。そして、今この世界があるのは、幾千もの力の交わり合いがあってこそだ。恵みがあるからこそ、活力が生まれる。そう考えてみれば、武闘大会を行うのは間違ってはいないだろう?』

「……まぁ、確かに。」


 アランは目を細くしてゆっくりと頷いた。森皇獣は続けて話す。


『しかしな、ある人物の影響で、この武闘大会の趣旨が力の競い合いに塗り替えられてしまったのだ。』

「……ギルガか。」


 キドゥーが鋭い目をして口を開いた。森皇獣は彼に頷く。


『そうだ。…キドゥーよ、すまないが、おぬしにとってこの話は古傷を抉るようなものになる。』

「問題ない。続けてくれ。……改めて胸に刻む必要がある。」


 キドゥーは腕を組み、目を閉じて耳を傾けた。


『…そうか。ギルガはな、キドゥーと共に旅をしていたのだ。初めは2人とも祭典などには興味は無かった。だがある日、ギルガはフワバという男と出会った。運命を変える出会いだったのだろう。彼の影響を受け、ギルガは武闘大会に興味を持ち始め、力を求めた。それからギルガとフワバは、祭典にとっては欠かせない存在となったのだ。』

「それで、人々も力を求め始めた……そういう事ですか。」


 レオが問いかけると、森皇獣は静かに頷いた。


『あぁ。しかし、ギルガは強くなり過ぎた。彼は戦う事だけに生き甲斐を感じるようになった。祭典で死者が出るようにもなった。彼を止めなければ獣人族の存在意義は崩れ、同族どころか多種族にまで影響が及ぶ……そう思い始めた時だ。現れたんだよ、奴が。』

「……魔王…」


 ネネカの口から言葉がこぼれ落ちた。


『奴はフワバや観客を殺し、ギルガを攫った。大鎌の一振りで左腕を落としてな。目的は分からんが、この種族に大きな傷を負わせた事に変わりはない。……話が逸れてしまったな。申し訳ない。』

「いえ、むしろ有り難いです。僕らはこの世界について、知らない事が沢山ありますから。」


 レオはそう言って微笑んだ。森皇獣も微笑んだ。そして、森皇獣の閉じた目から、虹色に輝く一筋の雫が流れ出てきた。アランはそれを両手で受け取ると、雫は固まり、宝石のようになった。


『ワシの話を聞いてくれてありがとう。ティアステーラだ。持って行きなさい。おぬしらにはこの世界を変える力がある。どうか、この戦いを終わらせてくれ。』

「……任せて下さいっ。必ず、ダークネスのヤツらをブッ倒しますっ。」


 アランはティアステーラを握り締め、真っ直ぐな眼差しで森皇獣を見た。


 レオ達3人は、2つ目のティアステーラを手に入れた。

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