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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
148/206

楽園

「……森皇獣に会いに……か。」


 キドゥーがそう小さく口を開くと、レオはゆっくりと頷いた。キドゥーは続けて口を開く。


「なるほど、目的は…聞くまでもないな。…まったく、時というのは待ってくれぬものだな。まぁ、これも宿命なのだろうが……」

「宿命……?」


 アランは首を傾げた。キドゥーは目を閉じながら大きく息を吐き、答えた。


「あぁ、ギルガとの決着をつけなければならない。……正直、憂鬱だ。……よし、ついて来い。案内してやる。」

「…っ!ありがとうございますっ。」


 ネネカの言葉と同時に、レオ達3人は頭を下げた。そしてキドゥーを先頭に、4人は大きな草を掻き分けて、森の奥へと進む。木々の葉や枝がつくる屋根によって、森中に鳥や獣の鳴き声が薄く響く。すると、キドゥーは3人に口を開いた。


「ここで再び会えたのも、何かの縁だ。近況報告でもし合おうじゃないか。…話しているだけで、多少の魔物除けにもなるし、な。」

「……近況…ですか……」


 レオがそう言って眉間に皺を寄せると、キドゥーの背に弱い声を吐き始めた。


「あまり面白い話にはならないかもしれませんが、キドゥーさんと別れてから、2度にわたるダークネスの襲撃がありまして……、とは言っても、僕、2度目は記憶に無いんですけどね…。」

「……記憶に無い……?」


 キドゥーは辺りを警戒しながら問うと、レオは一段と強い声で口を開いた。


「死んだんです。僕。」

「っ!?」


 キドゥーはほんの一瞬だったが、動きを止めた。そして、すぐに歩き出し、後ろを歩くレオと会話を再開した。


「殺されたのか…」

「はい、デルガドという男に。」

「デルガド……四天王の1人、グレイス・カーリーの弟だな。…まったく、カーリー家というのは昔から良い噂を聞かん。」


 すると、アランがキドゥーの背を見つめて口を開いた。


「その、四天王ってのは何なんすか?」

「あぁ、魔王の手先の中で、最も恐れるべき4人の事だ。召喚術士のグレイス・カーリー、超能力者のカイル、英雄王のギルガ、日本武芸の銀刄ハクヤ。聞いた話によると、カイルは魔王の妻だとか……。」


 その話を聞き、ネネカはふとある事に気が付き、言葉を溢した。


「そういえば、マリスさんがそのカイルって人の事、『お母さん』と言ってました……つまり、マリスさんは……」


 草を掻き分けて進むキドゥーはそれに対し、口を開いた。


「…そういうことだな。…そういえば、少し前に世話になったエルドっていう変わったダークネス、『魔王である父が許せないから』というのが理由でライトニングに移ったとか何とか…言っていた気がするな。……魔王に2人も子が居たとは驚きだ。」

「……兄…妹っ………、エルドさんとマリスさんであの歳の差だろ?……魔王、今何歳だよ……」


 アランは目を細め、苦笑いをした。すると、キドゥーは再びレオに問いかけた。


「…レオ、デルガドに殺されたと言ったな。しかし、今こうして生きているのはなぜだ?」

「……僕は、ティアクリスタルで生き返りました。」

「っ!ティアクリスタル……ただの噂、いや、伝説だと思っていたが、まさか本当にこの世にあるとはな。フッ、やはりお前達の軌跡というのは興味深いものばかりだな。比べて、俺の近況と言ったら……」


 キドゥーがそう言葉を吐くと、レオはキドゥーの顔を覗くようにして問いかけた。


「えっ…そんな、気にしないでくださいよ。キドゥーさんの武闘大会後の話、聞きたいです。」

「………トレーニングばかりしていた。」

「……あぁ〜…」




 そんな会話を続けていると、4人の前に蔦の壁が現れた。緑々と生い茂っているため、先が見えない。行き止まりと思われたが、キドゥーはそれを掻き分けて進んだ。


「ここから先は命を落とす可能性がある。足を止めるなよ。」

「はい。」


 レオ達も、先を行くキドゥーを見失わぬよう、垂れ下がる蔦を掻き分けて進んだ。蔦が多いせいか、両手で押さえるそれは重く、手を休めてしまうと体が潰されそうだ。そして前へ前へと進むにつれ、陽の光がほぼ届かなくなり、様々な緊張感に押し潰されそうに感じる。そんな暗黒の中を、レオ達はとにかく真っ直ぐ前へと進んだ。


「アランっ…ネネカっ……しっかりついて来てる?」

「…あぁ。」

「はいっ。」


 3人がそう口を開いたその時、キドゥーが掻き分けた蔦の間から光が差し込んだ。そして、キドゥーは後ろの3人の顔を見て言った。


「着いたぞ。くれぐれも、森皇獣様に失礼の無いようにな。」


 3人は蔦の暗闇から抜け出し、辺りを見渡した。蔦の壁で囲まれた空間は、色とりどりの花で地面が敷き詰められており、その上を複数の小さな蝶がひらひらと舞っている。見上げると、木々の枝に乗った小鳥達が小さな鳴き声で歌っている。まさに楽園だ。すると、木々の上から獣人族が次々と降りて来た。


「おぉ!キドゥーか!」

「おかえり、キドゥー。おや、お客さんかい?珍しいねぇ。」

「あぁ、森皇獣様に用があるんだと。すぐに会えるか?」


 どうやらキドゥーは獣人族の人々に人気のようだ。キドゥーがそう口を開くと、1人の獣人族が頷き、腰に掛けていた角笛を吹いた。その音は大きく、木々の葉を揺らす。すると、前方の蔦の壁が大きく開き、1本の道を作った。そしてその先から、巨大な鹿が地面を鳴らし、体を揺らしながら歩いて来た。体を包む長い毛は、苔で緑がかっており、頭から生えた2本の木のような角は、葉が生い茂っている。その壮大さに、レオ達3人は目を大きく開いた。


「……あれが……森皇獣……」

「………大きい……ですね……」


 そうやって見つめていると、森皇獣は目の前まで歩いて来て止まり、前脚と後脚を畳んで体制を低くした。だが巨大だ。そして、森皇獣はゆっくりと口を開いた。


『…ヌゥ………おぬしら…人間だな……』

「…は…はいっ。」


 森皇獣の太い声に、レオは咄嗟に口を開いた。地面を覆う花々の上では、先程よりも多くの蝶が舞っていた。

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