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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
146/206

Grim reaper's afterglow

 炎王竜から1つ目のティアステーラを手に入れたレオ達は、赤く煙る洞窟から地上に出た。空はすっかり暗くなり、雲の隙間から覗く月や星々が、足元の白い雪を小さく光らせる。冷たい空気を吸い込み、白い息を吐き出すと、3人はペガサスに乗った。ペガサスは大きな翼を広げて舞い上がる。


「これで1つ目か……先は長いね。」

「そうですね……今日は早めに宿に行きましょう。」


 レオとネネカのその声は、静かで冷たい夜空に溶け込んだ。高度を上げると、冷たい風の強さは増し、ペガサスの羽音は重たくなった。少し先に複数の松明の光が見える。メルビア村だ。レオは指をさし、口を開いた。


「よし、今日はあの村に——」

「なぁ……ありゃ何だっ?」


 アランは、2人とは反対方向の遠くを見つめていた。レオとネネカも彼の視線の先を見ると、そこにはメルビア村とは比べものにならないほどの光を放つ町があった。


「……あれは…北ラスカンの町だね。凄いな……」


 聳え立つ複数のビルは金塊のような輝きを放ち、その派手さに思わず息を呑む。すると、アランは視線の先の輝きに吸い込まれるように、ペガサスを飛ばした。


「決めたぁっ!!今夜はあの町で休むぞぉっ!!」

「ちょっとっ!!アランっ!!」


 レオとネネカも、アランに続いてラスカンに向かった。





 北ラスカン——


 通称、眠らない国。メルビアを囲む国で、町の大部分を占めるカジノには勝負師(ギャンブラー)が集まる。壮大な輝きを放つこの町は、まるでラスベガスのようだ。アランの目は輝いていた。


「すげぇ……この世界にも、こんな町があるんだな……」

「……で、どうするの?こんな所来て……。僕とネネカは早く休みたい気分なんだけど?」


 アランに向けられたレオの冷たい目は、この町の賑わいには似合わない。辺りを見回せば、ネオンに彩られた酒場や宿が陽気な雰囲気を放ち、馬車を引くアレイオンという馬の蹄の音が聞こえる。ゲームの世界とは思えない光景だ。アランはレオに笑顔で答えた。


「まぁそう怖い顔するなって。ただ雰囲気を感じに来ただけだからよぉ。」


 レオの表情は変わらない。アランは苦笑いで再び口を開いた。


「……一度こういう所行ってみたかったんだ。だから……な?」

「“な?”……じゃないんだよ。……はぁ……。今から酒場で晩ご飯食べて宿屋行くから、遊ぶ時間なんて無いよ。分かった?」

「うぇ〜ぃ…」


 3人は酒場に入ると、その途端に賑わいの笑い声や、アルコールの匂いが真正面から押し寄せて来た。ネネカは両手で鼻と口を覆った。


「うっ……酒の匂い……」


 レオはますます視線を冷たくし、アランに口を開いた。


「………アラン、良い店ないか聞いて来て。」

「えぇっ、ここで良いだろっ?」

「早くっ。」


 レオの冷たい目を見て、アランは頭を掻き、溜息を吐いてカウンターへと歩いて行った。店の端には、ビールが入っているであろう樽が並んでいる。客は太った中年男性や、肌を大胆に露出する若い女性が大半だ。アランはカウンターに肘を置き、髭が整えられた男性店員に声をかけた。


「あのぉ、失礼な事聞きますが、ここより落ち着いた店って…どこかに無いっすかね?」

「…お客さん、ここは北ラスカンですよぉ?この町はこんな店ばっかり、そんな事聞くお客さんは初めてですよぉ。」


 男性店員の予想外の対応に、アランは少し戸惑った。ゆっくりと入り口に目をやると、そこには冷たい目をしたレオだけが立っていた。ネネカは外に出たのだろうか。逃げ場を失ったアランは再び店員に口を開いた。


「えっとぉ……友達があまりこういう雰囲気好みじゃないらしくて……ヘヘッ…。全く、困っちゃいますよねぇ……急に、落ち着いた場所で食べたい〜…って言うから——」

「お客さんビール好きか?」

「へ?」

「この店はどこの店よりも美味いビール出してるだよぉ。それなのに、ここじゃない店聞くとは……んで、ビールは?」


 アランの額に汗が滲んだ。店員の圧力が激しい。背後からは大きな笑い声とレオの視線が襲ってくる。アランは深く息を吸い込み、姿勢を正して勢いよく頭を下げた。


「さーせんっ!!俺まだ16あたりなんで飲めませんっ!!」

「っ!!酒飲めねぇんならここに来るんじゃねぇっ!!んじゃぁこの店の裏回って左にあるチンケな店にでも行きやがれ小僧が!!」

「はぁいっ!!早速行ってまいりまぁすっ!!」


 アランは頭を上げ、手脚を揃えてレオの方へ歩いて来た。腕を組んで立つレオは口を開いた。


「で、良い店あった?」

「はいっ、この店の裏の左に、良い感じの店があるそうでございますですっ!!はぁいっ!!」

「うるさい。」





 その頃、この町の闇に隠れて動く者が居た。


「………あそこだな。………残り1時間を切ったか……」

『カァーッ!カァーッ!』


 男は、大きな酒場の屋根の上で、狙撃銃のスコープを覗いていた。肩に乗っているカラスが暗闇に鳴く。


「……騒ぎを起こすには丁度いい夜風だな。だが、仕事は常にクールに…だ。まぁ、イグンには期待はしないが。」





 レオ達は静かな酒場の中で座っていた。店の奥には4人の吟遊詩人が居り、吊るされたランプの優しい光に合うようなジャズを演奏している。レオ達の手にはハンバーガー、テーブルの上にはコーヒーとフライドポテトがある。


「良い店…ありましたね。」

「だね。ここなら落ち着いて食べられる。じゃあアラン、食べ終わったら静かな宿屋あるか聞いて来て。」

「……はいよぉ〜……」


 アランは深い溜息を吐いた。窓に映る暗い道には、人の姿はほとんどなく、静けさだけが感じられた。





 その頃、この町の、宿屋が並ぶ暗い道の上で——


「もうすぐだ。」

 男が言った。


「今宵は、我らの聖地で血を流す時。」

 老人が言った。


「我々は、親愛なる我が主の降臨を祈ると共に、このタルタロスとエデンに全てを捧げ、この日を待ちました。」

 若い女が言った。


「しかし、今宵の儀式はエデンへと向かうための礎に過ぎない。我々は常に救いを求めて来た。」

 痩せた男が言った。


「…………」

 女は黙っていた。


 5人は、暗闇に溶け込むような黒いローブに身を包み、フードで顔を隠して歩いていた。この小さな声の会話はしばらく続いた。同じ人が、同じ言葉を、同じ声の大きさと速さで……





 しばらくして、食事を終えたレオ達は、ビルの光が届かないような静かな道で大きな宿を見つけ、指定された2階の部屋に入った。初めに入った酒場の騒がしさなど、忘れてしまうほど落ち着いている。


「よし、今日はお疲れ様。明日に備えて、今日はもう寝よう。」

「そうですね。それでは……」


 レオはランプの火を消し、部屋を暗くした。身を包む布団が温かい。ゆっくりと目を閉じると、あっという間に暗闇に吸い込まれ、溶け込んでいく。









 ——はずだった。


「親愛なる我が主のためにっ!!」

「「親愛なる我が主のためにぃっ!!」」


 その大声にレオ達が目を覚ましたすぐ、鼓膜を破りそうなほどの射撃音が町中に響いた。隣の部屋から、ガラスが割れる音がする。アランは飛び起きた。


「なっ…なんだっ!?」

「……分からないっ……とにかく今は——」


 レオが彼に口を開いたその時、隣の部屋から、壁を突き破るような音に続いて生々しい男と女の悲鳴や破壊音が響いた。ネネカは突然の出来事に、布団を握り締めて震えていた。


「ギャァァァァァァッ!!」

「ア゛ア゛ァァァァァァァッッ!!」


 その悲鳴を最後に、その騒ぎは収まった。あまり長くはなかった。気になって仕方のないレオは、1人部屋の扉の前に立ち、ゆっくりと扉を開けた。すると——


「おっと、騒がしかっただろ?すまねぇな。連れが飲み過ぎて暴れ出してよぉ。」


 筋肉のある、スキンヘッドの男がレオに口を開いた。体の至る所に蛇の入れ墨があり、両肩には2人の男が担がれている。


「は……はぁ……?」

「おいバステルっ!!この兄ちゃんにちょっとお詫び払ってやりな!!」


 その男が隣の部屋に首を入れて言うと、1人の女性が現れ、レオに袋を渡した。中には100000セリアを超える大金が入っていたため、レオは目を丸くした。


「えっ、受け取れませんよっ、こんな大金っ。しかも、急に——」


 すると、その女性はレオの右耳に口を近づけて優しく囁いた。


「お休み、坊や。」

「えっ………」


 レオは固まった。その後、隣の部屋からもう1人、大きな袋を引き摺る若い男が現れ、その3人はレオに背を向けて階段を降りて行った。


「……何だったんだ………」


 すると、背後からアランが近付き、固まったレオに口を開いた。


「ん?なんだその袋。……んで、結局何の騒ぎだったんだ?」

「……連れが暴れたって……でも、絶対違うと思う………。アラン、ネネカ。明日起きたらすぐにここを出ようっ。」




 一方、その宿屋のエントランスでは——


「お客様っ、先程の音はっ!?」

「悪りぃ悪りぃっ、この2人が酒飲み過ぎて頭ブッ飛んじまいましてねぇ。」


 蛇の入れ墨の大男が陽気な顔で口を開いた。


「窓ガラスが割れるような音がしましたがっ!?」

「あ〜っ、アレねぇ。俺の右肩に乗ってるコイツが窓突き破って、2階から小便引っ掛けようとしたものでしてねぇ。…いやぁ、便所行くのが面倒くせぇって急に叫んで銃ブッ放すものですからぁ、こっちもビビってちびりそうでしたよぉ。ヘヘッ。おいバステルっ、修理代っ。」


 大男がそう口を開くと、その後ろで腕を組んで立つ女性はそれに答えた。


「さっきの坊やに全部払っちゃったわよ。騒ぎが起こったのは、全部貴方の責任なんだから……また今度払えば?」

「何やってんだこのショタコン女ぁっ!!あとっ、1番うるさくしたのはクローズのジジイだからなぁっ!!チィッ……後日、またここに来る。アトラム、行くぞ。」

「はいはい。」


 その3人は、宿屋を後にした。大きな袋を引き摺る若い男の指には、手榴弾が掛けられていた。

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