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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
144/206

竜の巣

 赤く曇る溶岩洞の中、レオ達3人は螺旋階段を降り始めた。階段は溶岩を中心に円を描き、奥まで続いている。ここから先は危険だという雰囲気が熱気となって底から湧き上がり、3人の肌を焼く。


「ふぅっ……暑いな……」


 アランの口から言葉が溢れた。額から汗が流れ落ちていく。全身の毛穴が開いているのが分かる。先頭を歩くレオは立ち止まって口を開いた。


「そろそろ効果が切れるか……2つ目のクールライチを使おう。」


 その言葉で、3人はポーチから赤い実を取り出し、皮を剥いて口に入れた。爽やかな甘さと氷のような冷たさが口に広がり、次第に体温が下がっていく。そしてレオ達は再び階段を降り始めた。





 しばらく降りたが、まだ階段は奥へと続く。不安になってきたネネカは小さい口を開いた。


「この階段……長そうですね……。無事に辿り着けるでしょうか……。」

「…うん。でも、クールライチはたくさん持って来たんだ。心配する事はないよ。」


 ネネカの言葉にレオは優しく答えた。しかし、どんなに降りても景色はあまり変わらず、まるで同じ道を何度も何度も歩いているようだ。底の中心で燃える溶岩に振り回されるように歩いていると、気が遠くなって目が眩む。すると突然、アランは足を踏み外し、体が溶岩の方へよろめいた。


「やべぇっっ!!」

「アランっ!!」


 レオは咄嗟に腕を伸ばし、アランの手を掴んだ。細かい石ころが底の溶岩に落ち、赤い溶岩の泡が弾ける。3人とも背筋が凍りしばらく止まっていたが、レオとアランは呼吸を取り戻すと、互いの握力に意識を集中させ、レオはアランを壁の方に引き上げた。


「ハァッ…ハァッ……危ねぇっ……死ぬかと思ったぁっ……!!」

「ハァッ……気を付けてよっ……」

「…悪りぃっ……。ハァッ……ハァッ……助かったっ……ありがとなっ……。」


 腰を下ろすレオと床に手と膝をつけるアランは、一瞬の恐怖に息を切らした。そんな2人を見て、ネネカは胸を撫で下ろし、ため息を吐いた。


「ふぅっ……驚かさないで下さいっ……。」

「悪りぃ…ついボ〜っとしちまって…」


 アランはそう言って立ち上がると、頭を掻いてニヤけた。が、ネネカの顔は真剣だった。まだ恐怖が解れていないのか、鼓動の止まない胸に手を当てている。するとレオは、ゆっくりと立ち上がりながら口を開いた。


「ネネカ、別にわざとじゃないんだから、そこまで怒らなくても……ね?」

「……ですが……死ぬかもしれなかったんですよ……」


 ネネカは胸に当てた手を握り締めた。そんな彼女を見たレオとアランは、互いに向き合って数回瞬きをし、アランはネネカに口を開いた。


「心配してくれてありがとよ。油断してた俺が悪かった。だから——ん?」


 アランは何かに気が付き、表情を変えた。レオはアランに問いかけた。


「どうしたの?アラン。」

「………声だ。人の声がする……っ!下からだっ!近いぞっ!」


 アランは螺旋階段を駆け降り始めた。レオとネネカも彼の背中を追うように足を進めた。視線の中で石の階段が次々と流れていき、辺りは徐々に赤みを増していく。そして、足場は階段から平地に変わり、3人の前に大きなトンネルが現れた。レオ達は足を止めた。奥は熱の霧で見えない。


「本当に人の声が聞こえたの?」

「…あぁ、間違いねぇ。はっきりとは聞こえなかったが、あれは確かに人の声だ。」


 レオの質問にアランは答えた。溶岩洞の深層に立つ彼らにとって、“人の声”というのは孤独や不安感を晴らすもののはずだが、今の彼らには安心など一欠片もない。逆に、こんなにも熱気が漂う地の底に人が居るというのは不気味に思える。


「この先に…居るのでしょうか……」


 ネネカは息を呑んだ。このトンネルの向こうに人が居る。そして炎王竜が居る。彼らはこの灼熱の中でどのように過ごしているのか。そもそもどのような姿をしているのか。謎は膨れ上がるが、好奇心には変化を遂げない。レオは口を開いた。


「行こう。」


 3人は赤い霧の中を歩き始めた。熱が全身の毛穴に刺さる。瞬きを繰り返さなければ、眼球が焼けて落ちそうだ。


 ——人の声がする。


 1歩、また1歩と進んでいくうちに、その声は大きくなっていく。


 広い空間に出ると、霧が晴れた。そこには、竜の顔をした人々の姿があった。竜人族だ。そこら中にテントのようなものが張ってある。住居だろうか。絨毯の上で座り込む竜の顔は、全てレオ達に向けられた。その目は鋭く、今にでも殺しに掛かって来そうだ。


「すげぇ……こんな溶岩洞の奥で、本当に住んでるのか……」


 アランの口から、そんな言葉が小さい声で溢れた。すると、ヒゲの長い1人の竜人が毛皮の絨毯の上で足を組みながら、レオ達に声を掛けた。


「何者だ……ライトニングではないな……」


 3人は固まった。固唾を呑み、その竜人の目を見るが、やはり鋭い目をしている。目で殺されそうだ。しかし黙っておくわけにはいかない。レオは深く息を吸って落ち着こうとした。が…


「ぅっ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」


 熱気が物凄い勢いで口から入り、喉を焼いた。


「下手に息を吸うな。ここは竜人族しか生きられん環境だ。」


 その竜人の声は落ち着いていた。レオは喉をやられ、苦しそうにしている。ネネカがそれを心配するようにレオに近寄ると、アランはレオの代わりに口を開いた。


「どうも、俺達は人間っていう種族でして〜、アランって言います。後ろのがレオとネネカっす。」

「……そうか。それで、人間がわざわざ何しにここへ…?」


 竜人はそう言って、小さな器に入った液体を喉を鳴らして飲んだ。アランは答える。


「炎王竜ってお方に会いたいんすけど…大丈夫そうっすかね…?」


 その言葉を聞いた全ての竜人達は目を大きく開いた。ヒゲの長い竜人は口を開いた。


「ほぉ……多少察し付いてはいたが、目的はティアステーラだな?ここまで来たのは大したものだ。この奥に進めば炎王竜様に会える。しかし、あのお方がティアステーラをそう簡単にくださるだろうか…」


 その竜人は再び器に入った液体を飲み、器を静かに置いた。アランは彼に軽く頭を下げた。


「あざっす!後の事は何とかしますよ。…レオ、大丈夫か?」

「うん。ネネカの回復魔法で取り敢えずは…」

「行きましょう。ティアステーラをもらいに…」


 3人はさらに奥へと歩き出した。この先に炎王竜が居る。

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