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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
137/206

要塞都市ローア

 要塞都市ローア——


 中央の大陸の北に建つその場所は、中継貿易で栄えるパーニズに続く繁栄都市だ。巨大な防御壁や厳重な警備により防衛力は高く、都市自体が白い煉瓦でできた城であるこの場所は、魔物の侵入を許した事はないという。


「……すごい……ここが……ローア…。」


 ペガサスから降り、白い煉瓦の上に立ったレオ達は、目を輝かせて辺りを見渡した。住民や冒険者らしき人々で賑わう中、パーニズとは違って多くの兵士が紛れるように歩いている。


「綺麗なとこだなぁ。ここが今日から俺達の拠点になるってワケか。」


 アランの心は躍っていた。白い壁内を彩る鮮やかな青色の屋根からは、清楚な表情も感じられる。


「それで……リュオンさんが言ってた事、聞きに行くんですよね…女王様に…」

「うん。………ぁぁ…ダメだね……そう言われると、なんだか緊張してきた……」


 ネネカの言葉を聞いて、レオは脈を走らせた。


「おいおいしっかりしてくれよ、一応、俺達のリーダーなんだからよぉ。」


 アランは呆れた顔で彼に言ったが、今まで頼りにしていた彼のその姿を見直して、違和感を抱いた。


「………なぁ……レオ……」

「…っ……なに?…アラン。」

「…………いや、なんでもねぇ。行こうぜ、行かなきゃ何も始まらねぇ。…だろ?」

「……うん、そうだね。」


 3人は、一際目を引くほどに聳え立つ城へ歩き始めた。通り過ぎていく民家の列も、人々が集い賑わう商店街も、城の根と化して溶け込んだように白い煉瓦でできている。複数の交差点の中心に置かれた噴水は、見入ってしまうほど綺麗だ。


「パーニズも良いけど、ここは違った居心地の良さがあるな。」

「うん。僕も気に入ったよ、この町。……ところで、女王様ってどんな人なんだろう。」


 するとアランは、レオのその言葉に振り向き、苦笑いをした。


「…まだ緊張してんのかよ。大丈夫だって。多分ここの女王は、この町みたいに清楚系で…優しくて…綺麗で…お淑やかで……」

「わ…私もそう思います……と、言うより、そうであって欲しいというか……」

「………そっか。」


 3人は頭上で妄想を膨らませながら、人と人との間を歩いた。





 しばらく歩くと、レオ達は左右に街灯が立ち並ぶ橋の前に出た。橋の先には、城の入り口であろう大きな扉と、その前に立つ4人の兵士が見える。


「うっわぁ〜、すっげぇプレッシャー……。やっぱ俺も緊張してきたわ〜……。渡ってダメな気もしてきた〜……。」

「……行こう。」


 レオがそう言って橋に1歩踏み出したその時、遠くに見える兵士の1人が大きく口を開いた。


「旅の者かぁ〜っ!!」

「っ!!……そっ…そうで〜すっ!!」


 レオは咄嗟に言葉を投げ返した。すると、4人の兵士は何やら顔を合わせて話し始め、再び大きな声を放った。


「すまないがお前達を通す事はできない〜っ!!」

「あ、やっぱ渡ってダメなのね〜…」


 アランは目を細くして肩を下ろした。しかし、兵士は続けて口を開いた。


「それなりの戦果を証明できる物でもあれば通してやらんでもないが〜っ!!」

「っ!?どういう事です〜っ!?それ〜っ!!」


 アランは顔を上げ、兵士に問いかけた。


「この国の女王様は用心深くてねぇ〜っ!!見ず知らずの人との面会は好まないんだぁ〜っ!!」

「…なるほど。でしたら……レオさん、アランさん、秘宝クエストを受注しましょう。強い魔物の秘宝を持って来れば、貢献度を証明する事ができ、城へ入れるはずです。」


 ネネカの言葉を聞いたレオは、表情を明るくして頷いた。


「そうか。よ〜し……。分かりましたぁ〜っ!!ちなみに〜っ、クエストはどこで受注できますかぁ〜っ!!」

「中央広場付近に酒場があるから〜っ、そこに行くと良い〜っ!!大きい噴水が目印だぁ〜っ!!健闘を祈る〜っ!!」

「ありがとうございま〜すっ!!…行こう。」


 レオ達は振り返り、中央広場へと歩き出した。先ほどとは逆方向から見る壁内の姿もまた新鮮で、3人を一瞬にして魅了させた。すると白い羽根が1つ、ひらひらと落ちてきたので、ネネカは青い空を見上げ、4頭のペガサスが冒険者を乗せて飛び立って行くのを見送った。






 3人は商店街を抜け、中央に大きな噴水がある広場に出た。広場を囲むように酒場や宿屋が建ち並び、ここも多くの人で賑わっている。


「え〜っと酒場…酒場……あれだ。」


 レオがビールが描かれた看板に指をさすと、3人はその建物へ歩き、中へ入った。


「いらっしゃいませ〜っ。」


 奥のカウンターから女性の声がした。左にはテーブルと椅子が綺麗に並んでおり、パーニズの酒場とは違って落ち着いた雰囲気だ。


「……なるほどっ…こりゃますます、女王様の清楚系説が濃厚になってきたな。」


 アランは酒場の中の隅から隅まで目をやり、腕を組みながら小さく数回頷いた。そしてレオ達はカウンターの前に立ち、受付嬢と目を合わせた。


「いらっしゃいませ、ご用件は何でしょう?」

「秘宝を入手できるクエストを受注したいんですけど、Lv60前後のってありますか?」

「はい、少々お待ち下さい。」


 受付嬢はレオの言葉に笑顔を見せ、カウンターの奥にまとめて置かれた紙を見つめた。そして1枚の紙を手に取り、カウンターの上に置いた。


「こちらのクエストはいかがでしょう?場所はカリファの森なのですが、ププカブラという秘宝持ちの魔物が出たとの事です。」

「ププカブラ……どんな魔物なんです?」


 レオは問いかけた。受付嬢は彼に口を開く。


「はい、壺のような胴体に毒を溜める、巨大な植物系魔物です。無数の太い根を脚にして動き、鋭い葉で獲物を斬り裂くとか…」

「そうですか。レオさん、解毒剤を買って行きましょう。」

「うん、そうだね。」


 ネネカの言葉にレオは頷くと、受付嬢と目を合わせた。


「それじゃあ、このクエストを受けます。」

「分かりました。それでは、無事に帰還なさる事をお祈りします。」


 受付嬢は3人に笑顔を見せ、カウンターの上に置かれた紙に、羽根付きのペンでサインを書いた。


「そんじゃ、商店街寄ってから、カリファに行くとするか。解毒剤もだが、レオの剣を買わねぇとな。」

「そうだね。」


 3人は酒場を出て、商店街へと歩き出した。



 再び、レオ達の新たなる旅が始まろうとしていた——

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