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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
135/206

御伽噺

「やぁレオ……元気かい?」


 病室のベッドの上で体を起こすレオは、その小さな声に振り向いた。入り口に立っていたのは、右目に包帯を巻いたコルトと、返り血が滲んだ白い服のシェウトだった。


「……コルト………その目………本当だったんだね……」

「うん。…ちょっと無茶しちゃたよ……。」


 コルトは微笑んだ。レオはその顔を見つめていると、胸が黒いものに掴まれて苦しくなるのを感じた。そしてレオには、片目を失った彼の心の底の悲しみや絶望感が少しだけ見えていた。


「………僕を……生き返らせるため…に………」

「……何言ってるんだよ。別にレオが悪いわけじゃないのに……」

「そうだ、悪いのはダークネスだ。…だからよ、自分を責めるようなワケ分かんねぇマネはやめてくれ。」


 静かにそう呟いたレオに、コルトとシェウトは答え、レオの横の椅子に座るアランと並ぶように立った。


「それよりレオ、凄かったんだよ。君が生き返る時。」


 その言葉を放ったコルトの目は、予想以上に輝いていた。心の奥に刻まれた傷を隠した笑みだろうが、そんな事よりも伝えたいという輝きだった。レオはゆっくりと首を傾げた。


「……僕が…生き返る…時……?」

「うんっ。僕がグレイスに追い詰められて、もうダメだって時に、他とは違う光る石を見つけて、それを握って…レオっ生き返れ〜……って心の中で叫んだんだ。そしたら、急にその石が虹色の強い光を放って、アラン達の方へ飛んで行ったんだ。それを見たグレイス、頭抱えて動かなくなったんだよ。」


 コルトの話を聞いたレオは、驚くこともなくただ黙っていた。まるで自分の事ではないように聞こえ、同時に御伽噺(おとぎばなし)のようにしか感じることができなかったのである。すると、アランがその話に続くように口を開いた。


「その後、デルガドと戦っていた俺とネネカの前に、お前が現れたんだ。ガラスの破片みたいなモノでできた翼生やして、光の剣持っててよ。あと目が特徴的だったっけか。白目んトコ真っ黒で、瞳が銀色でよ。」


 レオにとってはこれらの話はさっぱり理解できなかった。しかし、アランの口は止まらない。


「実はその時、大量の殺人ロボットに囲まれてたんだ。でも、お前が飛んできた瞬間、ソイツら全部動かなくなっちまってよ。そんで、お前がデルガドを一瞬で倒して気絶した後、シルバさんとクレアさんが助けに来てくれて、今に至るってワケだ。」


 アランとコルトの表情には笑みが浮かんでいたが、レオは2人から目を逸らすように下を向き、静かに苦笑いをした。


「そう……だったんだ。そんなに凄かったんだね………その人……」

「………何言ってるの……?君の事だよ?」

「それは僕じゃないよっ!!」


 レオはコルトに怒鳴ると、拳を握り締めてベッドを叩き、歯を食いしばった。アランは彼の言動に驚いた。


「おいっ、急にどうしたんだっ。」

「僕にはそんな記憶が無いっ!!翼が生えてた!?眼の色が違った!?あのデルガドを一瞬で倒したって!?まるで化け物じゃないかっ!!!」


 病室は静まり返り、レオの荒い息だけが、彼らの鼓膜を揺らした。しばらくすると、レオはまた小さく口を開いた。


「……もしかしたら……僕が知らない間に、みんなを殺していたかもしれないんだ………そう…一瞬でね……。それに、本来僕はもう死んでいて…ここに居るはずが無いんだ……。こんな化け物生き返らせるくらいならっ……僕なんか生き返——」

「っ!!」


 その時、アランはレオの胸倉を掴み、彼を持ち上げながら立ち上がった。


「レオぉ………それ以上言うんじゃねぇっ………今言っておくべきだろうから言ってやるっ、どれだけの俺の葛藤の上にお前が立っているかをなぁっ!!」

「…っ……ダメだよアランっ……腹の傷がっ…」

「そんなの関係ねぇっ!!」


 持ち上げられたレオの目に映ったのは、アランの怒りに満ちた顔と、赤色がじわじわと広がる腹部の包帯だった。アランは続けて口を開いた。


「俺はなぁっ!!あの山でティアクリスタルを見つけたらドーマを生き返らせようって考えを密かに握ってたんだっ!!それは、目の前でレオのためにって精一杯頑張ってるネネカを見てもだ!!俺はなぁっ、ネネカを裏切ろうとしてたんだよぉ!!」

「っ!!」


 レオはアランの真剣な目を見て息を呑んだ。彼の勢いのある声がレオの胸を貫く。


「一方でネネカは、お前が死んでから、まるで別人のように強くなったっ!!自分からリーダーに名乗り出て、俺達を引っ張ってくれたっ!!……でもなぁ…そんなアイツも結局変わってなかったんだっ……夜になると……お前を失った責任感を自分に叩きつけて泣いてたんだ…………」


 レオの胸倉を掴んだアランの硬い拳は震え始めた。レオの心は濁流のように荒れ狂い、渦巻いていた。すると、アランの横に立つコルトが小さく口を開いた。


「レオ……正直に言うと……僕も、ティアクリスタルを握った時、すぐにレオを生き返らせようって思ったわけじゃないんだ。エルア、オーグル、スフィル……僕だって大切な友達を失った。……それでも僕は、レオ。君を選んだんだ。」

「……コルト…」


 レオは涙を流すコルトを見つめた。するとシェウトも、それに続くように腕を組んで口を開いた。


「俺も、町にペガサスが残ってたら、コイツらと一緒に屍山に行きたかったさ。もし行けたら、俺が守りきれなかったベリル、ユスーチ、コラーグの中の誰か生き返らせて謝ろうと思った。……レオ、お前が手に入れた2つ目の命には、数では表せねぇほどの価値があるんだろうよ。」

「…………シェウト……」


 レオは微笑むシェウトの顔を見た。先ほど言い放った後ろ向きの言葉が、どれだけ無責任だったのかをレオは噛み締め、再びアランの鋭い目を見つめた。するとアランは口を開いた。


「……どうなんだ………。それでも………お前は…生き返らない方が良かったって吐き散らすのかっ……。どうなんだっ!!」


 すると、レオの頬に雫が流れ落ちた。レオはゆっくり口を開き、震える声を、前に立つ3人に放った。


「……アラン……みんな………。ありがとう……やっと目が覚めたよ………。僕は……生きるよ……っ。」

「あぁそうだ。お前は、俺達がこのふざけた世界に堕とされた時に言ったはずだっ。みんなで力を合わせて魔王を倒し、現実の世界に戻るってなぁ!!それが叶うのなら、お前がどんなに凶暴で最低な化け物でも構わねぇっ!!俺達が生まれ育ったあの世界に帰るまではぁ……しっかり生きてもらうぞ。」


 アランは言葉を吐き切ると、レオの胸倉を掴む手を緩め、彼をゆっくりベッドに戻した。レオは涙を腕で拭き、微笑んだ。アランとコルトとシェウトも笑った。


「アランって、こういう時だけいい事言うよね。」

「あぁ?じゃあ普段の俺はどうなんだよコルト。」


 病室の空気はまるで洗濯されたかのように、一瞬にして綺麗に透き通ったものになった。するとシェウトはアランとレオを交互に見つめ、口を開いた。


「そういえば、ロックエイプのあのクエストでお前らと別れた時から、ずっと話したかったんだ。あの後、お前らがどんな旅をしたのかを。」


 シェウトのその言葉を聞くと、レオとアランは複雑な目をして彼を見た。その後しばらくの間、レオとアランは時間を忘れるほどシェウトに話した。倒した魔物、出会った仲間、悲しい出来事、2人の口からそれらは溢れ出た。しかし、ある話にたどり着いた時、部屋に冷たい風が吹いたのだった。


「それで、最初にデルガドを倒した時、その姉のグレイスが急に現れて………ヤツにドーマが殺されたんだ。」

「……その後、僕とアランとネネカは、それぞれ違う国に飛ばされてね……。ちなみに僕は、パーニズの南にある島に流れ着いたんだ。そこでは村の人達にお世話になって、それで——」


 突然、レオの言葉が止まった。


「………おい、レオ…?」

「………そう言えば、島での事…お前に聞いてなかったな………。急に黙り込んでどうしたんだ?」


 シェウトとアランは、レオの顔を覗くようにして見て問いかけた。レオの頬に一筋の汗が流れ、瞳と手が震えた。


「………あれっ………おかしいな……2人で…旅したはずなのに………その人……助けるために……一緒に船……乗ったのに…………」


 レオは、自身の心の大きな穴に気が付いた。


「…………誰……だったっけ……っ」

「……おい…まさか……お前……」


 アランは恐怖で縮むレオに、目を大きく開き、固唾を呑んだ。その時、その場の空気を砕くように、扉をノックする音が病室に響いた。扉が開くと、そこには黒く大きな鎧で身を包むエレナスが居た。


「……お前ら、話がある。ギルドの小屋まで来てくれ。」

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