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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
134/206

涙の幻想

「………おいっ……そん…なっ………嘘……だ…ろ…………っ?」


 血で染まる横腹を押さえるアランは、瞳に映る光景に喉を震わせた。手足の先まで力が抜けていく。


「………ぉぃ…ぉぃぉぃおいおい………俺の見る未来には……居なかっただろうが………」


 デルガドの表情は、深く濃く濁っていた。彼の握る剣は音を立てて震えている。彼の前に居たのはネネカではなく、彼が見るはずのなかった少年だった。少年の握る光の剣が、殺意と憎悪に満ちた彼のアロンダイトを受け止めている。そして、ガラスの破片のような翼が生えたその少年は、静かに口を開いた。


「貴様を殺す。」

「レオ・ディグランス・ストレンジャーぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 デルガドは左の剣を振ると、視界から少年は消え、涙を流して腰を抜かすネネカと目が合った。


「っ!!そこかぁっ!!」


 デルガドは振り返りながら左の剣を振った。だがその時、彼の目に映ったのは、血飛沫を噴いて飛んでいく左腕と、少年の変わり果てた目だった。本来白いはずの部分は漆黒に染まり、瞳は殺意に満ちた銀の色をしている。


「はっ…速さが俺の予知を勝るだとっ!?…っ!!こんな事がぁぁっ——」


 少年はデルガドの腹に足を捻じ込み、彼を飛ばした。


「あ゛ッ゛ッてェ゛ェ゛ッ——」


 デルガドは砂埃を上げて地面を踏み締めると、途端に足の感覚が無くなり、体が宙に浮いた。彼の目に映ったのは血飛沫を噴いて飛ぶ両脚だった。


「たァ゛ま゛る゛かァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!」


 デルガドは目の前の少年に右の剣を振り下ろすと、少年の握る光がデルガドの右腕を斬り飛ばした。そして少年は彼の口に光の刃を挿した。デルガドはその時初めて、少年が与えた断末魔に気が付いた。


「…………………ぁ………ぁがっ…………………ァァ…ァ……………オエ゛(俺)はぁっ………ま゛だぁっ………オルクス…を゛ぉ゛ぉ゛………っ!!」


 少年は光の刃を押し出して彼の頭を串刺しにした後、刃を縦にしてバク宙をすると、彼の頭は2つに割れ、脳と血と髪を撒き散らして地に落ちた。瞳が上にいったままのそれは、もう動く事は無かった。


「………」

「……貴様ぁ……………貴様ぁぁっ!!」


 無惨な姿の塊を見下す少年は、その女の声に振り向いた。そこに居たのは、息を荒げて瞳と手足を震わせるグレイスだった。


「………………っ……やむを得んっ……“モーメント”っ。」


 グレイスは悔しさと悲しみと怒りを噛み締めながらそう言うと、彼女の足元に魔法陣が現れ、その後彼女は消えた。辺りは一気に静まり返った。


「レオ…………さんっ——」

















































「入るぞぉ。」


 扉をノックする音が病室に響いた。とても静かな朝の光と風が、窓のカーテンを揺らしている。


「…どうぞ。」


 扉が開くと、そこには韓紅花の衣が揺れるシルバと、それに肩を借りるアランが居た。彼の腹部には包帯が巻かれている。


「………よっ。レオ。」

「うん。………大丈夫…?……その怪我……。」

「あぁ………まぁな。」


 するとアランは、ベッドの上で体を起こすレオに近寄り、ベッドの横の椅子に腰を下ろした。


「…シルバさん、あとは大丈夫っす。」

「ん。そっ。んじゃ、ごゆっくり〜。」


 アランはシルバに軽く頭を下げると、彼はそう言って病室から出た。扉が閉まると、しばらく沈黙が続き、小さい声でアランが話し始めた。


「……………なんか……不思議だな……またこうやって……レオと話す日が来るなんて……。」

「………そう?………僕は…普通……かな。」

「フッ……なんだよ………それ。」


 アランが静かにニヤけると、再び2人の間に静かな風が吹いた。するとレオは、ふと思い付いた疑問をアランに言った。


「……そういえば、ネネカは?」

「ぁ…あぁ……ギルドの小屋で休んでる。……なぁ………早速聞くが、どこまでの記憶が残ってる…?その…なんて言うか……お前が…死ぬ直前とか——」

「覚えてるよ。鮮明にね。」

「っ!!」


 レオの冷たく鋭い言葉に、アランは胸を裂かれ、固唾を呑んだ。


「……そうか。それは……悪い事聞いちまったな…」

「いや、気にする事はないよ。それに、言ってしまえば…黄泉での記憶も残ってる。」

「なっ!?……黄泉って…………つまり死後の世界ってやつだよな………どんな感じだった…?」


 アランは瞬きする事なくレオの口を見つめた。しかし、ふとアランはレオの静かな目に“明日”というものが映っていないように感じた事を先に触れるべきだったか、と悩み始めたが、レオは気にする事なく口を開いた。


「……寂しい所だったよ。どこを見ても真っ白なんだよ。……あ…そうだ……ハクヤさんに…会ったんだ。」

「っ!?ハクヤにかっ!?大丈夫だったのかっ!?」


 アランは思わず立ち上がった。しかし、横腹の傷が響き、またゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「…黄泉のハクヤさんは、まるで別人だったよ。色んな事を教えてくれて……。どうやら、今ダークネスにいるハクヤさんは、魂を抜かれて、邪心を入れられたものらしいんだ。……あ、そうだ……ハクヤさんにスクロールを貰ったんだけど……」


 レオはそう言ってアイテムポーチや布団の中を調べたが、巻物のような物はどこにも見当たらなかった。


「………あれ?……どこだ………?」

「…なぁレオ、そのスクロールってのは…?」

「ん?……確か……エクス…カリバー……だったっけ?」


 アランは目を大きく開いた。先程からレオに驚かされてばかりだ。レオは付近を調べ続けている。そしてアランはある疑いを持って口を開いた。


「……あれ……おかしいなぁ……確かに貰ったはず………」

「……なぁレオ。質問したい事がいくつかできた。……俺のこの傷は……誰にやられたものだと思う…?」


 アランの質問にレオは動きを止め、首を傾げた。


「………さぁ?……『誰』って……魔物じゃないの?」

「……じゃあ次だ、ネネカがギルド小屋で休んでる理由は?」

「………それは…クエストとか頑張ったからじゃないの?……だってネネカ、頑張り過ぎちゃうトコロあるし。」


 レオは静かに微笑んでそう答えた。しかし、そうやって予想を投げていくうちに、アランの表情は曇っていった。


「……じゃあよぉ、なんで俺以外、見舞いに来ない?」

「……え?」


 アランの鋭い表情に、レオは喉を締められた。そんな彼の無知な顔を見て、アランはため息を吐き、ゆっくりと口を開いた。


「……生徒の大半がやられたのさ。魔物と……デルガドに。」

「っ!!……まさか……僕を生き返らせるためにじゃあ……無いよね……?」


 アランは悔しさを噛み締めて黙った。レオは彼の顔を見て瞳を震わせた。


「…嘘……だよね………」

「……中には自身の友やら恋人やらの復活を試みるヤツもいたさ。いや…それの方が多かったか。少なくとも、レオの復活を試みたアイツらは………っ。……コルトはグレイスに右目を潰され…デニー、レヴェン、セドル、オーグル、スフィルは………殺された。」


 アランは床に映る自身の影を見つめてそう言うと、前から荒れた息が聞こえた。見ると、レオは両手で頭を抱え、絶望に押し潰されていた。


「……ぁ………ぁぁ………どうしてっ………どうしてこんなっ…………」

「……それで——」

「許さない…」


 レオは鋭い目をして正面の壁を睨み付けた。レオは続けて口を開く。


「許さないっ……!!アランっ、僕はデルガドを倒しに行くっ……!!僕だけでもっ!!……止めたって無駄だからっ!!」

「レオ………やっぱ……覚えて無いのか………。デルガドは………お前が殺したんだぞ。」

「……………………………………………え?」


 2人の間に冷たい風が吹いた。アランがそんな言葉を溢した時には、レオの表情に怒りは消えていた。


「ネネカが見舞いに来ない理由を教えてやる。………屍山で俺達の前に現れた時のお前は………まるで別人だったらしい。……殺人鬼…だったっけか?ネネカは…あんなレオはレオじゃねぇ………ってよ。」


 アランの言葉を聞いたレオは、下を見て小さく口を開いた。


「……………失念」

「…え?」


 レオの口から溢れ出た言葉に、アランは眉間にしわを寄せた。レオは続けて口を開いた。


「ハクヤさんが言ってたんだ。人間には秘められた力があるって。アランが武闘大会の時に炎を纏ったように、僕にはモノを忘れる事を代償に力を手に入れる能力があるらしいんだ。……そっか……ネネカに…怖い思いさせちゃったね……」

「……フッ」


 するとアランは、静かな顔のレオに微笑んだ。


「安心したぜ。やっぱレオはレオだったな。」

「…………なんだよ………それ。」

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