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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
132/206

鉄の叫び

「オラオラオラオラぁっ!!」


 連続する銃声が鳴り響き、スフィルとデルガドの戦闘を遠くで見つめるネネカとアランの瞳に、閃光が弾けた。


「っ!!さっきからネチネチネチネチとぉっ!!」


 デルガドは止まず飛ぶ銃弾を両手の剣で弾き、耳に響く音を立てて火花を散らした。デルガドは剣が弾に押される感覚に腹を立てると、左の剣をスフィルの方へ伸ばした。


「“インへイプ”っ!!」


 すると、剣の先に禍々しい色の渦が現れ、鋭い音とともに飛ぶ銃弾を吸い込んだ。


「…っ、なんだっ?」


 スフィルは引き金から指を離した。その途端、渦は小さくなって消え、その先に見えたデルガドはこちらを睨んで剣を構えていた。


「“ソードテンペスト”ぉ!!」

「チィッ!!」


 デルガドが両手の剣を振り回し、無数の軌跡を放った。スフィルは強く地面を蹴って左に飛び出し、デルガドを中心に円を描くように走って避けた。軌跡が岩の壁に斬り込まれると、大きな音を立てて砂埃を吐く。


「フッ、どうやらテメェは距離のある戦いには向いてねぇらしいなぁ!!火力も無ければ速度も無ぇ!!」


 スフィルは笑い、挑発するようにデルガドに言った。しかし、デルガドの顔は不気味な笑みを浮かべていた。


「ヘッ、ならば貴様の…いや、人間の弱点を教えてやろうか。………結局自分の事しかアタマにねぇトコロだよぉっ!!」

「あ?」

「スフィルっ!!来るんじゃねぇっ!!」


 アランがスフィルに叫んだ時、彼はようやく気が付いた。このまま走り続けると自身とデルガドの間に、ペストマスクに囲まれたアランとネネカが立つ事になる、と。咄嗟にスフィルは腰のポーチに手を入れ、手榴弾を取り出した。


「コイツでも食ってろぉ!!」


 スフィルはデルガドの放つ剣の軌跡をスライディングで避けると、手榴弾のピンを引き抜き、デルガドの方へ投げた。手榴弾はデルガドの近くで爆発し、爆風と爆破音が彼らの身体に圧迫感を与えた。煙が立つ頃には、軌跡は止んでいた。


「………や…やりまし——」

「んなわけねぇだろっ!!」


 ネネカが口を開いたすぐにスフィルはマシンガンを構え、視線の先に映る煙に無数の弾丸を放った。連続する銃声は鼓膜を震わせ、閃光は瞳を焼く。


「そう易々と死んでもらっちゃぁ困るぜぇっ!!体中ケツ穴まみれのアホ(ヅラ)見ねぇとコッチは気が済まねぇんだよ!!」


 スフィルの表情には抑えきれない憎悪と、どこからか湧いてきた謎の笑みがあった。


「オラオラぁ!!まだ生きてんだろうが出てこいよぉゴルァ!!」


 その時、遠くの煙は何かに吸い込まれるように消え、その先に見えたものにアランとネネカは息を呑んだ。先ほども現れた禍々しい渦だ。


「………まただ…何なんだアレはっ……」

「フッ、やっぱり生きてたじゃねぇか。また会えて嬉しいぜサイコパス野郎っ!!」


 スフィルが引き金から指を離してそう言うと、渦は小さくなって消えた。しかし、その先に映ったものに、彼らは目を大きく開いた。誰も居ないのだ。


「………は?」

「スフィルさんっ!!後ろ!!」

「っ!?」

「“インヘイバースト”ぉっ!!」


 スフィルの背後に現れたデルガドは左の剣の先に渦を出し、爆発とともに無数の弾丸を放った。2つの弾丸はスフィルの左横腹と右肩を貫き、血飛沫とともに飛んでいった。


「っ!!スフィルっっっ!!!」

「ぅぐっ!!っぁああ゛あ゛あ゛!!」


 スフィルは咄嗟に振り返り、マシンガンを盾にして襲い掛かる弾丸を受け止めた。1弾1弾が重く、手から足にかけて激しい負担が殴り掛かる。横腹と肩に熱い激痛が広がる。


「自分で飛ばした鉛玉の感触はどうだぁ?え゛ぇ?気持ちぃだろぉ?…気持ちイイだろうがよ゛ぉぉ!!」

「っ!!…黙れぇっ!!傷に響くだろうがぁぁっ!!」

「傷じゃなくてぇ……立派な立派なケツ穴だぁぁぁっ!!“ イグジステンス・ブレイク”っ!!」


 その時、デルガドの右腕は大きく膨れ上がり、その巨大な腕で剣を突き出した。そして、剣を受け止めたマシンガンは大きな音を立てて曲がり、スフィルは遠くへ飛ばされ、地面に体を叩き付けられた。


「ぅっ!!がはぁぁっ!!!」


 スフィルは血を吐き、ゆっくりと転がった。彼は曲がったマシンガンを握り締め、大声を上げて激痛を殺そうと踠いた。そんな彼の姿を見て、アランの心は震え上がった。


「スフィルっ!!ダメだっ!!お前まで死ぬんじゃねぇっ!!…おいデルガドぉっ!!俺と戦えぇっ!!俺を見ろぉぉぉっっ!!!」

「うるせぇなぁ、もうすぐお前の番が来るから大人しく待ってろよぉ。」

「ふざけんじゃねぇぞクソ野郎ぉっ!!!テメェは特に俺達の仲間を殺してきたっ!!テメェを絶テェに許さねぇぞぉぉ!!!」


 アランの目は鬼のようだった。恐怖を歯で噛み殺して怒りに変え、それを拳に握り締めた。デルガドは彼の顔を見て表情を冷ました。


「……あ〜はいはい。っていうかさぁ…観客のクセに俺を苛立たせたら、お前らの横のカラスが殺すって言ったよねぇ……まさか忘れちゃったぁ?そっかぁ…メインディッシュだったのになぁ〜…残念残念。はい、さようなら〜」

「待てやゴルァっ…!!」

「っ!?」


 彼らはその声の方を向いた。スフィルが赤く染まる腹を右手で押さえながら、左手と両膝をついてデルガドを睨みつけている。彼の右手から地面へと赤い血が滴り落ちる。デルガドはその姿を見て機嫌を取り戻した。


「おぅおぅ、良いねぇその顔だぁ!!さぁ続きをしようじゃねぇかぁ!!」

「ダメだスフィルっ!!もう戦わなくていいっ!!」

「そうですよスフィルさん!!もうやめてくださいっ!!」


 アランとネネカは、血と汗で汚れた小さなスフィルに叫んだ。2人の頬に雫が流れる。すると、スフィルはゆっくりと立ち上がり、口を開いた。


「ぉぃ………俺はぁ……こんなヤロウに…殺されねぇさ…………。俺がぁ…そんな弱い人間にはぁ……見えねぇ…だろぉ……っ?……俺をぉ…信じろぉ……っ。」

「ハッハァッ!!だってよぉ!!お2人さんっ!!それじゃあご本人の意見を優先しなきゃだなぁ!!」

「っ!!やめろおおおぉぉぉぉおおぉぉおお!!!」


 デルガドはアランの叫びを無視してスフィルに飛び掛かった。そして右の剣を振り下ろすと、スフィルは鋭い瞳でデルガドの笑う顔を見つめ、曲がったマシンガンで受け止めた。鉄と鉄が交わり、激しく悲しい音が響いた。


「ぅぅっ…くっ!!」

「あぁ、そうそう。あの2人にはこの前言ったんだが、俺の強さの秘訣を教えてやらねぇとなぁ。」

「…っ…ぁあ?……なんだっ……そりゃぁ…っ…」


 獲物を視線で殺す蛇のような目をしたデルガド。それを睨みつけるスフィルの足元に赤い雫が滴り落ち、地面を染める。


「あのなぁ、俺は未来予知ができるんだぁ。だからよぉ、始めっからテメェらに勝ち目は無ぇのさ。コレが楽しくて楽しくてぇ……仕方がねぇんだよぉ!!」


 デルガドは乱暴に両手の剣を振り回し始めた。重い一打一打が曲がった鉄の塊に伸し掛かり、スフィルはそれを体の痛みを噛み殺しながら受け止める事しかできない。


「楽しいっ!!楽しいっ!!楽しいっ!!」

「っ…!!ぅっ…!!くっ……!!」


 鉄と鉄が交わる重い音、弾け散る火花。スフィルは朦朧とする意識に、死を覚悟した。


「楽しいっ!!楽しいっ!!楽しいっ!!楽しいっ!!楽しいな゛ぁ゛っ!!!」

「ぅぐっ……チィッ!!黙れぇ…っ…サイコパス野郎っ…!!」

「あ゛ぁ〜ぁ゛っ……………………………………つまんなっ。」


 その時、デルガドは左の剣を振り上げ、曲がったマシンガンを天高く飛ばした。その一瞬は長く、静かで、残酷なモノだった。スフィルは無意識に口を開けて止まっていた。デルガドが大きく目を開いて笑い、鋭い剣を振り回す。肉の裂ける音と血飛沫が飛び散った。


「弱いっ!!弱いっ!!弱過ぎるっ!!弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱いっ!!!」


 刃は胸を裂き、喉を斬り飛ばし、腹を破った。生々しい色をした内臓が飛び散り、音を立てて地に落ちる。ネネカは息を殺して目を逸らし、アランは息を荒げて怒りを噛み砕いていた。


「ハッハァッ!!そうさコレだよコレぇ!!人間もライトニングもそうさ!!こうなった時が1番美しいのさぁ!!」

「殺す………」


 アランの小さな声にデルガドは振り向いた。


「……あ?」

「殺す……っ!!ブッ殺すッ!!!」

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