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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
131/206

罪に縋る者、その足掻き

「せっかくこんなに綺麗な場所に集まったんだぁ……。楽しくゲームでもしねぇか?」


 白く鋭い歯を見せて不気味に笑うデルガドの放ったその言葉に、ネネカ達4人はそれぞれ怒りや恐怖心を(いだ)いた。デルガドの持つ2本の剣がぎらりと光ると、アランは彼を睨み付けて言った。


「…ゲームだと………。散々俺達の仲間を殺してきてっ………調子乗んじゃねぇぞぉっ!!!」

「おい、黙らせろ。」


 デルガドが冷たい口調で言ったその時、アランの首にDM-X-01の持つフォーステイカーの刃が向けられた。


「っ…」


 アランはその刃に映る、自身の正義と憎悪を持った顔を見て黙った。周りに立つDM-X-01とDM-X-02の静かなカラスの顔が、彼らに圧となって襲い掛かり、恐怖心を奮い立たせる。


「じゃあ早速始めようか。まずはぁ………ヘッ、決めたぁ。お前だぁ。」


 デルガドはそう言って左の剣を振ると、モルカの周りに立つペストマスクが膝をついて動かなくなった。


「ぇ……ぅ…嘘でしょ……」


 モルカの声は震えていた。突然迫ってきた死の恐怖に過呼吸になりながら脚の力を奪われ、その場で崩れた。


「お前ぇ…さっき俺に卑怯って言ったよなぁ………1対1なら…文句ねぇだろ?」

「…ゃ……ぃや……そんなのっ——」

「もう文句なんか言わせね゛ぇ゛よ゛ぉ゛っ!?!?“ヘルフレアスラスト”ぉ!!」

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 デルガドが左の剣に禍々しい色の炎を纏わせて突き出すと、モルカは咄嗟に右に飛び込んで回避し、逃げるように走り出した。


「いやぁっ!!死にたくないっ!!なんでっ!!なんで私だけぇっ!!」

「お前だけじゃねぇ!!ちゃんとコイツらも、俺という神の祝福を受けるのさぁ!!」

「っ!!モルカさんっ!!逃げてぇっ!!」


 ネネカは、モルカとその背中を見つめるデルガドを前に叫んだ。すると、デルガドはネネカに鋭い瞳を向け、DM-X-02の長い爪をネネカの首に向けさせた。


「おい…黙れっツってんだ…。俺ぁ喘ぐ女は好きだが喚く女は嫌いなんだよぉ。次俺の鼓膜震わせてみろ…?その首でアソぶぞ。」

「っ…」


 デルガドはネネカの怯える顔を見てニヤけると、逃げるモルカの方を向き、両手を大きく開いた。


「さぁ!!俺を見ろ!!俺と戦え!!俺を楽しませろぉ!!」

「っ、ダメだ…アイツが1対1でマトモに戦える相手じゃねぇっ……!!」


 スフィルはモルカを瞳で追いかけ、マシンガンを握り締めた。モルカはとうとう岩の壁の前で足を止め、息を切らしながらデルガドの方に振り向いた。デルガドは立ち止まったモルカの方へ1歩、また1歩と近づいて行く。


「はぁっ……っ!なんなのアンタはっ!?…人をそんなに殺めてっ……楽しいって言うの!?」

「あぁ。楽しいよ。で?」


 モルカは目を大きく開き、息を呑んだ。彼の口から何の躊躇も無く出た残酷な言葉に、完全に逃げ場を失った。


「……そんなのっ……!!アンタっ!!狂ってるよっ!!」

「あ?…その言葉ぁ!!人間にだけは言われたくなかったなぁ!!降り立った地でライトニングの民に出会った、ただそれだけの理由で無関係のライトニングと協力し、ダークネスを滅ぼそうなんてなぁ!!」


 震えながらも叫ぶモルカに、デルガドは眉間にしわを寄せて怒鳴った。モルカは声に押されたが、また口を開いた。


「それはアンタ達の世界の魔王か何かが『ダークネスへの挑戦を待っている』とか言ったからよ!!」

「残念だがそれは理由にならねぇんだよぉ!!降り立つ地がダークネスだったらどうだったんだぁ!?ライトニングの誰かさんが同じ事言っただろうよぉ!!そもそもテメェら、ライトニングの罪を知らねぇだろうがぁ!!」

「っ!!……ライトニングの…罪……」


 モルカはその言葉を頭の中で渦のように回した。しかし、考えるほどに真っ白に濁っていく。その中で、一言の(つるぎ)が現れ、口から飛び出した。


「ライトニングが何したか知らないけどっ…!!アンタ達もっ…!!立派な罪人よっ!!」

「それは先か後かの話だぁ!!」


 モルカの放った言葉の刃は、一瞬にして砕かれた。この世界について自分は無知すぎた。これからどれだけ口論しても時間の無駄だ。そう思った彼女は、腰に縛られた指揮棒のような杖を手に取り、デルガドに向けた。デルガドは鼻で笑った。


「フッ…下級のワンドか。おもしれぇ!!」

「っ!!“フレア”っ!!“フレア”っ!!“フレア”ぁっ!!」


 モルカは杖を振り回し、複数の火の玉をデルガドに放った。デルガドはそれを右の剣で斬り払い、モルカの方へと歩き続ける。


「おいおいおいおぇ!!それしか出せねぇのかメス人間!!」

「……ダメっ……効かないっ………っ!!来るなっ!!来るなぁっ!!」


 モルカは強く目を閉じ、杖を振りながら叫んだ。彼女の姿を見つめ、デルガドは急に熱が冷め、無表情になった。彼の口が小さく開く。


「…………………お前、飽きたわ。」

「——ぅっ!!」


 モルカは目を大きく開いた。腹部に違和感がある。恐る恐る下に目をやると、自身の腹に剣が刺さっていた。刃の周りに熱い赤が広がり、鍔から滴り落ちた赤は足元を染めた。彼女は気付いていなかったが、刃は彼女の背から顔を出しており、またそれは岩の壁に刺さっていた。


「………ゃ……そんな……いや……」


 彼女の瞳、声、手は震えた。腹部が熱くなり、指先が凍える。足元から広がっていく赤色をデルガドの足が踏むと、モルカはゆっくりと顔を上げ、彼の不気味な笑みを瞳に焼きつけた。彼は右手の剣を光らせた。


「…ぁぁ…っ……ベルタぁ……っ………痛いよっ…………怖いよ…ぉ…っ……」


 その時、モルカの視界に大量の血飛沫が飛んだ。振り上げられた刃と星空が見える。


「ハッハァッ!!やっぱり変わんねぇ!!変わんねぇなぁ!!」


 デルガドは返り血を浴びながら、真紅に染まる女の体を何度も斬り刻む。彼は笑っていた。


「おらおらおらおらぁ!!どんなに斬っても赤ぁ赤ぁ赤゛ぁ赤゛ぁぁっ!!!」


 遠くでその残酷な光景を見つめる3人は恐怖と怒りに押し潰されていた。ネネカは堪らず目を逸らした。しばらくするとデルガドは剣を止め、夜空を見上げた。


「はぁぁ……最高の気分だぁ……やっぱ女の肉はぁ…綺麗に斬れるなぁ………」


 デルガドは血飛沫が染み込んだ岩から剣を抜いた。足元には腕や脚などの肉片、眼球、内臓などが静かに散りばめられている。これはもうモルカではない。デルガドは3人の方に振り返り、長い舌で剣の血を舐め回した。


「…気持ち悪りぃ……」


 アランはデルガドを睨んだ。するとデルガドは、左の剣をペストマスクに向けて振った。その途端、スフィルの周りに立っていたそれらは、その場で膝をついた。


「よぉし……次はテメェ——」

「オラオラオラオラぁぁっ!!」


 スフィルの持つマシンガンから連続する銃声と閃光、無数の弾丸が放たれた。


「っお!!俺と()り合う気ぃ満々じゃねぇかぁ!!」


 デルガドが弾丸を避けるように走り出した。弾が切れると、スフィルは新しいマガジンを腰のポーチから取り出し、口を開いた。


「“エクスプロードバレット”!!」


 すると、握られたマガジンが熱で赤くなった。それを装着したすぐにトリガーを引くと、放たれる無数の弾は全て爆弾になり、デルガドの周辺に爆発を起こした。鳴り止まない爆破音がデルガドを芯から苛立たせる。


「さっきと比べりゃ生意気だなぁ…元気で何よりだ。」

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