罪に縋る者、その足掻き
「せっかくこんなに綺麗な場所に集まったんだぁ……。楽しくゲームでもしねぇか?」
白く鋭い歯を見せて不気味に笑うデルガドの放ったその言葉に、ネネカ達4人はそれぞれ怒りや恐怖心を抱いた。デルガドの持つ2本の剣がぎらりと光ると、アランは彼を睨み付けて言った。
「…ゲームだと………。散々俺達の仲間を殺してきてっ………調子乗んじゃねぇぞぉっ!!!」
「おい、黙らせろ。」
デルガドが冷たい口調で言ったその時、アランの首にDM-X-01の持つフォーステイカーの刃が向けられた。
「っ…」
アランはその刃に映る、自身の正義と憎悪を持った顔を見て黙った。周りに立つDM-X-01とDM-X-02の静かなカラスの顔が、彼らに圧となって襲い掛かり、恐怖心を奮い立たせる。
「じゃあ早速始めようか。まずはぁ………ヘッ、決めたぁ。お前だぁ。」
デルガドはそう言って左の剣を振ると、モルカの周りに立つペストマスクが膝をついて動かなくなった。
「ぇ……ぅ…嘘でしょ……」
モルカの声は震えていた。突然迫ってきた死の恐怖に過呼吸になりながら脚の力を奪われ、その場で崩れた。
「お前ぇ…さっき俺に卑怯って言ったよなぁ………1対1なら…文句ねぇだろ?」
「…ゃ……ぃや……そんなのっ——」
「もう文句なんか言わせね゛ぇ゛よ゛ぉ゛っ!?!?“ヘルフレアスラスト”ぉ!!」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
デルガドが左の剣に禍々しい色の炎を纏わせて突き出すと、モルカは咄嗟に右に飛び込んで回避し、逃げるように走り出した。
「いやぁっ!!死にたくないっ!!なんでっ!!なんで私だけぇっ!!」
「お前だけじゃねぇ!!ちゃんとコイツらも、俺という神の祝福を受けるのさぁ!!」
「っ!!モルカさんっ!!逃げてぇっ!!」
ネネカは、モルカとその背中を見つめるデルガドを前に叫んだ。すると、デルガドはネネカに鋭い瞳を向け、DM-X-02の長い爪をネネカの首に向けさせた。
「おい…黙れっツってんだ…。俺ぁ喘ぐ女は好きだが喚く女は嫌いなんだよぉ。次俺の鼓膜震わせてみろ…?その首でアソぶぞ。」
「っ…」
デルガドはネネカの怯える顔を見てニヤけると、逃げるモルカの方を向き、両手を大きく開いた。
「さぁ!!俺を見ろ!!俺と戦え!!俺を楽しませろぉ!!」
「っ、ダメだ…アイツが1対1でマトモに戦える相手じゃねぇっ……!!」
スフィルはモルカを瞳で追いかけ、マシンガンを握り締めた。モルカはとうとう岩の壁の前で足を止め、息を切らしながらデルガドの方に振り向いた。デルガドは立ち止まったモルカの方へ1歩、また1歩と近づいて行く。
「はぁっ……っ!なんなのアンタはっ!?…人をそんなに殺めてっ……楽しいって言うの!?」
「あぁ。楽しいよ。で?」
モルカは目を大きく開き、息を呑んだ。彼の口から何の躊躇も無く出た残酷な言葉に、完全に逃げ場を失った。
「……そんなのっ……!!アンタっ!!狂ってるよっ!!」
「あ?…その言葉ぁ!!人間にだけは言われたくなかったなぁ!!降り立った地でライトニングの民に出会った、ただそれだけの理由で無関係のライトニングと協力し、ダークネスを滅ぼそうなんてなぁ!!」
震えながらも叫ぶモルカに、デルガドは眉間にしわを寄せて怒鳴った。モルカは声に押されたが、また口を開いた。
「それはアンタ達の世界の魔王か何かが『ダークネスへの挑戦を待っている』とか言ったからよ!!」
「残念だがそれは理由にならねぇんだよぉ!!降り立つ地がダークネスだったらどうだったんだぁ!?ライトニングの誰かさんが同じ事言っただろうよぉ!!そもそもテメェら、ライトニングの罪を知らねぇだろうがぁ!!」
「っ!!……ライトニングの…罪……」
モルカはその言葉を頭の中で渦のように回した。しかし、考えるほどに真っ白に濁っていく。その中で、一言の剣が現れ、口から飛び出した。
「ライトニングが何したか知らないけどっ…!!アンタ達もっ…!!立派な罪人よっ!!」
「それは先か後かの話だぁ!!」
モルカの放った言葉の刃は、一瞬にして砕かれた。この世界について自分は無知すぎた。これからどれだけ口論しても時間の無駄だ。そう思った彼女は、腰に縛られた指揮棒のような杖を手に取り、デルガドに向けた。デルガドは鼻で笑った。
「フッ…下級のワンドか。おもしれぇ!!」
「っ!!“フレア”っ!!“フレア”っ!!“フレア”ぁっ!!」
モルカは杖を振り回し、複数の火の玉をデルガドに放った。デルガドはそれを右の剣で斬り払い、モルカの方へと歩き続ける。
「おいおいおいおぇ!!それしか出せねぇのかメス人間!!」
「……ダメっ……効かないっ………っ!!来るなっ!!来るなぁっ!!」
モルカは強く目を閉じ、杖を振りながら叫んだ。彼女の姿を見つめ、デルガドは急に熱が冷め、無表情になった。彼の口が小さく開く。
「…………………お前、飽きたわ。」
「——ぅっ!!」
モルカは目を大きく開いた。腹部に違和感がある。恐る恐る下に目をやると、自身の腹に剣が刺さっていた。刃の周りに熱い赤が広がり、鍔から滴り落ちた赤は足元を染めた。彼女は気付いていなかったが、刃は彼女の背から顔を出しており、またそれは岩の壁に刺さっていた。
「………ゃ……そんな……いや……」
彼女の瞳、声、手は震えた。腹部が熱くなり、指先が凍える。足元から広がっていく赤色をデルガドの足が踏むと、モルカはゆっくりと顔を上げ、彼の不気味な笑みを瞳に焼きつけた。彼は右手の剣を光らせた。
「…ぁぁ…っ……ベルタぁ……っ………痛いよっ…………怖いよ…ぉ…っ……」
その時、モルカの視界に大量の血飛沫が飛んだ。振り上げられた刃と星空が見える。
「ハッハァッ!!やっぱり変わんねぇ!!変わんねぇなぁ!!」
デルガドは返り血を浴びながら、真紅に染まる女の体を何度も斬り刻む。彼は笑っていた。
「おらおらおらおらぁ!!どんなに斬っても赤ぁ赤ぁ赤゛ぁ赤゛ぁぁっ!!!」
遠くでその残酷な光景を見つめる3人は恐怖と怒りに押し潰されていた。ネネカは堪らず目を逸らした。しばらくするとデルガドは剣を止め、夜空を見上げた。
「はぁぁ……最高の気分だぁ……やっぱ女の肉はぁ…綺麗に斬れるなぁ………」
デルガドは血飛沫が染み込んだ岩から剣を抜いた。足元には腕や脚などの肉片、眼球、内臓などが静かに散りばめられている。これはもうモルカではない。デルガドは3人の方に振り返り、長い舌で剣の血を舐め回した。
「…気持ち悪りぃ……」
アランはデルガドを睨んだ。するとデルガドは、左の剣をペストマスクに向けて振った。その途端、スフィルの周りに立っていたそれらは、その場で膝をついた。
「よぉし……次はテメェ——」
「オラオラオラオラぁぁっ!!」
スフィルの持つマシンガンから連続する銃声と閃光、無数の弾丸が放たれた。
「っお!!俺と殺り合う気ぃ満々じゃねぇかぁ!!」
デルガドが弾丸を避けるように走り出した。弾が切れると、スフィルは新しいマガジンを腰のポーチから取り出し、口を開いた。
「“エクスプロードバレット”!!」
すると、握られたマガジンが熱で赤くなった。それを装着したすぐにトリガーを引くと、放たれる無数の弾は全て爆弾になり、デルガドの周辺に爆発を起こした。鳴り止まない爆破音がデルガドを芯から苛立たせる。
「さっきと比べりゃ生意気だなぁ…元気で何よりだ。」




