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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
130/206

砂埃の向こう

「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 星屑が降り注ぐ屍山の頂上に、コルトの叫びが響いた。グレイスの尾に串刺しにされた3つの体は微妙に手足を震わせながら、斬り飛ばされた首から赤い血を噴き出している。


「あ〜ぁ……出会ってすぐに敵って言われて、姉さん悲しいなぁ〜。」

「っ!!うるさいっ!!あなたは敵だっ!!その尖った耳っ!!ダークネスなんでしょう!?」


 コルトは歯を食いしばり、涙で濡れた眼鏡の先に映る地獄のような光景を目に焼き付けていた。


「そう怖い顔すんじゃねぇよ、とんがり帽子の魔法使い君。……あっ、これ返せば機嫌直る感じ?」


 グレイスはそう言うと、長い尾を振り回し始め、3つの赤い体をコルトの前に飛ばした。それらが地面に叩きつけられると、コルトはそれに目を大きく開き、後ろを向いて嘔吐した。血と嘔吐物の(にお)いが混じり合い、それが鼻から内側へ入っていくにつれ、自身の何かが侵食されていくのを感じた。現に平常心は粉砕されている。


「ちょっと刺激が強すぎたかな?って言うか、叫んだり怒ったり吐いたりで、アンタ大忙しだねぇ!マジウケるんだけどっ!」

「だっ、黙れぇぇっ!!」


 コルトはそう怒鳴ると、右腕で口の周りの汚れを拭き取り、瞳を光らせてグレイスの方に振り向いた。


「おっと…ますます怖い顔になっちまった……。こりゃもう話聞いてくれないなぁ……。あ〜ぁ…いいよ、別に…。アタシに協力してくれる気無いんなら、アタシ……1人で探すから。」


 その時、グレイスの鋭い尾がコルトを目掛けて素早く伸びた。


「っ!!“アースモーク”っ!!」


 コルトが足元に杖の先を向けると、激しく噴き出た砂埃が彼を隠した。


「へぇ…やるじゃん。でもそれって……隠れただけだよねぇ!!」

「……………“サーモルッカー”。」


 コルトはグレイスの笑い声を無視し、小さく口を開いた。すると、何も見えなかった砂埃の中で、彼女の赤い陰が見えるようになった。


「“ライトガトリング”っ!!」


 コルトがそう唱えると、コルトの背後に大きな魔法陣が現れ、それが回転すると同時に、無数の光の弾丸が素早く放たれた。


「っ、当てずっぽうかっ!?…面白いヤロウだっ!」


 グレイスはそれを左に走って避け、同時に伸びた尾を砂埃の中で振り回した。すると、尾に何かが刺さった感触があった。光の弾丸は止み、グレイスは鼻で笑った。


「ふっ、所詮こんなモンだよ!!さぁ、見せてもらおうかっ、その面ァっ!!」


 グレイスは尾を突き上げ、砂埃から出した。そして、尾に刺さったものを見て、彼女は目を大きく開いた。


「……は?」


 砂埃を払って出たのは、コルトが被っていたとんがり帽子だ。そして彼女はふと何かに気付いた。自身の立つ辺りだけ黒い影がある。ゴゴゴというような胸に響く重たい音がする。グレイスは空を見上げた。


「しまっ…!!」

「“エレクトロン・ストーム”っ!!」


 その時、グレイスの頭上に広がる黒い雲の天井から雷の雨が降り注いだ。


「っ!!“ガルーダ”っ!!アタシを守れぇっ!!」


 グレイスが黒い空に右手を伸ばしてそう言うと、手の平に出た魔法陣から巨大な鳥が現れ、その鳥は雷の雨を背中で浴びた。


『ギィァァァァァァァァァァァァァ!!』


 雷の雨が止むと、ガルーダは姿を消した。すると、グレイスの背後から、彼の声が聞こえた。


「“ウィンドチャクラム”っ!!」

「…っ!!生意気ぃっ!!」


 グレイスは咄嗟に振り返り、左手を大きい鱗の盾にすると、コルトの放った鋭い風の輪を掻き消した。そして、その手を元に戻し、こちらに飛び込んで来る彼に手の平を見せた。


「飛べっ“アイスファング”!!」


 グレイスの左手に出た魔法陣から無数の氷柱が放たれた。それらはコルトの腕や頬を掠り、1本の氷柱が眼鏡のレンズを破壊して右眼に刺さると、コルトはその痛みで立ち止まった。


「っ!!あ゛あ゛っ!!」

「“気攻波”ぁっ!!」

「う゛ぅっ!!」


 コルトはグレイスの左手から放たれた風圧を腹で喰らい、遠くへ飛ばされた。体を叩きつける石、右眼に刺さった氷柱、血が流れ出る左腕と左頬。うつ伏せのコルトは、声にならない痛みに口を大きく開けて踠き苦しんだ。


「…ぁ……っ…ぁぁっ………っ…」

「フッ…さっきの3人とは違ってシブトいねぇ…アンタ。今の戦い方…ちょっと腹立っちまったなぁ〜……。………なんか喋れってのっ!!」


 遠くに立つグレイスが鋭い尾を振り回してコルトの背を斬ると、コルトは枯れた喉で激痛を叫んだ。


「あ゛あ゛ぁぁ゛あぁあ゛ぁ゛ぁあぁ゛ああ゛ぁああっっ!!…ぁあ゛あぁっっ……!!」

「望み通り、アンタはあの3人よりは長く生かしてやるよっ!さぁ…苦痛を楽しめぇっ!!」


 グレイスはまた尾を振り回し、コルトの背に2つ目の斬り傷を刻んだ。


「があ゛あぁああ゛ぁあ゛あ゛ぁああ゛ああ゛あ゛ぁぁあ゛っっ!!」


 血と涙の味がする口を大きく開けて叫び、赤く染まった右手でその場の石を強く握り締めた。その石は優しい温もりを帯びていた。






          “覚悟を決めろ”






 コルトの握る石は、他の石とは違う輝きを放っていた。どんな星よりも、どんな宝石よりも輝くその石は、まるで傷だらけのコルトを優しく見つめているように思える。






      “貴の思いが貴の友の末々を動かす”






「……っ……こっ………これはっ………っ…」


 コルトはその石の虹色の輝きを見つめた。そして、彼の向く方向のかなり遠くでは、先程までネネカ達4人を隠していた砂埃が薄くなっていた。





「……っ、皆さんっ…大丈夫ですかっ!?」


「…っ…俺は無事だっ!!」


「……ど……どうなってるのっ………」


「おい、砂埃が晴れてきた……ぞ…………っ!!」


 ネネカ達は目に飛び込んできた光景に息を呑んだ。先程まで彼らを囲む岩の壁の上に並んでいたペストマスクが、彼女らを1人5体ずつで武器を向けて囲んでいたのだ。


「っ………マジかよ……」

「ハッハッ!!ザマァねぇなぁ……これが大ピンチってヤツだぁっ!!」


 晴れた砂埃の先に現れたデルガドは、白く鋭い歯を見せて笑っていた。蛇のような不気味な瞳も、どこか楽しそうだ。


「こんなの………っ!!こんなの卑怯じゃないっ!!」

「ヘッ、卑怯だぁ?笑わせるぜ女ぁ!!戦争に卑怯ってのがあるもんかぁ!!しかもお前、俺と会った時逃げようとしたよなぁ!?その口で卑怯?ハァッ!!ますます笑えるぜぇ!!やっぱ人間って生物はおもしれぇなぁ!!」


 恐怖心に手足を震わせて涙を流すモルカに、デルガドは腹を抱えて笑った。その笑い声を聞くたび、アランとスフィルの眉間にしわが寄る。スフィルは口を開いた。


「おい変態殺人鬼。俺達囲んでどうする気だ?この場を血の海にして、もうお遊びは終わりってか?」

「はぁ……お前、その考えはエンターテイメントのセンスが欠けてるぜ?」

「あ?」


 デルガドが頭を掻き、呆れた顔を見せると、スフィルはデルガドへの視線に憎悪を込めた。するとデルガドは不気味な笑みを4人に配り、また口を開いた。


「せっかくこんなに綺麗な場所に集まったんだぁ……。楽しくゲームでもしねぇか?」

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