星屑の睨み
小さな星屑が降り注ぐ屍山の頂上で、アラン達はティアクリスタルを探していた。
「………そっちはどうだ?」
「ダメだ、それっぽい物は見つからねぇ。」
アラン達は瞬きを忘れ、足元の石を細かく見つめていた。ネネカは顔を上げ、先ほどまで遠くに居たコルト達の方を見たが、彼らの姿は無かった。
「……コルトさん達……随分遠くまで行きましたね……」
「……そうだなぁ…………楽しみが減ってしまったようで残念だぁ………なぁ?みんな…」
彼女らはその声にゆっくり振り向くと、目を大きく開き、息を呑んだ。
「なっ……なぜっ………」
「テメェ………」
揺れる紫の髪、尖った耳、腰に掛かった2本の剣、ヘビのような瞳。デルガドだ。
「おぅおぅ…初めましての面も2つ揃ってるぜぇ……。それにしても奇遇だなぁ。まさか、ここでお前らと会う事になるとは……俺達、もしかして気が合うんじゃねぇのか?えぇ?」
「っざけんじゃねぇぞクソ野郎…」
不気味な笑顔を見せるデルガドに、アランは拳を握りしめて睨んだ。彼のその険しい顔を見たスフィルはマシンガンを構え、アランに口を開いた。
「おい、コイツが例のアレか?」
「……あぁ…レオを殺したヤロウだ……それに加えて、コイツの姉はドーマを殺した……」
アランのその言葉を聞いて、モルカの手足は恐怖で震えた。
「……こ…この……人がっ………!!」
モルカは振り返って走り出した。彼女が逃げ始めたその時、彼女の目の前に一筋の弾道が通った。モルカは息を殺され、足を止めた。
「っ!!」
「……っ!アランさんっ、スフィルさんっ、あれっ!」
ネネカは弾道を辿るように見て、上を指さした。その先に居たのは、ローブを着たペストマスクだった。しかもそれは、アラン達を囲む岩の壁の上に、間隔を空ける事なく並んでいた。
「紹介が遅れたなぁ、アイツらの名前はDM-X-01とDM-X-02。ここを包囲しちゃったから、お前らに逃げ場は無ぇのさぁっ。ヘヘェっ!!」
「へっ、逃げ場だと?初めっから逃げる気なんてねぇよ。」
アランは噛み締めた歯を見せ、余裕の笑みを作った。しかし、彼の頬に一筋の汗が流れる。するとデルガドは静かにニヤけ、口を開いた。
「そうか…。じゃあこれからどうする?俺の代わりにティアクリスタルを見つけて帰してもらうか…それとも…俺に消されたガキの元に飛ぶか——」
「そんなの決まってんだろ…?テメェを殺してレオを生き返らせるっ!!」
「よく言ったぁガキどもぉぉぉぉぉっ!!」
デルガドの言葉にスフィルが答えると、デルガドは2本の剣を握り、抜いた。
「アランっ!!」
「ああっ!!“銀の拳ぃっ!!”」
スフィルの声の後に、アランは両腕を銀色に変え、デルガドに飛び掛かった。アランの放った拳は、デルガドの交差した剣で受け止められ、火花と共に周囲に鈍く重い音を響かせた。
「ったくオメェってヤツは学ばねぇなぁっ!!」
「くっ!!」
すると、デルガドの左の剣が雷を帯び始めた。アランは咄嗟にバク転をして下がると、再びデルガドに殴り掛かった。
「ぉぉぉおおおおらぁっ!!」
「そぉらよぉっ!!」
デルガドは右の剣を振った。するとアランはその剣を流れるように右に避け、デルガドと距離をとった。
「ブチかませぇっ!!」
「っ。」
「おらおらおらぁっ!!」
アランの声の後に、スフィルはデルガドに銃口を向け、無数の弾丸を放った。デルガドは左側に走り出し、弾丸を避けた。
「ハっハァっ!!刺激のある野郎じゃねぇかっ!!俺が消したガキよりも殺し甲斐があるぜぇっ!!“ソードテンペスト”ぉっ!!」
デルガドは跳びながら回転し、剣の軌跡をスフィルに放った。
「“ガードファントム”っ!」
ネネカはスフィルの前に小さな光の壁を出し、デルガドの攻撃を防いだ。
「おぉ!!相変わらず優しい女だぁっ!!もっと良い胸して来てくれたら、首切った後に遊んでやるってのによぉっ!!」
「そのタマ潰せばテメェは黙るんだろうなぁっ!!」
アランはデルガドに飛び込み、右足を突き出した。
「“ギガ・クラッシャー”ぁぁっ!!」
「“ヘルフレア・ウェーブ”!!」
デルガドが左の剣を横に振ると、焔の波がアランを襲い、アランは風圧で飛ばされた。
「っがぁっ!!」
「っ!!オラオラオラぁっ!!」
スフィルは再びデルガドに無数の弾丸を放った。デルガドはそれを全て剣で受け止め、マガジンの弾が尽きた瞬間に、摩擦で起きた煙を斬り開き、スフィルに飛び込んだ。
「安心しろぉ!!テメェとの遊びも忘れてねぇよぉ!!」
「っ!!」
「“ルインブレイド”ぉっ!!」
「“ガードファントム”っ!」
デルガドの闇を纏った剣は、ネネカがスフィルの前に出した壁で防がれた。スフィルが睨みつける、光の壁の先に見えるデルガドの顔は、無表情になっていた。
「…“ イグジステンス・ブレイク”。」
その時、デルガドの右腕は袖が弾けるほど大きく膨れ上がり、巨大な腕で剣を振り下ろした。
「スフィルさんっ!!避けてっ!!」
「なっ!?」
スフィルが右に転がると、剣は光の壁を破壊し、地面に叩きつけられた。そして地震が起こると同時に、周囲に砂埃が広がり、アラン達の視界を奪った。
「っ!!」
「キャァ!!」
「っ!!」
その頃コルト達4人は、アラン達とは遠い場所でティアクリスタルを探していた。地面の微妙な揺れに違和感を感じたコルトは、アラン達が居る方向に振り向いた。遠くに砂埃が見える。
「……何があったんだろう…… デニー、レヴェン、セドル、アラン達の所に行こう——」
「待ちな。」
女の声だ。4人が声の方を見ると、そこには1人の女が立っていた。揺れる紫の長い髪、尖った耳、悪魔のような尾。グレイスだ。しかし、彼らはその女を知らない。
「あっ…あなたはっ……?」
「あらっ、あのガキどもは居ない…か。残念残念。」
4人は、彼女の踊り子のような服装に見惚れながら、疑うような目で見つめて息を呑んだ。すると、グレイスは4人の元へゆっくりと歩き始め、口を開いた。
「早速だけど…ティアクリスタルって知ってるか?もし見つけたら…アタシに譲って欲しいんだけど。」
「っ!!みんなっ!!この人は敵だっ!!」
「おっと。」
コルトがそう言った途端に彼らは武器を構え、デニーとレヴェンとセドルは、グレイスに飛び掛かった。
「おぉぉらぁぁっ!!」
「ふんっ。」
デニーが剣を振ると、グレイスは右腕をポイズングロリアスの刃のような尾に変え、受け止めた。周囲に刃が交わる音が響く。
「だぁぁぁぁぁっ!!」
レヴェンが斧を振ると、グレイスは左手を大きな鱗のような物に変え、盾のようにして受け止めた。
「喰らいやがれぇぇっ!!“スクリュー・ストレート”ぉっ!!」
セドルが右の拳に竜巻きを纏わせると、グレイスは唇を舐めた。
「………バァ〜イ。」
その時、グレイスの尾が伸び、セドル、レヴェン、デニーの胸を貫いた。
「!!……そ…そんなっ………。みんなぁっ!!」
「…ぁ……かぁっ……」
「………ぁ…ぁぁ………」
「……っ………ぅ…」
3人は血を吐き、目を白くした。尾が貫いた場所から赤い色が広がっていく。
「そぉ〜れっ!!」
グレイスは尾を振り回し、並んだ3つの首を右腕の刃で刎ねた。3人は首から大量の血を噴き出し、手足を小さく震わせていた。
「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
コルトは叫んだ。彼らを囲む岩の壁の上には、DM-X-01とDM-X-02がレンズのような目を光らせて並んでいた。




