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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
128/206

償い

 夜の闇を照らす無数の閃光。心臓の鼓動を走らせる銃声。アラン達9人は、暗闇のどこまでも並ぶ木々の間を、ドーム状の光の壁に守られながら必死に走っていた。


「止まってくれっ!!頼むっ!!ニヴェルとマーベックがぁっ!!」


 セドルが涙を流して叫んだ。しかし、誰も止まってくれない。一度壁から出ると、入る事ができなくなるため、自身も足を止める事ができない。そんな彼に、アランが口を開いた。


「無理だっ!!あの攻撃力に、あの数だっ!!戻ったところで…もう…アイツらはっ……!!」

「…でもっ…でもよぉっ!!もしかしたら助かるかもしれねぇんだよっ!!止まってくれよぉっ!!」

「無茶言うんじゃねぇっ!!」


 銃声と閃光が撃ち込まれる数が刻まれた光の壁の中で、縋るような口調のセドルにスフィルが怒鳴った。


「この壁見りゃ分かんだろっ!!…いつ壊れてもおかしくねぇっ!!もう俺達は止まれねぇんだっ!!」

「…っ!!くそぉっ!!」

「…………」


 悔しさを口から吐き出したセドルを、モルカは冷たい目で黙って見ていた。先頭を走るアランは、進行方向を確認しながらその顔をしっかりと瞼の奥に刻んでいた。


「それにしても何なんだっ!!このカラスどもはっ!!」

「このままだとマズいよっ!!」


 レヴェンとコルトがそう言うと、スフィルはマシンガンを強く握り、口を開いた。


「……なぁ、この壁って……モノは入って来れねぇが、出て行く事は出来んだよな……」


 アラン達はスフィルの鋭い目を見た。ネネカがそれに口を開いた途端に、彼は銃口を木々の枝に向け、連続する銃声を響かせ始めた。彼らの耳に入る近距離の銃声は、まるで爆破音だ。


「だったらこうするのもアリだよなぁっ!!」

「スっ…スフィルぅっ!!うるせぇってぇっ!!」


 彼の放つ無数の銃弾は、複数のカラスの顔に当たると同時に火花を散らして暗黒に消えた。スフィルは引き金から指を離した。


「っ!!マジで何なんだアイツらっ…!!人じゃねぇのかっ…!?」


 どんなに走っても続く斜面、顔を出す木の根、彼らの脚や体力には限界が確かに迫っていた。乾いた息は早くなり、喉からは血の味がする。デニーは横腹を押さえていた。


「…っ…ネネカっ……この壁はっ…あとっ…どんくらい…持つっ…!!」

「…っ……5分…っ…いえっ……もっと……短い…ですっ……!」


 歯を食いしばるアランに、ネネカは息を切らして答えた。壁の外の銃声は止まない。光の壁には小さなヒビが走り始め、それもまた彼らの恐怖を誘う。


「…………考えがあるっ……何も言わずっ…聞いてくれっ……」


 アラン達はその声に振り向いた。視線の先に映ったのは、真っ直ぐな目をしたオーグルだ。彼らは固い息を呑んだ。


「思い出して欲しいっ…そうすればっ…納得するだろうっ……さっき…ニヴェルとマーベックがやられた時っ……奴らはこっちを見ていなかったっ……」


 彼の言葉を聞いた彼らは、この後オーグルが口に出す言葉がすぐに分かった。アランとネネカは咄嗟に口を開いた。


「っ!!お前っ!!それだけはやめろぉっ!!」

「ダメですオーグルさんっ!!自分を犠牲にするなんてっそんな事っ!!」


 なぜだろうか、この時だけ、銃声は無音となった。だが壁の外では確かに無数の閃光が広がっている。オーグルの義手の光沢は、今まで以上に輝いていた。


「オーグルっ…勝手に血迷ってんじゃねぇぞっ!!」

「そっ…そうだよっ!!オーグルっ…思い出して欲しいのはこっちの方だよっ…一緒に笑ってっ…一緒に戦ってっ…一緒に泣いてっ………僕達っ…いつも一緒だったじゃないかっ!!…それなのにっ……何でっ……何でそんな考えに辿り着くのっ…!!」


 スフィルとコルトも、2人に続いて言った。コルトの頬に涙が流れ始めた。


「黙って聞けって言ってんだろうがっ!!…これしか方法が見つかんねぇんだよっ……俺はエルアを助ける事が出来なかったっ…その罰として…俺は右腕を失ったっ………それでもっ…償いきれなかったっ……だからよ……最期くらい……役に立たせてくれっ——」


 オーグルが地面を蹴り、光の壁から出た。壁の中のアラン達は立ち止まり、オーグルに手を伸ばして叫んだ。モルカが立ち止まったアランに衝突し、尻を地面につけた。


「走゛れ゛お゛前゛ら゛ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 その姿を見たオーグルは、口が裂けるほど叫んだ。そして、彼の叫びを聞いたアラン達は、歯を食いしばって振り返り、モルカを立たせて走り出した。


「……フッ……何叫んでんだ……お前ら……」


 銃声は止んだ。森は暗黒の世界へと静まり返り、オーグルただ1人を残した。そして彼は足に力を入れて構え、口を開いた。


「掛かって来゛い゛よ゛ぉぉっ!!!」


 その時、閃光と銃声が一斉にオーグルに襲い掛かり、彼は身体中から噴いた赤い血で地面を染めた。四方八方からも、急接近して来たカラスの顔が鋭い爪で皮膚を切り裂いていく。


「っぐぅっ!!まだっ……!!ま゛ぁだだぁ゛ぁ゛あ゛あぁ゛ぁあぁ゛ぁあ゛ぁっっ!!!」


 彼の体に銃弾が撃ち込まれていく。だが、視線の先に見える徐々に小さくなっていく光は、傷まみれの彼を立たせる。彼の喉を弾が貫くと、彼は血を吐いた。肩、腕、腹、脚、骨までも砕かれできた穴は、赤い血を噴きながら広がっていく。


「ん゛ぅぅぅぅう゛うううお゛おおおおおおおおあ゛ああ゛ああ゛あああ゛ああああ゛っっっ!!!」











「おいっ!!洞窟があるぞっ!!」


 レヴェンが指をさした先には、岩の壁にできた1つの空洞があった。彼らはその穴に飛び込み、スフィルが入り口付近に手榴弾を投げると、爆音と共に煙を起こし、石で入り口を塞いだ。


「はぁっ…はぁっ……はぁっ……っ!!クッソぉっ……!!オーグルっ………!!」


 アランは膝をつき、地面を殴った。コルトとネネカの目からは、涙が溢れていた。


「…オーグルのおかげだっ……まだ俺はっ……生きてるっ………生きてるのにっ……何でっ…何で嬉しくねぇんだよ………」


 デニーは壁にもたれ掛かり、頭を掻きむしった。周囲は静寂に包まれた。先ほどまで背後で響いていた銃声の音を思い出すと、胸が苦しくなって仕方がない。すると、モルカは1人で洞窟を歩き始めた。


「…おい。」


 アランが言うと、モルカは足を止め、彼の顔を見ずに口を開いた。


「何よ…」

「お前…さっきから何なんだよ…… ニヴェルにマーベック、そしてオーグルが犠牲になった。あの時お前、どんな顔してたよ?どんな目ぇして見てたんだよぉっ!!」


 アランはモルカに飛び掛かり、胸倉を両手で掴んだ。


「離しなさいよっ!!別にどんな感情持ったって関係無いでしょっ!!もうここに私と同じ目的を持ってる人なんか居ないのっ!!私は裏切られたの!!それで一緒に悲しもうって?馬鹿じゃないの!?」

「命舐めてんじゃねぇぞゴルァァっっ!!!」


 アランの声は洞窟の壁や天井に弾かれて響いた。その響きにネネカは違和感を覚え、ゆっくり顔を上げた。


「……出口……」

「っ…?」


 みんなはネネカの声に顔を向けた。そしてネネカはアランの握られた両手にそっと手を置き、口を開いた。


「行きましょう。ここで話していても時が過ぎるだけです……一刻も早くティアクリスタルを…」

「………ぁぁ…悪りぃ…ネネカ……」


 アランはモルカから手を離した。そしてネネカに続いて、コルトの放つ光を頼りに暗い洞窟をしばらく進むと、星空が広がる外に出た。頂上だ。そこは麓や中腹とは大きく変わって、とても落ち着く場所だった。


「………すげぇ……」

「……綺麗………」


 平坦なその場所は、岩の壁に囲まれており、足元には踏むと輝く小さな石が転がっていた。空からは小さな星屑のような物が、少しずつ降り注がれる。


「……ここにティアクリスタルが……。皆さん、二手に分かれて探しましょう。」


 ネネカが言うと、アラン、スフィル、モルカが彼女に続いて右へ、コルト、デニー、レヴェン、セドルが左へ歩き出した。






「………そっちはどうだ?」

「ダメだ、それっぽい物は見つからねぇ。」


 アラン達は瞬きを忘れ、足元の石を細かく見つめていた。ネネカは顔を上げ、先ほどまで遠くに居たコルト達の方を見たが、彼らの姿は無かった。


「……コルトさん達……随分遠くまで行きましたね……」

「……そうだなぁ…………楽しみが減ってしまったようで残念だぁ………なぁ?みんな…」


 彼女らはその声にゆっくり振り向くと、目を大きく開き、息を呑んだ。

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