暗黒の中の閃光
ネネカ達11人はドーム状の光の壁に囲まれ、暗黒の空に包まれた屍山を登っていた。先ほどまで足元に転がっていた石は、いつの間にか白い物体に変わっていた。
「……ねぇオーグル、この白いのって……」
「…間違いねぇ…骨だ。これがこの山の名の由来だろうな。」
オーグルのその冷たい声を聞いたコルトは、静かに置かれた骨とその破片から目を逸らした。光の壁の外では、複数の黒い布が彼らと一定の距離を保ちながら漂っている。こちらの隙を狙っているように見える。
「…じゃあ…これ全部あのバケモノにやられたって事…?」
モルカがそう口を開くと、先頭を歩くアランは彼女の顔を見ずに舌打ちをした。
「分かりきった事をイチイチ言うな。死に損ないの便乗野郎は黙ってろ。今はとにかくテメェの声を聞きたくねぇ。」
「っ…何よ、さっきからアンタ、ウザいんだけど。」
「特別にもう一度言ってやる。黙ってろ。」
「っ……!!」
するとモルカはアランに飛び込み、アランの背中を押した。アランは少し怯み、彼女の行動に驚いたネネカ達は、足を止めた。
「…っ、何のつもりだ……?」
アランがモルカに振り返ると同時に、スフィルがモルカに銃口を向けた。
「目障りだからこの壁から出て行ってっ!!アンタもここの骨みたいになればいいわっ!!それに、アンタ…いや、アンタ達と私達の目的は違う。理由の薄い願いを生意気な奴らに叶えられるくらいなら、私達の願いを叶えた方が良いに決まってるっ!!ネネカちゃんだけ残してみんな出て行ってっ!!邪魔なのっ!!」
「なぁアラン、もう我慢できねぇんだが…?」
スフィルが引き金に指を掛けると、デニーがモルカの前に立ち、モルカの頬を叩いた。その音は、壁の中を一瞬で静かにした。
「……なにすん——」
「いい加減にしろよモルカ。俺達はコイツらに命救われてんだ。少しは態度ってのを考えろ。」
それに続いて、レヴェンがモルカの足元に小さな皮の袋を投げた。地面に落ちた時、中から数枚のコインの音がした。
「お前から貰った協力金だ。それもたったの250セリア。こんなモノのために動いてた俺が馬鹿だったよ。」
「………何……私を裏切る気……?」
モルカはデニーとレヴェンを睨みつけた。それを見たアランとスフィルが鼻で笑うと、デニーがネネカに頭を下げた。
「ネネカ……いや、皆…。さっきはありがとう。あと、色々とごめん。……また我がままを言う事になるけど、俺達を守ってくれ。」
「俺もっ……。できる限り協力する…だからっ…」
「俺も。」
「私も。」
「俺もだ。」
レヴェン、セドル、ニヴェル、マーベックもネネカ達に頭を下げた。それを見たスフィルは銃を下ろし、彼らを見つめるネネカを見た。ネネカは少し目を閉じては開き、口を開いた。
「ご協力……感謝します。……生きてパーニズに…現実の世界に帰りましょう。私達も全力で皆さんを守ります。」
彼女の言葉に、モルカ以外の彼らは顔を上げて頷いた。そして彼らは頂の方向を向き、再び足を進め始めた。壁の中はしばらく沈黙が続いた。瞳だけを横に向け、モルカの顔を覗くと、彼女の頬の中で奥歯が噛み締められているのが分かる。眉間のしわは寄ったままだ。
しばらく歩くと、足元に少しずつ緑が現れた。前に目を凝らすと、背の高い木々の陰が見える。
「………森……?」
「そのようですね。皆さん、ここからは視界も行動範囲も狭くなります。どうか、周囲への警戒を。」
セドルの声にそう言ったネネカに、数人が頷いた。アランとオーグルとスフィルは、壁の外を睨みつけるように見回した。コルトの杖から放たれた光が木々を照らし始め、彼らは森の中へ入った。
『ポォゥオー……ポォゥオー……』
草も葉も揺れない森の中では、そんな静かな鳴き声だけが響く。空気も肌寒く、不気味で仕方がない。
「……何の鳴き声……?……フクロウ……だよね……」
「んな訳ねぇだろ……どうせバケモンだ。」
ニヴェルとデニーがそう話していると、遠くから何かが草の上を駆け抜ける音がした。彼らは一斉に足を止め、武器を構えた。
「……何だ……今の……」
「……前方からだ………近いな……」
オーグルが言うと、全員の警戒心は高まり、鼓動を走らせた。しかし、しばらく立ち止まったものの、周囲に変化が無い。
「……右に曲がりつつ先に進もう。それと、武器は常に構えろ。確実に何か居る。」
アランの小さな声に数人が頷くと、彼らは静かに歩き始めた。いつ、どこで、どんなものが木々の影から姿を現してもおかしくない暗黒の世界は、静寂で不気味で歩みを重くする。
「……怖い……」
「大丈夫だ……きっとな……」
肩を縮めるニヴェルに、マーベックは優しく口を開いた。その時、再び草の上を駆け抜ける音がした。
「っ!!また前からっ!!」
「……っ、こっちに行こうっ!!」
コルトは左側の道を照らし、彼らもその方向に足を進めた。胸から喉の辺りまで鼓動の音が響き、指先を震えさせる。確実に迫っている見えない恐怖に怯え、静かに先を目指した。すると、木々の間隔が広がった所に出た。
「見通しが良くなった……このまま真っ直ぐ行けば頂上に——」
レヴェンが少しだけ安心した顔を見せたその時、銃声と閃光と共に、光の壁の天井辺りに小さな傷が入った。
「っ…なっ!?銃声………っ!!」
「っ!!どこからだっ!!」
アランとオーグルが周囲に目を配る中、コルトは壁の傷を見上げ、光を放つ杖を上に向けた。するとコルトは目を大きく開き、息を呑んだ。
「みんなぁっ!!上だぁぁっ!!」
「何っ!?」
その途端に、木々の枝から無数の閃光と銃声が放たれ、周囲を混乱の渦で呑み込んだ。
「走れぇぇぇっ!!」
アランの言葉と同時に、彼らは走り出した。銃声は彼らの足音を掻き消し、止むことなく彼らの鼓動を走らせた。閃光の先に映る顔は、どれもカラスのような顔をしていた。
「何なんだアイツらはぁっ!!」
「おいっ!!ガトリングガンみたいな腕してるヤツが居るぞっ!!」
光の壁に入る無数の傷は、少しずつヒビへと変わっていく。
「っ…このままではっ…」
ネネカは歯を食いしばった。彼女らの心にあったものは、恐怖と死にたくないという思いだけだった。その時、地面に顔を出していた木の根に、ニヴェルが足を引っ掛け、転んだ。
「っ!!」
「……っ!!ニヴェルゥゥゥっ!!!」
彼女は光の壁から放り投げられるように出され、うつ伏せのまま、こちらを見て先へ走る彼らに手を伸ばした。
「待ってぇっ!!みんなぁぁっ!!」
それに気付いた複数のカラスは銃声を止めた。
「っ!!ぅわあ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「マーベックっ!!よせっ!!」
マーベックはうつ伏せで涙を流すニヴェルの方に体を向け、光の壁から飛び出した。アランは彼に手を伸ばしたが、止めるには遅く、マーベックはニヴェルの方へ走って行った。
「ニヴェルっ!!」
「マーベックっ!!後ろぉっ!!」
「っ!!」
マーベックが振り返ると、そこには黒いローブを着た、カラスの顔があった。彼はすぐにそれの両腕を掴み、両足を踏んだ。
「っ…どうだぁっ……これでお前は——」
その時、カラスの口が大きく開き、中から大きな鉄の管を出した。そして…
「っ!!マーベックっっっ!!!」
彼女の目の前で、彼は顔面に火炎放射を浴び、両脚に銃弾が撃ち込まれると、彼は脚から血を噴いて倒れた。
「っ!!!マーベッ——」
ニヴェルは立ち上がると、背後から腹部を剣のような物で貫かれ、銃声と共に胸を撃ち抜かれた。
「………う…そ……そん………な………」
左から大きな爪がぎらりと光って現れ、彼女の首を飛ばし、ニヴェルは首と胸から血を噴いて倒れた。
「っ!!ちくしょお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉっっ!!!」
アランの叫びは、暗い森に響いた。




