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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
124/206

暗黒と火

「………はい、お大事に。」

「……フッ。」


 ダークネスの研究所は静かで肌寒く、冷たいコンクリートの壁や天井で声が響く。カイルは、デルガドの両肩と腹部に手を置き、血の流れる穴を塞いだ。デルガドはカイルから目を逸らすと、部屋の奥に立つ2つの何かを見つけた。その2つはほとんど同じ形をしている。


「……あれは何だ?」

「あら、知りたい?」


 デルガドは小さく頷いた。カイルは静かに微笑み、2人でそれを見つめた。それはフード付きの黒いローブを着て、ペストマスクを被った人のように見えた。片方は、両手に見たことの無い武器を持っている。


「DM-X-01、DM-X-02。試作品だけど、量産計画には入れているモノよ。そこには2機しか置いてないけど、他の部屋にはいくつもあるわよ。人の動きを遥かに超える機動力。高性能の武装。いわゆる殺人ロボットよ。」

「……殺人…ロボット……。」

「右腕がガトリングガンで、左腕が長い鉤爪になっているのが2号機。1号機には私が考えた武器を両手に持たせているわ。」


 カイルはそう言うと、ペストマスクの方へヒールの音を鳴らして歩き始め、デルガドの目に映る武器を撫でた。


「ピストルのグリップの下に、銃口と同じ方に向けた刃を付けた武器…名前はフォーステイカー。」

「なるほどな……1号機は接近戦も中距離戦もアクティブに動ける……2号機は高火力の攻撃を掛ける事ができる……フッ、気に入った。俺が試しに使ってやる。全部出せ。」


 デルガドが白い牙を見せてニヤけると、カイルはメガネを光らせて静かに微笑んだ。







 その頃、パーニズは漆黒に包まれ、肌を撫でる冷たい風を吹かせていた。並ぶ建物の入り口を照らす松明の温かい光が、疲れ果てた人々にため息を吐かせる。


「ごゆっくりどうぞ。」


 宿屋の女性店員が、紙の山を綺麗に並べたカウンターから、ネネカ達に微笑んだ。その顔を見たシェウト、カルマ、スフィル、オーグルは階段を上らずに廊下を歩いて、奥の部屋に入った。


「じゃあ、僕達も…」

「あぁ。」


 コルト、アラン、ネネカは階段を上り、手前左の部屋に入った。白いシーツが整う4台のベッドが静かに待っている。アランはいつものようにベッドに飛び込もうとはしなかった。アランとコルトは同じ方向に枕を並べるベッドに倒れ、ネネカは2人とは反対の方向に枕が置かれたベッドに腰を掛けた。


「……ん……どうした、ネネカ?寝ないのか?」


 アランは交差した太い腕の上に頭を乗せて、下を向くネネカに口を開いた。


「…あ、いえ……。………アランさん、コルトさん。明日も大変な1日になると思うので、早いうちにお休みになって下さい。」

「………ぉ……ぉぉぅ………」


 アランはネネカのその言葉に、正しい反応をすることが出来なかった。そもそもどんな反応が正しいのか、考えることが出来なかったのだ。ネネカはそっとランプの火を消した。部屋は静かに暗くなった。


「…………」

「…………」

「…………」


 暗闇の中、聞こえるのは落ち着いた息だけだ。アランは目を閉じた。しかし、なかなか眠れない。アランはゆっくり目を開いた。視界に暗闇が広がる。アランはため息を吐いた。


「…………」

「…………」

「…………っ」


 アランは首を右に向け、小さい声を出した。


「……コルトぉ……コルトぉ………」

「…………」


 反応が無い。彼は寝た。アランはまたため息を吐き、首を天井に向けた。すると、アランはふとある事に気付いた。ランプが灯っていた時から、向かいのベッドに動きがないのだ。ネネカはまだ横になっていない。アランはそう思い、上半身を起こした。


「………ネネ…カ……?」


 アランは目を細くして、薄い影を見つめた。ネネカはベッドに腰を掛けたままだった。


「……ネネカ、どうしたんだ……?」

「…………」


 しばらく、静かな時が流れると、ネネカは小さい口を開いた。


「……約束したんです………レオさんと………レオさんは………私を……1人にしないって………1人に…っ………ぅぅ……っ」

「………」


 ネネカの目から雫が溢れ出た。彼女の肩は震えている。アランはその姿を見て、暗闇のスクリーンにドーマを映し出した。


「………分かってるつもりさ……その気持ち………」

「……私………小さい頃からレオさんに助けられてばっかりで……っ…………遂にっ………っ…私はっ………レオさんを………っ……死なせてしまったっ…………っ」


 その震える声に、アランは歯を食いしばり、目を閉じた。瞼の奥に、レオの最後の姿が映る。大きく開いたギラつく目。血で染まった歯を噛み締め、折れた右腕と斬り落とした左脚の痛みを剣と共に握り殺す。アランにとってその友の顔は、英雄であり、勇者だった。


「私っ……レオさんに謝りたいっ………“ごめんなさい”って………っ……今度こそ目を合わせてっ………謝りたいっ………っ」


 ネネカのその言葉にアランはゆっくり口を開いた。


「……レオは………“ありがとう”の方が…好きだろうよ……………俺達が居ちゃぁ落ち着けねぇだろ。なんなら、コルト連れて違う部屋予約しようか。」

「………いえ……大丈夫です……。………ありがとう………ございます………」


 ネネカの言葉の震えは少し落ち着いたように思えた。アランは彼女の言葉にため息を吐いた。


「その言葉はレオのために取っておけ。俺なんかに使うな。」


 アランは枕に頭を乗せ、目を閉じた。その後、ネネカが何かを口にしたようだが、はっきり覚えていない。アランは静かに眠りについた。





「——っ!!敵襲だぁぁぁぁっ!!」


 アランはその言葉で目を覚ました。部屋はまだ暗い。扉の向こう側と、窓の外から男の声が聞こえる。


「……っ、なっ……なんだっ………」


 アランは頭の横の小さな机に置かれたランプに火を付け、窓まで歩き、目を凝らした。


「っ……嘘だろっ………」


 アランの目に、オークの群れとそれらが持つ松明の火が飛び込んだ。アランはすぐに振り向き、腹から大きな声を放った。


「ネネカぁっ!!コルトぉっ!!起きろぉっ!!」

「っ……ぇ?」


 その時、扉が勢いよく開き、部屋に明かりが入った。そこに立っていたのは、黒く大きな鎧に身を包んだエレナスだった。


「へっ…兵長っ!!どうしてここにっ!?」

「話はいいっ!!またデルガドの班が来やがった!!出発するなら今しかないぞっ!!下の階に居たお前らの仲間にも起きるよう伝えたっ!!さぁ早くっ!!」


 エレナスの声の後に、ネネカとコルトは布団を蹴り飛ばし、すぐに支度をして、3人は部屋を飛び出した。


「くっそっ!!一体何が起こってるんだっ!!まだ夜だぞっ!!」

「アランっ!!ネネカっ!!コルトっ!!」


 階段を降りていると、宿屋の入り口に4人が装備を整えて待っているのが見えた。


「今からペガサス貸出場までダッシュだっ!!」

「そういうドッキリ番組あったなぁっ!!」


 カルマとアランが言うと、7人は宿屋を飛び出した。黒い雲が広がる夜空、肌を撫でる冷たい風、門の近くでは、オークが握る松明が、視界を燃やすように光っていた。もうすぐそこまで迫って来ている。気が付けば、柵で囲まれた8頭のペガサスと老人が見える。


「ジイさんっ!!乗せてくれっ!!」


 シェウトが走りながらそう言うと、突然3人の影が彼らを追い抜き、老人に金貨を投げてペガサスに乗った。


「…ぉぉ………なんじゃ……客か……」

「っ!!テメェらぁっ!!」


 スフィルが睨み付けたのは、モルカとその仲間のデニーとレヴェンだった。


「何よっ!!あんた達と話してる暇は無いわっ!!デニー、レヴェン、行くよっ!!」

「オッケーっ!!」

「はいよっ!!」


 3頭のペガサスは黒い空へと飛び立った。残された5頭のペガサスを震える瞳で見つめたオーグルの口は塞がらなかった。


「……お…おい……どうすんだよ……っ」

『グォォォォォォッ!!』


 その荒く太い声に早く反応したカルマとシェウトは、振り向いて2体のオークの斧を長刀と脚で受け止めた。


「っ!!カルマっ!!シェウトっ!!」

「俺達は残るっ!!行けぇっ!!お前らぁぁっ!!」


 シェウトの怒鳴り声に、5人は目を大きく開き、すぐにペガサスに乗った。アランが老人に5人分の金貨を払うと、眉間にしわを寄せて口を開いた。


「ジイさん、どっか隠れてろっ!!カルマっ、シェウトっ、頼んだぞっ!!」

「行きましょうっ!!皆さんっ!!」


 ネネカが言うと、5頭のペガサスは翼を大きく広げて飛び立った。シェウトとカルマは周りに誰も居ないことを確認すると、2体のオークを飛ばし、背を合わせて構えた。


「…っ!!やれるな、カルマっ。」

「やるしかねぇだろっ!!」




 アラン達の見るパーニズの町はすぐに小さくなり、肌寒い風が流れ去っていった。ネネカの目は、真っ直ぐ屍山の方を向いていた。


「………レオさんっ……今………っ、行きますっ。」

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