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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
120/206

赤に染まる約束

 デルガドは右腕をネネカの首に巻き、左手の剣をネネカに向けていた。彼の刃と目はぎらりと光り、ネネカとレオに重圧と恐怖を放つ。レオは剣を握った左手で、肩から垂れたような右腕を支えた。腕の内側から膨れ上がる痛みと熱に歯を噛み締め、デルガドの不気味な微笑みを睨む。


「優しい俺がお前の聞きたい事に答えてやろう。『ナゼお前は生きているぅ?』『目的は何だぁ?』この2つだろぅ?未来のお前がそう言ってるぜぇ?」

「っ……未来予知が出来るから全てお見通しってことかっ……」


 デルガドの見せた尖った白い歯に、レオは剣を強く握った。


「確かに俺は死んだ。でもなぁ、こうして今ここに立ってる……俺ぁ姉貴の立派な働きによって黄泉から帰って来たんだよぉっ!!…お帰りなさいませの一言くらい欲しかったなぁ?へっへ。」

「生き返ったって事かっ…グレイスが何をしたんだっ!!言えっ!!言うんだっ!!」

「……なぁ?これ以上ナメた口利いてると……この子の首ブッ飛ばしちゃうよぉっっ!?!?」


 デルガドは刃を光らせ、ネネカの顔に近付けた。彼女は指の先まで震え、しゃくり上げるように涙を流している。


「ダメだっ!!まだっ!!」(……っ、何とかしてあの刃を僕に向けないとっ……)

「冥土の土産にしてはかなり贅沢なんじゃねぇの、お前?『言え』だってぇ?……言うわけねぇじゃんっ!!馬っ鹿じゃねぇの!?アッハッハッハッハッハァッ!!」


 彼は大きい口を開けて笑った。その陽気な殺意に満ちた笑い声はこの禍々しい空間に響き渡る。声が止むと、デルガドは続けて話し始めた。


「っと、あとは俺の“目的”だな。そうだなぁ……勿論、お前らの可愛い色した肉を見に来たってのもある。だが、1番の目的は……ある男への復讐だぁ。」

「……復讐…っ。」


 レオは眉間にしわを寄せた。デルガドの表情も先程とは変わり、少し違った殺意を噛み締め始めた。


「オルクスを連れて来い……ここに……今すぐに…だ。」

「オル……クス……」(リュオンさんの事だ……やっぱり、あの人は過去にカーリー家と……)

「おいっ!!()くしろやぁっ!!」


 デルガドは細かい唾を飛ばしながら口を開いた。彼は怒り狂っている。レオは表情を変える事なく彼を睨み付けている。そして、小さく口を開いた。


「オルクス……?知りませんよ……そんな人……その人と…何かあったんですか?」

「………………あ?」

「『連れて来い』って言いましたよね……残念ながら、僕には出来ません。オルクス?って人知りませんし、そもそもこの空間から出る方法、分からないので……」

「…………………おい。」


 レオは徐々に余裕の笑みを見せ、立ち上がった。デルガドはそんな彼を睨み付けた。


「会いたいのなら、自分の足で行けば良いじゃないですか。わざわざ何も知らない人に物事頼んで……本当の馬鹿は、貴方なんじゃないですか?」

「っ!!貴ぃっ様ぁぁっ!!!先に黄泉送りにされたいかぁっ!!!」


 怒り狂ったデルガドの剣はレオに向いた。そしてレオは地面を踏み締め、身体中に一筋の感覚を走らせた。今だ、と。


「“ソードテンペスト”っ!!」

「っ!!」


 デルガドは、目の前に飛び込んできた軌跡に剣を振って弾いた。しかし、軌跡の光が飛び散る先にレオの姿は無い。


「っ……悪足掻きをぉっ!!」

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 レオはデルガドの右側から飛び掛かった。彼の刃が光る。デルガドは咄嗟に左手の剣を投げた。


「うっ!!」


 デルガドの剣はレオの左腿を貫き、投げた勢いにより、剣はレオと共に遠くの地面に刺さった。


「レオさぁぁんっ!!」

「があぁぁあぁぁああぁあ゛ああ゛ぁぁぁあ゛あああっっ!!!」


 レオは脚から赤い血を流しながら痛みを叫んだ。大きく開いた口が裂けていく。


「ハァッハッハッハッハァッ!!自業自得だよっ!!こんな状況なのに俺に手ェ出してさぁっ!!助かると思ったぁ!?無理無理ぃっ!!あ、一応言っとくけど…その剣、魔導剣っつってMPとSP吸い取っちゃうヤツだから頑張ってね゛ぇ゛っ!!ギャハハハハハハッ!!」


 デルガドは大声で笑った。レオの激痛の叫びと、彼の陽気な笑い声が混じり、周囲を残酷な空気に変える。


「……っ……レオぉぉっ………」


 それを遠くで見つめるアランは、体が痺れて動けない。彼は無力な自分を悔やみ、歯を食いしばった。


「はぁ〜……っ……何か笑い疲れたわぁ。そんじゃ、そろそろ片付けちゃおっか。」


 デルガドは急に落ち着いた顔になり、左の腰に掛かった剣、アロンダイトを左手で逆手に取り、ネネカの顔に向けた。


「なぁ、レオ君。俺は今からキミを試したいんだ。キミはと〜っても優しい。どんな人も愛することができる。み〜んな知ってるよ。」

「ぁ゛ぁっ!!……なっ……何がっ…言いたいっ!!」


 レオは頭だけを起こし、左脚に広がる激痛と生温さに歯を噛み締めながらデルガドに問いかけた。デルガドは不気味にニヤけた。


「それってつまりさぁ……この子がどんなカタチになっても…愛せるってことだよ゛ね゛ぇ゛っ!!そう゛だよ゛ね゛ぇ゛っ!!!ね゛ぇ゛っ!?ね゛ぇ゛ってばぁ゛っ!!」


 デルガドは目を大きく開いてぎらつかせ、逆手で握る鋭い剣でネネカの体を撫で始めた。


「さぁ……どこから落としちゃおっかぁ?安心しなぁ、彼はどんなキミも受け入れてくれるんだぁ。」

「うぅっ……レオ…さぁんっ……」


 ネネカは恐怖に脚を震えさせられ、頭の中を真っ白に埋めた。そんな彼女の顔を見たレオは、何か手は無いかと頭を振り、右にある物を見つけた。先程飛ばされた時に腰から外れて開いたポーチ。そこから転がり出た小さな丸い瓶。レオの頭に、唯一の手段が迸った。


「これはっ…スフィルから貰ったSPドリンクっ……!!」


 レオはそれに左手を伸ばした。瓶に手が近付くとともに、左腿に刺さった剣が肉を裂き、穴を広げていく。左脚が冷たくなってきた。指先が瓶に触れた。


「っ!!……よし……」


 レオは瓶を握った。そして、左に置かれた剣を見ると、上半身を起こし、同時に瓶を咥えて、左手で剣を逆手に取った。


「フゥッ…フゥッ………っ!!んグゥゥゥゥゥッッ!!!」


 レオは瓶を噛み締め、剣を左腿に突き刺した。奥歯の辺りの筋肉で痛みを噛み殺す。口内に血の味が広がる。レオは痛みと怒りで顔中にしわを寄せた。


「んグゥゥゥッッ!!んグゥゥゥゥッッ!!ングゥゥゥゥッッッ!!!」


 レオは何度も腿を突き刺し、大量の赤い血を噴かせた。肉を裂く生々しい音と骨が砕ける音が、耳に荒く流れる。涙で滲む視線の先に見えるデルガドの顔を、眉を重くさせて睨み付けた。


「ングゥゥゥゥゥ!!ングゥゥゥゥゥ!!ングゥゥゥゥゥ!!ングゥゥゥゥゥッッッ!!!」


 その時、瓶はレオの歯に砕かれて弾けた。口内に無数の破片が刺さり、乾いた口を血の味に変える。同時に、レオは剣の刺さった脚を切断し、己の握る剣の先をデルガドに向けた。デルガドは彼を前に、肩を上下にして笑った。


「おいおいっ…マジかよっ。自分で脚切り落とすなんてっイカれてるよお前っ。」

「ギィ゛ぃ゛ぃ゛っ゛っ゛!!“バードストライク”ぅ゛ぅ゛っ゛!!!」

「“デストロイ・バースト”ぉぉぉぉっ!!!」


 デルガドはレオに剣を向けた。その刃からは紫色の稲妻を纏った巨大な波動が放たれ、景色全てを禍々しい闇の光で染める。耳の鼓膜が裂ける程の爆音、吹き飛ばされそうな程の強風。血塗れのレオは炎を纏った剣を彼に向け、それに立ち向かうように一直線に飛び掛かった。デルガドはそんな彼に笑った。


「ハァッハッハッハッハァッ!!おいおい、コレに直撃したら消えて無くなるぞぉ!!頭のネジぶっ飛んだかぁっ!?」

「グっ…ギギギィィィィィッッ!!」

「レオさんっ!!」


 レオは歯を食いしばった。雷と爆音を纏った波動が触れた肌は、皮が剥かれて流されていく。そして、彼の波動の勢いに押される。しかしレオは続けて剣先をデルガドに向ける。デルガドは剣を握り締め、口を開いた。


「これで終わりにしてや゛る゛よ゛ぉ゛っ!!」

「終われないっ…!!終わらせないぃっ…!!終わらせてぇっ……!!たまるかぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「レオさぁぁぁんっっ!!!」







“あれ?……そう言えば……この前………ネネカと…何の約束したんだっけ………あぁ……『1人にしないで』……だったっけ………。あ、オーリンに飛ばされた時………ネネカと離れてたなぁ………ちゃんと……謝ったっけ………まぁ…いいや………今は……何も……考えないようにしよう……………”

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