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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
116/206

ギルガ

「アランっ!!アラぁぁンっ!!」


 レオ達は叫んだ。しかし、ギルガの放った雷の波動の爆音で、彼らの声は掻き消される。


「そこまでだギルガっ!!もうやめろっ!!彼は人間だっ!!獣人の俺たちにとっては関係無いっ!!」


 爆音で薄くなるキドゥーの叫びに、ギルガは目を合わせる事なく、口を開いた。その目にはハクヤと同じように黒い瞳が無い。


「俺はぁ腐ってもこの大会のぉ関係者だぁ、この人間もぉその1人だぁ。関係無いだとぉ?…ねぇことはねぇだろぉ。」

「目的は何だっ!?言えっ!!」


 するとギルガは鼻で笑い、キドゥーを見た。


「簡単な事だぁ。将来ぃ俺の代わりになるヤロウをぉ決めるためにここに来たぁ。だが優勝したのはこの人間…コイツ“も”ぉ…ツイてねぇなぁ。」

「コイツ………“も”……?……っ!!」


 レオはギルガの言った一文字に目を大きく開いたが、再び彼の左腕の鉄塊から出る光を見た途端に剣を抜き、炎を纏った刃をギルガに向けた。


「“バードストライク”っ!!」

「なっ!?おいっ!!」

「ほぉぉ?」


 レオがロープを飛び越え、リングの上のギルガの方へ素早く飛ぶと、ギルガは右の膝をレオの腹に食い込ませ、浮いたレオを蹴り飛ばした。レオは近くの巨大な木に体を叩き付けられ、地面に落ちた。


「レオぉっ!!」

「レオさんっ!!」


「リングに立って良いのはぁ勇敢なファイター2人とぉレフェリーのみぃ!!貴様のようなぁ男がぁ立ち入って良いところじゃぁねぇんだよぉぉっ!!」


 ギルガは、仲間に囲まれて倒れるレオに怒鳴ると、雷の波動の放出を止め、大きい爪からアランを放した。それに気付いたレオは、痛みを噛み締めながら立ち上がり、煙の立つアランの方へ飛び出した。ネネカ達も、レオの後に続いて走り出した。


「アラ…ンっ!!アランっ!!」


 レオはリングの端に手を掛け、瞳を震わせながら大の字に倒れるアランを見た。腰から上は黒く焦げ、顔は膨れ上がり、肌にできたヒビのような傷からは、赤黒い血が流れ出ていた。全身に動きが無い。


「ギルガぁっ!!…貴ぃ様ぁっ!!」


 キドゥーが壮大な怒りを込めてギルガを睨み付けると、ギルガはマントの内側から赤いリンゴを1つ取り出し、食べながら話し始めた。


「今年もぉ収穫ゼロってのは痛いがぁ、討伐命令が出されているからぁ損ではねぇ。もしこの人間の事についてぇ俺を恨むのならぁ、それは間違いだぁ。俺達は敵同士ぃ、いつどこで誰が死んでもおかしくねぇ。戦争を選んだぁこの世界を恨むんだなぁ。」


 ギルガはリンゴの芯をアランの前に捨て、歯茎を見せてニヤけた。


「1つ警告しておこう。近いうちにぃ多くの魔物を引き連れてぇ、またライトニングをぉ攻めるつもりだぁ。何かぁ目的があるらしいがぁ俺は知らん。覚悟していろぉ。“モーメント”ぉっ。」

「待てっ!!ギルガぁっ!!」


 ギルガは闇の渦に包まれ、消えた。周辺の空気は静まり返り、アランからは黒い一筋の煙が上がっていた。


「……う……嘘……そん…な……」

「アラン………っ!!ちくしょぉぉっ!!」


 モルカは崩れ落ち、カルマは地面を殴った。悔しさと悲しみが混ざる涙が頬を伝い、土に落ちる。そんな中、ネネカは倒れるアランを不思議そうな顔で見つめていた。


「……これ……何のカウントダウンでしょうか……」

「……カウント……ダウン?」


 レオはネネカの緑色の瞳を見た。するとネネカはアランに引き込まれるように走り出し、リングに上がり、アランの前に膝をついた。そして両手をアランに当て、目を閉じた。


「………“リバイブ”……」


 その時、アランから緑色の激しい光が放たれた。レオ達は濡れる目でそれを静かに見つめていた。しばらくすると光は止み、ネネカは息を切らして床に手をついた。


「…………………げっほっ…げほっ……」


 その時、動くはずがなかったアランが咳をし始め、レオ達の心を震わせた。


「アランっ!!」

「おい嘘だろっ!?信じられねぇっ!!」


 レオ達はリングに上がり、アランを囲んだ。涙の色は変わっていた。すると、キドゥーもリングに上がり、アランを背負ってレオ達に口を開いた。


「アランの友人だな?ついて来い。あとそこの君、蘇生魔法感謝する。」

「は…はい。」


 ネネカが頷くと、レオ達はアランを背負うキドゥーの背を追いかけた。そして状況について来られなかったケリィは、マイクを握ったまま口を開けて、黙って立っていた。





「“フレッシュ”。」


 ネネカは、包帯で巻かれた仰向けのアランに癒しの光を放った。ここは会場付近の村の小屋。レオ達はアランを囲んで座り、アランを静かに見つめていた。するとキドゥーが木でできた複数の器を持ってレオ達の前に現れ、1人1枚ずつ配り、座った。器には、薄い緑色の液体が入っていた。心が落ち着く良い香りがする。


「ティエレントハーブで作った茶だ。口に合えば良いが…」

「あ、ありがとうございます…」


 レオ達は軽く頭を下げ、器を口に傾けた。


「…おいしい。」

「そうか。味の好みは、種族が違っても同じようだな……安心したよ。」


 すると、レオは器を置き、キドゥーと目を合わせた。


「いきなりですがすみません。あのギルガって人、何者なんです…?」


 キドゥーは下を向き、一息ついてレオを見た。


「ギルガ…以前までは俺と拳を交わす仲だった。しかしだな…何年前だっただろうか…突如俺達の前に魔物を引き連れた魔王が現れ、ギルガを奪い去って行った。その時にギルガは左腕を失ったんだ。魔王の持つ大鎌の一振りでな。あの時のギルガは180センチほどの身長だったが、今日見たのはまるで別人だった。瞳を失い、左腕には鉄塊を付け、鋼のような肉体になっていた。身長も、あれはザッと230センチだろうか。兵器のように改造されたのだな……」

「……改造……まさか……フリールの研究施設で…」


 レオは肩を落とした。キドゥーは口を止める事なく、話し続ける。


「その日も大会だった。ヤツらもさっきのギルガのように優勝が決まったすぐに現れたよ。…だがあの時はもっと酷かった。木々を焼き払い、選手や観客達を殺し、俺を残して去って行った。何も出来なかったよ。…何も…。今でも、あの時俺が強かったらギルガを失わなくて済んだなどと……くだらん事が頭を()ぎる…。この事について、彼が俺を恨んでいなければ良いが……まぁ…それも俺の勝手な願いに過ぎん。その事件の後も、英雄王を決める大会を行ったが、ギルガを失った日から妙な事が起こってな。」

「……妙な事…ですか?」


 ネネカは首を傾げた。アランの傷をほとんど塞いだ彼女は、膝に手を置き、キドゥーの鋭い目を見ていた。


「あぁ。大会の数日後にその英雄王は謎の死を遂げる。毎年な。だからこの大会は毎年開かれるんだ。この世界に英雄王は必要だからな……。まさか、その犯人がギルガだったとは………。」


 すると、スフィルが器を置き、鋭い目つきで周りの目を見た。


「ヤツが言ってた。近いうちに攻めるって。どうすんだこれから。」


 オーグルも器を置き、静かに呼吸をして眠るアランを見て口を開いた。


「まずはアランの回復が最優先だ。その後パーニズに帰り、兵長にこの事を伝える。あっちから宣言があったって事は今度はかなりの自信を持ってるはずだ。それなりの備えも必要だろう。」

「いや、パーニズに帰るのが優先だよ。今すぐ兵長に伝えに行った方が良いよ。アランの回復はその後だ。」


 コルトはオーグルにそう言うと、眼鏡を中指で整え、眉間にしわを寄せた。それに対し、モルカは小さく口を開いた。


「そうだね……」


 すると、カルマがアランの胸を叩き、揺さぶり始めた。


「おいアラン、そろそろ起きろ。ってか起きてんだろ。知ってっぞ。」

「……っ、バレたか。ってか、怪我人を無理矢理起こすのはどうかと思うぞ?少しは(いたわ)れ。」


 アランは体を起こし、首を鳴らした。キドゥーはそんな彼の顔を見て、はっと何かを思い出したような顔をした。


「そういえば、以前俺の所に修行を申し込みに来た人間が居たな。目つきは悪かったが、それなりに戦いへの眼差しは良いものだった。お前に似ているトコロがあったぞ。アラン。」

「……俺に…似てる……?心当たりねぇな……でも人間って事は生徒だろ…?………まぁいいや。キドゥーさん。一緒に戦えて良かったよ。ありがとう。」

「……あぁ。」


 キドゥーはアランの顔を見つめ、微笑んだ。それからレオ達はケリィの所へ行き、英雄王の権利を貰い、ペガサスに乗ってパーニズへ飛び立った。

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