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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
114/206

掴みたいモノ

 キドゥーは体中に絡まる火に歯を食いしばりながらゆっくり立ち上がった。


「……大したものだな…正直、この大会で筋のある者と戦うことになるとは思わなかったよ……」

「…ふっ、俺もだ……おかげで特訓の成果が楽しめる……」


 そう言ったアランはほろ苦い笑みを浮かべた。ゴンドラの上のレオ達は重く大きい息を呑む。


「ふっ…!!」

「だあぁっ!!」


 2人は向かい合って飛び込み、拳を握るアランにキドゥーは足を突き出した。2人の攻撃は激しくぶつかり、周辺に大きな打撃音を響かせた。


「っ。」


 するとキドゥーはもう片方の足で床を蹴ってドリルのように回転し、アランの腕に蹴りをいれた。着地をすると、怯んだアランの胸に飛び膝蹴りを放った。


「ぅっ…がぁぁっ!!…チィッ!!」


 アランは目の前のキドゥーを睨みつけ、頭上で両手を握り締めて、キドゥーの脳天に落とした。キドゥーは咄嗟に床に腕を伸ばし、受け身をとった。


「“ムーン・サルト”。」

「んがぁっ!!」


 キドゥーが低い姿勢からアランの顎を蹴り上げ、アランを上に飛ばした。


『ここでキドゥー選手がアラン選手を上に上げましたっ!!重たいコンボが期待できそうですっ!!』


「ダメだっ、やはりSP無しじゃ勝てそうにねぇ…。」


 スフィルは打ち上げられたアランを見てそう言い、舌打ちをした。


「“ファルコンスラスト”。」


「アランっ!!来るぞぉっ!!」


 キドゥーは真上のアランへ飛び、足を伸ばした。オーグルの声に気付いたアランは腕を交差させて受け止めようとした。しかし、キドゥーはアランを少し飛び越え、アランの頭に踵を落とした。


「“鼠返し”。」

「ぅがああぁぁぁぁっ!!」


『なんとっ空中でフェイント攻撃を成功させましたっ!!アラン選手っ、手も足も出ないかっ!?』


 アランは床に叩きつけられた。キドゥーはそんな彼の前に着地し、口を開いた。


「もう棄権しろ。お前はここまでよく頑張った。」

「……っ………はぁ…?」


 アランは口から血を垂らし、ゆっくり立ち上がった。不安定な両足で立つ彼は、鋭い眼差しをキドゥーに放っている。


「ワケ分かんねぇ事……言ってんじゃねぇぞ……」

「…命までは取りたくない。そう言っただけだ。」


 キドゥーが言うと、アランは口から流れる血を腕で拭い、床を踏み締めて構えた。


「……ぉおらあぁっ!!」


 アランは拳を強く握り、キドゥーに飛び掛かった。キドゥーはアランの右頬を蹴り、アランを左側に転がした。


「ぅぐっ!!ぁぁっ……」


「アランっ!!無茶すんなっ!!死んじまうぞっ!!」

「そうよっ!!あなたは十分頑張ったよ!!」


 上からカルマとモルカの声が聞こえた。モルカの声は特に震えている。キドゥーは口内の血をゆっくり飲み込むアランを見下すような目で見た。


「もういいだろう。やめない理由は何だ?」

「……分から……ねぇ……アンタには……分からねぇ……だろうよ………世間から生きろと言われ…運命に叩きつけられて…傷だらけの体で…どんなに素早くて掴めそうにねぇモノでも…掴みてぇと思えるモノを…やっと見つけた俺の気持ちが…その理由だ……アンタには分からねぇだろうよ……」


 アランはまた立ち上がった。体中の擦り傷から血が流れる彼の目は弱っていなかった。キドゥーは彼の言葉を聞いても表情を変えない。そしてその冷たい顔で、アランに口を開いた。


「……そうか……そうだな。この戦いに対する気持ちは人それぞれだ。俺はお前の求めるモノが分からない。同様に、お前は俺の求めるモノが分からない。それを一打一打で語り合うのがこの大会の筋なんだろうな。……わざわざ棄権しろと言うのは間違っていたかもしれない……」


 キドゥーはそう言って、低い姿勢で構えた。


「ならば最後に、これを受けて負けてくれ……“シコーチカポエイラ”。」


 キドゥーは両手で歩き始め、両足を鞭のように振り回した。アランは歯を食いしばり、拳を握り締めてキドゥーに飛び込んだ。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」


「「アラぁぁぁぁンっ!!」」


 ゴンドラの上のレオ達は叫んだ。その一瞬の後に全員の瞳に飛び込んだのは、吹き出す血とともに高く飛ばされるアランだった。アランはすぐに床へと落ちていった。


「………そん…な……アラン……さん……」


『10っ!9っ!8っ!7っ!』


 ネネカは崩れ落ちるように膝をついた。その(こぼ)れた言葉を掻き消すように、カウントダウンが響き渡る。


『6っ!5っ!4っ!』


 1秒1秒が通り過ぎてゆく。レオ達はボロボロの人形のように倒れるアランを、瞬きもせずにみつめていた。


『3っ!2っ!』


 レオはゴンドラに掛けた手を握り、大きく息を吸った。そして…


「アぁぁラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁンっっ!!!」






“アンタには、礼をしなきゃだな…………”


“れっ…礼って…………んだよ……”


“うるせぇ…………手ェ出せ。…ほら…早く……”


“………なんだ…?これ…………”


“レッドソウルリング………指輪さ…………商店街で買ったんだ。……綺麗だろ?”


“…………くれるのか?”


“あぁ。…………アンタが見るその夢、正夢になったら…………って思ってな。…………いらねぇなら捨てても良いぞ。”


“……なんだそれ。…………ドラマみたいなこと言いやがって…………まさか、告——”


“うっ…うるせぇよ……。勘違いすんな……………ただ………アタシをこんなに心配する人…………いなかったから……よ……。さっきの戦いだって……アンタいなかったら…………”



(いなかったら……もし…いなかったら……何だよ………っ…居てもっ……何も出来なかったじゃねぇか……俺はっ……ドーマをっ……守れなかったっ……俺はっ………弱いんだっ………弱いんだっ………!!)


“何言ってんだよアラン。胸張れよ。アンタが強くなったところ全部、アイツにぶつけてやんなっ。”





「うっ…!!」

「なっ…何だっ!?」


 リングの周りに突如、熱風が迸った。カウントダウンは止まり、人々は腕で顔を覆いながら、ゆっくり立ち上がるアランを見た。


「立ったよっ…アランが…立ったよっ!!」


 コルトは目を輝かせていた。この時最も驚いていたのは、アランの前に立つキドゥーだった。


「っ……なぜ………あの技で終わらせたはず……」

「………じゃあドーマ……俺の強くなったところとやら……その目で全部……見ていてくれぇっ!!」


 その途端、アランから出る血は火に変わり、傷口からは炎が現れた。


『何ということでしょうっ!!燃えていますっ!!アラン選手がっ、燃え上がっていますっ!!』


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」


 そしてアランはキドゥーにもの凄い勢いで飛び掛かった。


「おぉらぁぁっ!!」

「っ!!ぐふっ!!」


 アランの燃え盛る拳は、キドゥーの右頬に捩じ込まれた。キドゥーは左のロープに弾かれると、アランはキドゥーの腹に炎の拳を入れ、すぐに両腕の拳で胸部を連打した。


「うっ!!うっ!!うっ!!…がはぁっ!!」


『皆さんっ!!最後まで目が離せませんっ!!今っ、アラン選手の逆転劇が始まろうとしていますっ!!』


「せぇぃりゃああぁぁっ!!」


 アランは少し跳んで体を捻り、キドゥーの右の横腹に燃える足を放った。キドゥーは左へ飛び、ロープを越えたすぐに右手でロープを掴み、上へ高く跳んだ。


「なぜだっ!!全ての攻撃が、さっきのプロミネンスストレートと同じ威力だっ…いやっ…それ以上かっ……だがそんな力……どこから……」


「体力だ……」

「は…?」


 スフィルはレオの言葉を聞いて、眉間にしわを寄せた。


「アランはSPの代わりに体力を使っている。でもそんな事……普通できるはずが…………あっ…」


 レオは何かに気付いた。そしてゆっくりネネカを見て再び口を開いた。


「デルガドと戦った時も同じ事があった……ネネカ、確かあの時、ネネカは緑色の光を放って僕たちの傷を癒した……似てる……状況とそれによる力の大きさ…色んなことが……似てるよ……」


「“疾風蹴り”っ!!」


 キドゥーは下に見える火の海に立つアランに右足を突き出し、勢いよくアランの方へ落ちた。


「…………なっ……」


 その時、キドゥーの目の前に、炎を纏った拳を構えたアランが現れた。


「“プロミネンスストレート”ぉぉぉぉっっ!!ぶっ飛べぇぇぇぇっっっ!!!」

「うぐっ!!がはぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 拳はキドゥーの腹に食い込み、燃え盛る炎と共にキドゥーを飛ばした。キドゥーは体に炎を絡ませながら、赤く光る地に叩き付けられた。


『……決ぃぃまっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」」

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