情熱を纏って
夜が明け、パーニズの町は眩しい太陽を迎えた。小鳥たちの優しい声で目を覚ました人も少なくないだろう。そんな中、パーニズのギルド小屋の外では、三人の男が風に髪を靡かせながら、鋭い視線を送り合っている。レオとアランとエレナスだ。
「さて、昨日言ったとおり、今日から俺がお前たちを鍛え上げる。気合入れていくぞぉっ!!」
「「はいっ!!」」
レオの手には木の剣が握られており、アランの手からは鉄のガントレットが外されている。エレナスはレオとアランに1本ずつスクロールを投げて渡した。それは以前持った時よりも重みを増したように感じる。
「まずはそれを読め。」
「「はいっ!!」」
「張り切ってるねぇ、朝っぱらから。」
「だね。」
小屋の扉の前では、ライラとクレアが静かに笑みを浮かべながら、その光景を見ていた。
「読みましたっ!!」
「よし。レオにはフレイムブレードを、アランにはフレアを覚えてもらった。早速だが、今からお前たちには手加減なしで戦ってもらう。」
レオとアランはエレナスの言葉で目を大きく開き、息を呑んだ。
「えっ……僕が…アランと………?」
「そうだ。ただしレオ、お前はファルコンスラストとフレイムブレードだけの使用を認める。」
「それは、どういう………」
レオは剣を握りつつも戸惑った。それはアランも同じだった。するとエレナスは、そんなアランに真剣な顔で口を開いた。
「アラン、お前はフレアとスクリュー・ストレートだけを使え。」
「なっ、でも俺、魔法なんか」
「文句は受け付けんっ!!」
アランとレオは、その声で背筋を張った。腕の薄い毛が震え立つ。
「どうした、どちらから仕掛けてもらっても構わんぞ。さぁやれっ!!」
彼の声は、2人を向き合わせ、背中を強く押した。その勢いでレオは剣を強く握り、走り出した。
「はぁぁっ!」
「っ、銀のっ……」
アランは腕を前で交差し、銀の拳を使おうとしたが、咄嗟に先ほどのエレナスの言葉を思い出し、レオの縦に振られた剣をそのまま受け止めた。
「……っ?」
しかし痛みが小さい。するとレオは後ろに下がり、アランに心配そうな顔を見せた。
「だ…大丈夫……?」
「お……おぉ…………」
「言ったはずだぞレオっ!!手加減は無しだっ!!」
エレナスはレオに眉間のしわを見せて怒鳴った。それに対し、レオは弱々しい声で彼に返した。
「で…でも……友達にそんなこと……」
「そこがお前の弱い所だっ!!もしお前の友がお前を裏切ったらどうする!?敵になったら何ができる!?それを世のため人のために斬る事が出来るのか!?」
レオは下ろした剣を握り、歯を噛み締めた。続けてエレナスはアランに大きい口を開いた。
「お前もだアランっ!!くれぐれも無傷で強くなれると思うなよっ!!」
彼の声でアランとレオの目は一段と鋭くなった。
「……おぉらぁぁぁぁっ!!」
「っ!!」
アランはレオの方へ走り、顔面を目掛けて硬い拳を数回放った。レオはそれを木の剣で弾くように受け流すと、アランは胴体に隙を作った。
「っ!?」
「っ、そこっ!“ファルコンスラスト”っ!!」
レオは剣の先をアランの胴体に向け、素早く突進した。それ受けたアランは後ろに勢いよく飛ばされ、右手を地につけて着地した。顔を上げた彼の顔は、獲物を見つけた獣のようだった。
「……いってぇ……なぁっ!!」
アランはレオに飛び掛かり、左右の硬い拳を交互に突き出した。しかしレオはそれを軽々と避け、少し涼しい顔をしている。すると、エレナスはアランに大きく口を開いた。
「アランっ!!それがお前の悪い癖だっ!!自慢のプライドだろうと、時には敗北を招く!!そんなモノだけで相手を押し出せると思うなぁっ!!」
「チィッ…!!“スクリュー・ストレート”ぉっ!!」
「…っわぁっ!?」
レオは、アランの右の拳から放たれた竜巻を剣で受け止めたが、勢いに耐えられず、剣を手放して後ろに飛ばされた。
「……くっ!」
「何をしているレオっ!!武器を手に取れぇっ!!」
エレナスの声で、レオは緑の草の上に落ちた木の剣に飛び込み、再び柄を握ると、その勢いでアランに飛び掛かった。
「“ファルコンスラスト”っ!!」
「無駄ぁっ!!」
アランはレオを前に、太い腕を交差させて、地を強く踏み締めた。しかし、レオは咄嗟に剣を横にした。
「“フレイムブレード”!!」
「なっ!?」
木の剣は火を纏い、アランの左肩に強く当たった。アランはその勢いで、その場に膝をついた。しかし、
「つあぁっ!!」
「あぁっ!!」
アランはすぐに方向を切り替えてレオの左に入り、空中のレオの脚にバク転をするように脚を掛けた。レオは縦に回転し、地面に背中を強く打った。
「ぐぅっ!!……ぁぁっ…」
「これで終わりだぁっ!!」
アランは仰向けのレオの顔面を目掛けて拳を突き出した。すると、レオは剣を強く握って、硬い口から声を出した。
「“ファルコンスラスト”っ。」
「何っ!?」
レオは地面を強く蹴り、剣の先を青い空に向け、高く飛び上がった。
「まだやるかっ!!」
アランはレオを見上げ、その場で腰を低くし、右腕に力を込めた。レオは落下を始めると、剣の先をアランに向けた。
「“スクリュー・ストレート”ぉっ!!」
「“ファルコンスラスト”っ!!」
アランは右腕を上に伸ばし、激しい竜巻をレオに放った。対してレオは剣を地に伸ばし、竜巻に飛び込んだ。アランの起こす風と、風を斬るレオの勢いがぶつかり合う。
「っ……くぅっ…!!」
「…チィッ!!」
波打つ草原、舞い上がる砂埃。2人は歯を食いしばり、鋭い目で互いを見つめた。するとエレナスは、風に掻き消されないほどの太い声で2人に口を開いた。
「今だぁお前らっ!!」
「…!!」
「っ!!」
レオとアランは荒れ狂う風の中、身体中に巡る熱い力を感じ取り、声を放った。
「“フレイムブレード”ぉっ!!」
「“フレア”ぁぁっ!!」
荒れ狂う風は一瞬にして熱風に変わり、少しずつ赤みを帯びていった。
「なっ、何あれっ!?」
「……さすがマスター…きっと凄い技を2人に叩き込もうとしている……」
小屋の前のクレアとライラは、その光景に目を赤く輝かせていた。熱を纏った2人の力の間が徐々に縮まってゆく。
「……はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「っ……ぅぉおおおおおおおっ!!」
その時、熱風が弾け飛び、アランとレオを吹き飛ばした。
「あぁっ!?」
「のあぁっ!!」
2人は地面に体を叩きつけた。それを見たエレナスは腕を組み、どこか満足そうな顔をした。
「…フッ、やれるな。よしお前らぁ、休憩だぁっ!!」
その頃、小屋の2階では、ネネカとココが見守る中、マリスがシルバの治療を試みていた。彼の大胆に裂けた胴体に温かい両手を当てる。しかし、
「きゃっ!!」
シルバの胴体から血が霧のように弾けて出た。床に赤く細かい雨が落ちる。マリスは両手をシルバの胴体から離し、力を抜いた。
「マリス……?」
ココは下からマリスの顔を覗いた。すると、ココの黒い鼻に冷たい雫が落ちた。しゃくる息が聞こえる。彼女の肩は震えていた。
「……どうして………どうしてできないの………目の前に………救いたい人が居るのに………救わないといけない人が居るのに………どうして………どうしてぇっ………」
マリスは脚から崩れ落ちた。それでもシルバは震える彼女を見る事なく、ただ目を閉じて黙っていた。当然、動くことはない。




