冷気
天井のライトが赤く光り、大きな音のブザーが鳴り始めた。
『侵入者発見、侵入者発見。直チニ排除セヨ。繰リ返ス。侵入者発見、侵入者発見。場所ハ地下ノ収容所。直チニ排除セヨ。』
3人を見つめるロボットは、アームからアンドレイの腕を落とし、レンズを鋭く光らせた。レオ達は咄嗟に武器を手に取った。
「どうします!?」
「一気にここを突破するっ!!“ファルコンスラスト”っ!!」
レオは剣を強く握り、刃を前に向けた途端に飛び出して、ロボットを貫いた。ロボットは火花を散らして動かなくなった。
「さすがレオ君っ。」
「いえ、ここからですっ!」
3人が前を見ると、そこには無数の人型ロボットが列になって、こちらへ向かって来ていた。手にはライフルのような物が握られている。
「排除スル。排除スル。」
「クレアさんっ!攻撃速度と走力アップをお願いしますっ!!」
「う、うんっ。“ビバーチェ”!」
クレアがギターを弾くと、レオの腕と脚に音符が飛んだ。レオはロボットから剣を引き抜き、それを踏み台にして、列に飛び込んだ。
「“連続斬り”っ!!はああぁぁぁっ!!」
レオは剣を振り回しながら、飛び散る残骸の中を走った。ロボット達もそれに対抗して、無数の弾丸を放つが、レオは素早い剣捌きで弾いていく。
「一斉射撃。」
ロボット達は同時に引き金を引いた。数発の弾丸がレオの剣を抜けて、後ろのネネカとクレアに向かって飛んだ。
「まずいっ!!」
「“ガードファントム”っ!」
ネネカは前方に透明な防御壁を出し、弾丸を防いだ。
「ネネカちゃんすご〜いっ。」
「えっ、あっ、いえっ…」
「“回転斬り”っ!!」
レオは跳び、体勢を横にして、剣とともに回転した。剣と弾丸は火花を散らし、残骸を飛び散らせた。
「はぁぁぁぁぁっはあああっ!!」
レオが回転を止め、剣を振り下ろすと、先程までの銃声は止んだ。静かな一本の道に、天井の赤いライトが光っている。レオは目の前のドアノブを握り、捻り、鉄のドアを開けた。
「さぁ早くっ!」
「はっ、はいっ!」
3人は収容所を出て階段を上がり、一階に戻った。しかし、
「マリスさんっ!!」
マリスを囲むように、多くの人型ロボットが立っていた。先程と同様に、手にはライフルが握られている。
「どうしよっ、このままじゃあ…」
するとマリスは右腕を高く挙げて雷を纏わせ、勢いよく床に手をつけた。
「……“スタン・ビート”………」
マリスを中心に床に振動が走り、ロボット達は動かなくなった。
「…ハ……イ…ジョ………ス…………ゥ……」
「……なっ…何が…………っ、早く鍵をっ!」
レオはそう言ってマリスの方へ走り、彼女の背後のドアの鍵を開けた。
「…っ、開いた。行こうっ!!」
「はいっ!」
「うんっ、ほらマリスちゃんも行くよ。」
4人は部屋を出て、鉄のドアを閉め、内側から鍵を掛けた。
「ふぅっ……一体何なんだここは……」
「レオさん、部屋が左右に4つあります。」
ネネカの声でレオは振り返り、前を見た。今立っているのはどうやら廊下のようだ。薄暗く光る一本の蛍光灯が、左右の4つの鉄のドアを照らす。奥には螺旋階段があった。手始めに鉄のドアを開けることにした。しかし、
「……だめだ……開かない。そっちは?」
「ダメです。鍵が掛かってます。」
「ねぇ、奥に何か見えない…?」
クレアがドアについた小さなガラス窓を覗いていた。薄暗い蛍光灯のおかげで、部屋の中が少しだけ見える。
「……何が見えます……?」
「え〜っとねぇ………薬…品?…あっ、奥にベッドみたいなものが1つあるよ。ただ、その横に道具が並んでる……。何だろう………。」
レオはクレアに部屋を覗かせてもらう事にした。ドアの近くにクレアの優しい匂いが残る。
「………これ……手術室みたいですね………」
「じゃあ、この施設は病院……でも、地下のは……」
ますます謎が深まる。何も知らない自分達が、今どのような場所に置かれているのか、深く考えてみても、寒さによって思考が凍ってしまう。
「地下の牢屋、拷問道具、ロボット兵、手術室……」
レオがそう口を開いていると、前の階段から何かが降りて来る音がした。
「っ、何か来るっ。」
3人は武器を構えて、床を踏み締めた。しかし、足音にしては音が小さく、肌を叩くような音だ。そして4人の目に飛び込んできたのは、信じ難いものだった。
「きゃあっ!!」
「っ!!腕っ!?」
数本の腕が床を這うようにして、こちらに寄って来る。レオ達の体中の毛穴が開き、背筋が凍った。
「何よ…これ……」
「こっちに来ますっ!!」
その時、数本の腕が高く跳ね、4人に飛びついて来た。その手の平には、虫の口の様なものがあった。
「シャァァァァァァッ!!」
「っ!!“連続斬り”っ!!」
レオは飛び掛かってきた腕を斬り刻んだ。床に落ちた肉片からは、緑色の血が流れ出ている。
「……魔物にしては奇妙だ……形が特徴的すぎる……」
「………この先に…何があるの……」
レオとクレアは口から白い息を吐いた。振り返ると、無表情で立つマリスの横で、ネネカは脚を震わせていた。レオはそんなネネカに口を開いた。
「……大丈夫…?…無理しなくていいからね。」
「…だ……大丈夫……です。い…行きましょう……」
ネネカの弱々しい声を聞いたレオとクレアは、優しい表情で頷き、その後4人で螺旋階段を上がった。2周ほどすると、4人は広い部屋の前に立った。
「こ………これ…は………」
「…ほんと……何なの……ここ……」
その光景に、うまく言葉も出せなかった。薄暗い部屋には、緑色に光る液体の入った大きなカプセルが10列ほど奥まで並んでおり、その中には臓器の様な物や、魔物の体の一部などが2つずつ入っていた。4人はそれらの間を静かに歩いた。
「ねぇ、カプセルひとつひとつに何か書いてあるよ。」
「…本当だ……エンペラーグリズリー……人間……。アイスドレス……人間……。髑髏蜘蛛……ライトニング…老………。どうゆう事だ………?」
レオ達はカプセルの文字に首を傾げた。カプセルの中の物が、蛍光色に光る液体の中を漂う。これらを見ても、この施設が何なのか見当もつかない。
「……それにしても静かですね……」
ネネカの口からは白い息が出なかった。どうやらこの部屋は常温らしい。そして、多くのカプセルを見て歩いていると、気がついた時には部屋の奥の螺旋階段の前に立っていた。階段周りの壁はガラス張りで、外の吹雪がよく見える。しかし、外はどこを見ても真っ白だ。
「行こう。」
レオの言葉で、彼らは螺旋階段を上った。2周ほどすると、目の前に大きな鉄のドアが現れた。
「開けるよ。」
レオがドアノブに手を掛けると、マリスは息を引く様に吸った。同時に他の3人も、どこからか物凄い圧を感じ取った。レオはドアノブを握り、捻り、開いた。
広い部屋だ。壁には本棚が並び、奥には紙や試験管などが置かれた長い机。背もたれが長い革の椅子。
椅子が回転した。青く長い髪が、艶とともに揺れる。
「おや……よくここまで来れたわね。坊や達……」
白衣を着た女が、コーヒーカップを持ち、冷静な顔で、眼鏡越しにこちらを見た。耳が尖っている。レオは口を開いた。
「あなたは…誰なんです…?ここはっ……?」
女は上品にくすりと笑った。
「ふふ。知りたい…?」
すると、マリスが口を開いて、レオより前に出て言った。
「お母さん……」




