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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
102/206

鉄の処女の微笑み

 3人は立ち止まった。目の前に禍々しい渦と、その後ろに大きな廃墟が見えた。周辺に白銀の雪が吹き荒れる。しかしマリスは鮮やかさを失った瞳で渦を見つめ、赤いマフラーと白衣を靡かせながら、小さな歩幅を氷の地に残した。


「マリスさんが行ってしまいます!」

「ちょ、マリスちゃ〜んっ!!」


 ネネカとクレアの声は、吹雪の冷たい音で凍った。マリスはゆっくり前へ進み、遂には渦に吸い込まれ、レオ達の前から姿を消した。レオは渦に向かって飛び出した。


「レオ君っ!!」

「行きましょう!!シルバさんのためにも!!」

「はっ、はいっ!」


 3人は禍々しい渦に飛び込んだ。一瞬で辺り一面は気味の悪い禍々しい色に染まった。





 目の前に光が見えた。一歩踏み出すと、渦から出た。3人は前を見ると、そこにはマリスの後ろ姿があった。


「………ここは………何かの施設……?」

「そのようですねクレアさん………それにしても寒い……」


 レオは白い息を吐いた。辺りを見渡すと、コンクリートで出来たような壁に、錆びついた数本のパイプ、天井には氷柱、そして左側には大きな鐘の上に少女の顔が刻まれたような物があった。不気味に薄暗いこの場所では、足音と外の吹雪の音さえも響く。


「クレアさんの特技の効果があってもこんなに寒いなんて……」


 ネネカの体は震えている。するとマリスは奥のドアへ歩き始めた。


「ちょっと〜っ、マリスちゃ〜んっ!」


 3人はマリスのすぐ後ろに立った。マリスの目の前のドアは重い金属の色だ。マリスはドアノブにゆっくり手を掛け、握り、捻った。


「……………」


 しかしドアは開かず、数秒の間、辺りは無音になった。すると、マリスはドアノブから手を離し、小さく口を開いた。


「………鍵…………地下…………奥………」

「ち…地下………?……奥………?」


 マリスの静かで冷たい言葉に、レオは首を傾げた。クレアは辺りを見渡し、右を見つめた。


「あそこに階段がある……行こう。」


 クレアは白い息を呑み、地下へと続く階段へと歩き出した。レオとネネカもクレアの後に続き、階段を降りた。後ろを振り返ってみると、マリスが開かないドアを見つめ、体を小さくして立っている。3人はマリスを置いて行った。


「……見るからに何かの施設のようですね…。」

「…そうだね。ただ………静か過ぎない…?」


 レオの言葉にクレアは返した。すると、3人の前に鉄のドアが現れた。レオがドアノブを掴んだその時、ネネカの中の感覚が大きく震え、背筋が凍りついた。


「っ!………クレアさん……レオさん……とても……嫌な予感がします……っ…」

「えっ………」


 レオの口から声が溢れ落ちたが、すでにドアは開いており、その先が見えた。3人はその光景に目を大きく見開いた。


「っ!!……これはっ…!!」

「……嘘………でしょ……」


 先は霧がかった一方通行で、冷たい床には、赤黒い液体が叩き付けられたかのように飛び散っている。左右には頑丈な鉄格子が並んでいる。


「ここ………まさか………牢屋…………?」

「そのようですね……でも、奥に行かないと、鍵は手に入りません。……行きましょう…。」


 3人は前へ進んだ。鉄格子の奥は暗く、目を凝らして見ないと中が見えない。


「……………………れ…………」


「……何か言いました…?」


 レオは声を聞き、クレアとネネカを見た。2人は横に首を振った。


「………け…て…………れ………」


「誰かいるっ!行きましょうっ!!」


 3人は声の聞こえる方へ走り出した。薄暗い中の霧が、不気味な空間となって彼らを包む。3人は止まり、右の鉄格子を見た。


「…たす……け……て………く……れ………」

「っ!!アンドレイっ!!」


 そこには床に座る1人の少年が居た。同級生のワカーユ・アンドレイだ。骨の形がくっきり見えるほど細くなっている。その腕には、凍った鉄の枷が付いていた。


「どうしてここにっ!!何があったの!?」

「……ちょっと…前……襲撃………あった……だろ………メルビア……に……居たら………捕まっ……て………。…こ……こから………出し……て…」


 その時、彼の腕に勢いよくギロチンが落ち、彼の腕は3人の前の鉄格子に叩き付けられた。


「ぎゃあ゛ああぁぁあ゛ぁぁぁああぁあ゛ぁあ゛あぁあぁあ゛ぁぁあぁああ゛ぁぁああぁあっっ!!!!」

「っ!!ネネカっ!!見ちゃダメだっ!!」


 レオはネネカの前に立った。アンドレイの腕の断面からは赤い血が噴き出し、口が裂けるほど叫んだ。


「ぁぁああ゛ぁぁぁああ゛ああぁああっっ!!!」

「……一体何なのここはっ…!!」

「アンドレイっ!!アンドレイぃっ!!」


 レオは冷たい鉄格子を、両手で強く握り、彼を呼び続けた。彼の腕の断面から出る血は勢いを失い、彼は人形のように動かなくなった。


「……アンド……レイ…………」


 レオは脚から崩れ落ちた。膝が赤く染まるレオの肩にネネカは手を置き、悲しい顔で彼を見つめた。


「レオさん……進みましょう……彼は……もう……」


 レオはゆっくり立ち上がり、振り返った。ネネカの顔を見ようとしたのだが、その後ろの鉄格子の奥を見てしまった。細くなった女が、肌を青白くして首を吊って浮いている。


「………ここはただの牢屋じゃない。最初の部屋に、少女の顔が刻まれた鐘のような物があった。あれはアイアンメイデンっていう拷問道具だ。ただ……何のために…………。行こう。」


 レオが言うと、ネネカとクレアは小さく頷き、3人同時に歩き始めた。すれ違う鉄格子の中は、奥に行くにつれて残酷さを増していく。凍てついた骨の残骸。原形を失った状態で腹からこぼれ落ちた内臓。腕脚を失ったダルマ状態の女。彼らはこれらの間をしばらく歩くことになった。ようやく行き止まりに着くと、左右の鉄格子を見て驚いた。


「………どういう…こと……」


 右の鉄格子は曲げられており、左の鉄格子の中は天井までもが赤く染まっていた。しかし、扉が開いている。レオは鉄格子の中に入り、床にしゃがみ込んだ。


「…あった……鍵だ………。」


 レオは鍵を手に取り、鉄格子を出た。その後3人は一言も喋ることなく、来た道を戻った。


「…………」

「…………」

「…………」


 先は暗く、霧が薄くかかる。


「…………………」

「…………………」

「…………………っ!!」


 その途中、先程立ち止まったアンドレイの牢屋の前に、キャタピラとアームのついたロボットが居た。アームには彼の血で染まった腕が2本。ロボットはゆっくり3人の方を見た。


「っ!!まずいっ!!」


 レオが言ったその時、天井のライトが赤く光り、大きな音のブザーが鳴り始めた。


『侵入者発見、侵入者発見。直チニ排除セヨ。繰リ返ス。侵入者発見、侵入者発見。場所ハ地下ノ収容所。直チニ排除セヨ。』

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