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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
100/206

赤黒い絶望

 紫色の空の下、城の庭に肌寒い風が吹き、辺りはやたらと静かだった。砂利の上でレオ達4人はうつ伏せに倒れていたが、真ん中に立っていたハクヤの視線の先には紅の衣を着たシルバの姿があった。シルバの周辺の砂利は時間が経つにつれて、じわじわと赤く染まっていく。


「………やはり愚かだ。優しさは時に、自らの命を不自由にさせると言うのに………」


 ハクヤは赤く染まるシルバを見下すように見つめた。シルバは動かない。ハクヤは刀をシルバに向けた。


「……さらばだ。貴に世は背負えんと見た。」


 ハクヤが刀を振り下ろした途端、目の前のシルバはは消え、残っていたのは赤く染まった砂利だった。左から馬の蹄の音が聞こえた。見ると、火の尾の馬が背にシルバを乗せて立っていた。馬は口を開いた。


「…お前が……やったのか……」

「…その尾、火狐か。」


 その馬はココだった。ココはハクヤの声を聞くと、レオとネネカとアランを咥えては背中に乗せ、ハクヤを睨んだ。


「シルバは必ず……お前を倒すからなっ。」

「……私はそれを期待していたのだがな……」


 するとココはハクヤから目を逸らし、蹄の音を鳴らして走り始めた。ハクヤはそれを追うことなく、静かに納刀し、襖に隠れて顔を出すキクの方を見た。


「……すまない、キク。騒がしくした。怪我はないか……?」

「…ううん……だいじょうぶ。」


 キクの声を聞いたハクヤは、城の中へ入った。




 4人を乗せたココは長い下り坂を必死に走っていた。両側の柳林が冷たい視線を送り、通り過ぎていく。


「シルバっ……シルバっ………何だよっ………何があったんだよっ…!!返事をしてくれよシルバぁっ!!シルバぁぁっ!!!」








“シルバぁっ!!”








“シルバぁっ!!”







“シルバぁっ!!”






“シルバぁっ!!”




「「シルバぁぁっ!!」」

「はぁっ……!!」


 レオは目を開いた。木の天井が見える。どうやらベッドに仰向けになっていたらしい。レオは体を起こそうとした。すると、


「うっ…!!……っっ…」


 横腹に痛みが走る。右手で腹部を強く抑えながら、辺りを見回した。左のベッドにはアランが、向かいのベッドにはネネカは仰向けに寝ていた。


「…アラン……ネネカ………僕は………一体……っ。」


 すると、下から声が聞こえた。シルバを呼ぶ声だ。レオは痛みに耐えながらベッドから立ち上がり、階段を降りた。


「……ぅっ……何が………あったんです……………っ!?」


 一階に降りたレオは、視界に入った光景に驚きを隠せなかった。その驚きは横腹の痛みに強く響く。


「おいっ!!シルバっ!!返事をしろぉっ!!」

「シルバさん!!シルバさんっ!!」

「起きてよシルバぁっ!!」


 床にシルバが仰向けに倒れていた。胴体に巻かれた包帯は赤黒く染まり、木の床には赤色が広がっている。それを囲むようにギルドメンバーが膝をついて、シルバに大声を出していた。


「……そんな………シルバ……さん……」


 レオは足から崩れ落ち、瞬きを忘れた。するとレオの左側で、立ちながらタバコを吸うリュオンが小さく口を開いた。


「…何があったんだか。おいお前、知ってる事全部吐け。」


 リュオンの口から薄い煙が流れ出る。レオはリュオンの顔を見る事なく、ただ絶望に締め付けられながら言った。


「………何も……覚えてない………です………」

「っ、使えねぇ。デケェ(つら)でアッチの世界から帰って来ると思っていたが、このザマか。」

「………すみません………何の情報も無くて……」


 レオの声にリュオンはため息をついた。


「ま、あいつの傷見て分かった事が1つある。」

「………傷……」

「あいつの戦い方は銀刄流奥義。その奥義を知らねぇヤツは大抵あいつに攻撃が入らねぇ。だが今日、あいつは深い傷をつけて帰って来た。あいつにあれだけのダメージを与えられるんなら、そいつは恐らく銀刄流奥義の持ち主、銀刄家の1人ってわけだ。つまり、敵軍もシルバみてぇな厄介な駒を持ってる。」


 リュオンは煙を吐いた。レオは煙の匂いに振り向き、口を開いた。


「でも……シルバさんの家族は亡くなったんじゃぁ………?」

「そこが謎だ。」

「ぁっ……レオ君っ!!大丈夫!?」


 すると、クレアがレオの方に近づいて来た。彼女の目がいつも以上に潤っている。


「…少し……横腹が痛みます……それより、シルバさんはっ…」


 クレアはレオを前にして目を閉じ、首を横に振った。


「……とっても傷が深くて、回復魔法でも傷が塞がらないの。もしかしたら……もう…ダメかも………」

「………そ……そんな……」


 レオの頬に生温かい涙が流れた。視界が涙で塞がり、辺りの色が滲み浮かぶ。クレアは震える口角を無理矢理上げて、レオに優しく口を開いた。


「ネネカちゃんは気絶してて、アラン君は右の肋を骨折してたけど、3人とも生きてて良かったわ………」


 その言葉でレオの肩の力が一気に抜けた。この先何に縋り生きるべきか、何を頼りに進むべきか、多くのものを失ったと深く思い、心が黒く重くなっていく。


「僕はぁっ……僕はぁぁっ………何をぉぉっ………っ!!」


 レオは両方の拳を強く握り、床に振り下ろした。


「僕は何をやってたんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 レオは涙を撒き散らして叫び、床に額を叩きつけた。痛みなど感じない。ただ、襲い来る悔しさと悲しさに歯を食いしばる。リュオンはシルクハットを深く被った。


「………レオ君…顔上げて。悪いのは君じゃないよ。ね?…ほら、自分を責めないで。」


 クレアの優しい声を聞いたレオは、ゆっくりと顔を上げた。するとレオの視線に、あるものが飛び込んだ。


「……………………」


 マリスが黙って、ただ動かぬシルバを見つめている。その表情は何の混じりも無い無色透明だった。悲しみと言えば少し違うように思える。あえて言うなら、鬱そのものだ。レオは固まるマリスを見つめた。


「……マリスさんは………大丈夫なんですか………?」

「………私からは何も言えないわ。ただ、彼女の事はそっとしてあげて。」


 レオはゆっくりと頷いた。それを見たクレアは微笑み、レオの右肩に手を優しく置いた。すると、リュオンが薄い煙を吐きながら、レオに口を開いた。


「んで、まだ何も思い出せねぇって言うのか?」


 その言葉でレオはリュオンの方を向き、首を横に振った。


「いえ、1つ思い出しました。……確か、ダークネスの世界で会った人、ハクヤって名乗ってました。」


 その名を聞いて、リュオンとエレナスとエルドは反応した。そしてリュオンはレオに口を開いた。


「ハクヤって言ったな。そいつはなぁ………。銀刄ハクヤ……シルバの兄の名だ。」

「…………えっ…」

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