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やがて救いの精霊魔術  作者: 山外大河
一章 邂逅編
6/7

6 強襲

「ありがと、土御門君。今日は楽しかったよ」


 最後のカラオケ対決で全戦全勝した茜は機嫌が良さそうにそう言う。

 時刻は六時半。本当はもっと色々な所を回る筈だったのだが、思った以上にゲームセンターとカラオケに熱中してしまったため、大体計画は頓挫した。

 でもまあそれでもいいとは思う。それだけ楽しめたという事でもあるし、最終的に無事自分達の関係は知り合いから友達へとランクアップした。今日できなかった事はいずれまた会ってすればいい。

 どうせ今は夏休みでやる事もなく暇なのだから。


「楽しんでいただけたなら何よりだ。俺も楽しかった」


 誠一も正直な感想を茜に伝えた後、茜に問う。


「で、アレだ。お前ん家どの辺? 送ってくわ」


「ほおほう、土御門君、女の子に優しくするふりして実は女の子の家の場所知りたいだけだな?」


「……いや、そういう訳じゃねえよ」


「ん? 今変な間空いたよね? これはアレかな? 図星って奴かな?」


「ち、ちげーよ。コレはアレだ。本当に優しくしてんだよ。世の中物騒だからな。何かあったら大変だろ」


 言いながら別に大変ではないのだろうなという事に気付く。

 自分達は一般的な物騒な一件ではどうという事もない。例えば暴漢に襲われる様な事があっても肉体強化の魔術を使用して簡単に鎮圧する事だってできる。もっともその場合後処理が大変になってくるのだが。


「……まあ確かに物騒な事には間違いないからね。じゃあお願いできるかな?」


 そう言って茜はこちらの提案に乗ってくる。

 だけど彼女の言う物騒な事とは最初に誠一の口にしたソレとは違う。

 彼女にとって。誠一達にとって物騒な事。それは一重に精霊の事になる。


「了解」


 だからきっとこの返答は嘘だ。

 物騒な事に巻き込まれても、その先の一歩を踏み出せない。踏み出していいのかもわからない。故に自分にできる事なんてたかがしれてる。

 ……では目の前の女の子はどうなのだろうか。

 自分と違い、そういう事が起きれば躊躇なく前に進む事ができるのだろうか?


 ……その答えは、あまりにも唐突に知る事になる。


「……ッ」


 突然、何かを感じ取った様に茜の表情が変わった。


「どうした宮村」


「……来る」


「来るって何がだ?」


 誠一がそんな事を宮村に聞くと、険しい表情を浮かべた茜はその問いに答える。


「……精霊」


 それだけを口にして茜は走り出した。恐らくはその精霊が現れる方角へと。


「おいちょっと待て宮村!」


 誠一も慌てて追いかける。自分に大したことはできない事は分かっていても、あまりにも急な事態に脳が茜と共に動く様働きかけてきた。

 そして茜の少し後ろを走りながら誠一は茜に問う。


「精霊が来るってどういう事だよ!」


 通常精霊の出現は魔術師達が所属する組織、精霊対策局が有する観測機械によって予測する。

 出現の数分前。実質的に直前に等しいそのタイミンングで観測した情報が近くの部隊や隊員にリークされて動く。そういうシステムになっている。

 だが茜がそういう連絡を受けた様子はない。つまりは意味が分からない。


「知ってる? 土御門君。今は機械頼りの事柄も、昔は人の手でやってた事が多いんだよ」


 ……知っている。

 そういう機械が開発される前は、観測する事に長けた魔術師が交代制で精霊の出現を感知していたという。今の機械よりもコストや精度の問題で少なくとも日本ではもう使われていないやり方ではあるが。

 ……そしてそんな事を言いだすという事はだ。


「……まさかお前、ずっとあの術を使っていたのか?」


 あの術……精霊の出現の前兆を観測する魔術。

 それを交代もなしにずっと。


「してたよ。私なら対策局の機械よりも早く探知できる」


 隠す気もなくそう言った茜がその情報をどこかに回す素振りは見せない。

 それはまるで自分の獲物だと主張している様にも思えた。

 他の魔術師よりも早く見付けて自分が精霊を倒すのだと。そう言っている様に。


(……)


 複雑な気分だった。

 もし今考えた通りの事を茜が考えていたとすれば、精霊を殺せずに踏みとどまっている自分の立場

からではもうどういう風に彼女を見ればいいのかが分からなくなる。

 結果的に自ら進んで率先的に精霊を殺しに向かう彼女とどう接すればいいのかが分からなくなる。

 そんな風に彼女の事を捉え始めていた時だった。

 突然茜がその場で立ち止る。


「此処だよ! 土御門君、人払いの結界は張れる!?」


「あ、ああ!」


 急な事で一瞬戸惑うものの、茜に言われた通り周囲に呪符をばらまきそれと同時に地面に手を付き術式を構築する。

 ……人払いは魔術師にとって必須とも言える術の一つだ。周囲の人間の注意を他の所へと向けこの場所から遠ざける。この場所で起きる事に注意を向けられにくくする。記憶を消す事は出来てもそう気軽に使える物ではない以上、避難誘導もかねて現着した魔術師が発動させなければならない魔術。


(……)


 それが今、組み終わった。それにより周囲の人間がこちらに注意を向けることなく、その場を歩き去っていく。

 うまく行った。伊達に魔術師家系にうまれていない。例え精霊との戦いで現状使い物にならなくとも、魔術そのものは得意なのだ。

 そして誠一の目の前では茜が別の術式を構築していた。

 そして次の瞬間には茜を中心に半透明の結界が周囲に広がる様に展開される。


「……今の術は?」


「精霊をこの場に留める結界。人間は出入り自由だから避難に差し支えはないよ」


 そう言った茜は続いて一枚の呪符を取りだし、次の瞬間それを日本刀へと変化させる。

 魔装。精霊を殺す為の武器だ。

 そしてそれを手にしながら茜は言う。


「だから土御門君も逃げて」


「……え?」


 突然そんな事を言われて思わずそんな言葉を返す。

 そしてそんな誠一に茜は続けた。


「昨日ね、キミのお兄さんから。私のとっては上司になるのかな? 聞いたんだ、土御門君の事」


 そして一拍空けてから茜は言う。


「土御門君は精霊と戦えないんだよね。だったら尚更……私のわがままには付き合わせられないよ」

 

ぶつ切りですので次回そのまま続きます。

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