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やがて救いの精霊魔術  作者: 山外大河
一章 邂逅編
5/7

5 休息と現実逃避

「やっほー誠一くん」


 約束の日、ラインで話した待ち合わせ場所に宮原茜はやって来た。


「うっす……」


 軽く挨拶を返して……思わずその先の言葉を詰まらせた。

 言ってしまえば見惚れていたのかもしれない。


「どうしたの誠一くん。なんかぼーっとしてない?」


「してないしてない。大丈夫だ」


 言いながら目を反らした。

 ……なんというのだろうか。可愛い女の子というのは目の前の女の子の様な奴の事を言うんのだろうと、そう思った。あとスカート短くて目の毒。


「いやいやなかなかぼーっとしてたよ……ほほう、さては茜ちゃんに見惚れていたな? んー?」


「……まあ」


 恥ずかしくて否定したかったが、それはとても失礼な事のように感じる。というか絶対に失礼だと思った。故にとりあえず頷いて目を反らした。多分少し顔が赤くなっているかもしれない。


「え、あ、えーっと……」


 そんなこちらの反応は少し予想外だったのかもしれない。茜もなんだか静かになった。ようやく視線を茜に向けると、先の誠一の様に少し視線を反らして少しだけ顔が赤くなっている。


(……自分で話振ってなんでお前が恥ずかしがってんだよ)


 まあそのしぐさがまた可愛いのでこちらとしては得しているのだが。


「……とりあえず誠一くん」


 徐々に回復してきたのか、こちらに再び視線を向けてきた茜は誠一に言う。


「今日はよろしく」


「ああ、よろしく」


 こうして九州の地方都市の案内が始まる。

 もっとも気分的には女の子と二人でいる事に舞い上がりそうにはなるけれど。


「で、どこか行きたい所とかあるか? 東京と比べりゃ規模は小せえが腐っても都市部だ。大体なんでもあるぞ」


「そうだね……ああ、ゲームセンター。なんかいい感じのゲームセンターあるかな?」


「いい感じね……まあ色々あるぞ、でかいところにレトロゲーばっか置いてある穴場とか。っていうか初っぱなからゲーセンって、お前結構ゲームとかやんの?」


「そうだね。通り名まで付けられる位には入り浸ってたよ」


「へぇ……ちなみになんて?」


「出禁の宮村だよ」


「ゲーセンは絶対に教えねえ!」


「冗談だよ。初心者狩りの宮村」


「タチわりぃ事に代わりねえじゃねえか!」


「ちなみに勝率は三割三分三厘といった所かな」


「狩られてるぅ!」


「好打者っぽいでしょ」


「野球ならな!」


 どんなゲームであれ勝率三割はどうしようもない。相手が初心者なら尚更だ。


「まあとりあえずゲームセンターでよろしく」


「精々出禁にならないように気を付けてくれ」


 そんなやり取りの後、まずはゲームセンターに向かう事になった。




 どうやら茜が案内してほしいのは遊ぶ場所全般という事らしい。

 最低限生活に必要なスーパーなどの位置は引っ越し当日に把握していたらしく、分からないのは知らなくてもまあ生きていけるであろう類の場所。言わば遊ぶ場所だ。

 ゲームセンターが真っ先に出てきたのはそういう事だろう。


 ……ゲームはいい。言い方は悪いが現実逃避するのにはうってつけだ。

 もっともそれは漫画にも言えるし映画にも言える。友人とのカラオケだってそうだ。とにかくそういう気を紛らわせられる娯楽程精神を安定させるのに役立っているものはないだろう。


「宮村」


「何かな?」


「お前マジで弱いな」


 とある格闘ゲームを何戦か行ったわけだが、いとも簡単に誠一が勝ってしまう。

 全戦全勝だ。


「初心者で三割三分。実力者だとそりゃ勝率落ちるよー」


「俺初心者なんだけど」


「またまた御冗談を」


「初心者狩られの宮村さん」


「その称号不名誉すぎる!」


 茜がそうシャウトした。

 ……でもまあ特に不機嫌には思ってなさそうで、それどころか寧ろ楽しそうで。

 そして誠一本人も既に結構楽しくて。

 ……本当に精神的な傷を癒すにはこういうイベントがもってこいだと思う。

 楽しい事があるから精神を保っていられる。多分現実だけを見ていれば色々と潰れてしまうだろう。


「いやーくそ、悔しいなぁ。リアルファイトなら絶対に負けないんだけどなー」


「またまた御冗談を」


「そんな事ないよ。茜ちゃんは実は相当な強キャラなんです」


 まあ確かにその可能性もなくはないだろう。

 彼女は魔術師だ。そして誠一の様に半端物でなければ自分よりは当然のように強いのだろう。

 でもまあ互いの強さなんてのに興味はないし、これ以上この話を掘り下げるのもあまりよくないと思った。


 魔術絡みの話はしない。茜が話したくない事の話題に近づくかも知れないから。

 だから話の流れを変えることにする。


「まあそれは置いといてだ」


「置いとくんだ」


「置いとくんだよ……とりあえずゲームを変えよう、サンドバック宮村ちゃん」


「だから称号が不名誉! まあ事実だけども!」


 このままこのゲームをやっていても同じような結果が続くだけだろう。だったらお金の無駄とは言わないが、もっと拮抗した勝負の方が互いにいい。


「多分お前格ゲー向いてないわ。ゲームのジャンルから変えてみよう」


「……まあ一理あるけども。そういう事をザクザク言う男の子はモテないよ」


「いや、宮村マジで格ゲーの天才。神童だよ。三割三分。上等じゃねえか。野球なら契約更新待ったなしだぜ」


「だから掌返し凄すぎるよ土御門君! 別に冗談だからね? 少なくとも私はそういうのザクザク言ってもらっても気にしないからね?」


「なんだそうなのかサンドバック」


「せめて名前入れてよ!」


 そんなやり取りを交わした後、誠一はゲームを変えることにした。

 レースゲームに音ゲー。そして何だかんだで再び格ゲーへと戻り、最終的にどれも勝てなかった茜が併設されているカラオケでの点数勝負を挑んできて、そこでようやく茜が勝利する流れになった。

 そうこうしている内にも気が付けば時刻は五時過ぎ。途中ファミレスで食事休憩を取ったとはいえ、随分とのめり込んだなとは思う。

 心から楽しいと思える位には。

 ……精霊の事を一時的にで意識の奥へと追いやれる程度には。

 つまりはこの時だけはうまく辛い現実から逃げられていたのだ。


 さて……果たしてどうなのだろうか?


「どうした―土御門君。そんなどうしようもない点数じゃ私には勝てないよーはい、次行ってみようかー」


 誠一の目の前で楽しそうに振舞う彼女も似たような事を考えているのだろうか。

 まあその答えがどうであれ茜に直接聞ける様な事でもなくて、その疑問は闇の中へと沈んでいく。


 いずれ勝手に引きずり上がるその時まで。

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