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第四章 ⑤ ―シュナイト対ネクロ①―

 シュナイトは激しい地響きと共に、その大きな体を地上にぶつけて跳ね上げた。

 操縦席で激しい揺れの犠牲者となった虹星の視界はチカチカと星が回ったように光が弾けて異常を知らせる。しかし、そこで体を寝かせたままにしているわけにもいかない。すぐさま体を起こして、集中力が途切れる前にそこから離脱する。

 シュナイトが倒れていた場所に、飛び掛るのはネクロ。大剣が地面を抉りながら、地表に突き立てるが目標は既にネクロから距離を離していた。


 『さっきまの威勢が感じられないよー?』


 クスクスと笑うのは、戦いも含めて余裕のあるネクロの声。

 事実、虹星とシュナイトは先程から防戦一方だった。

 武器には、それぞれ弱点というものがある。剣を持てば弓矢などの遠距離からの攻撃に弱く、反対に弓矢は懐に入り込まれれば弱体化をする。しかし、ネクロの持つ大剣は武器が本来持つ当たり前の弱さを感じさせないのだ。

 接近すれば大剣を盾のように扱い、そのままの勢いで片手で大剣を簡単に振るい薙ぎ倒す。大剣の持つリーチの長さという弱点は、ネクロの機体性能が持つ怪力によって完全に崩壊していた。同時に、その怪力は武器となり、まともに一撃でも受けたなら間違いなく致命傷になる。


 『よっわーい! その程度なの? ま、ど、う、し、様っ』


 最後にハートのマークが付きそうなほど、甘ったるい声を出すネクロ。その口調とは反対に、行われる動きは執拗なまでの攻撃。大剣を右に降り、左に振り、素早く重たい斬撃をその細い剣で受け流しつつの防戦。


 『くっ――!』


 虹星が苦悶の声を上げる。

 受け流すこともできなくなり、弾かれれば地面に転がったところをネクロに狙われる。それを寸前で回避して、再び受けては回避を繰り返す戦いが続く。

 リデラからしてみれば、そんな肝を冷やすような光景がもう幾度も繰り返されているのだ。

 魔導人己を操縦しないリデラでも理解できた。この状況は、どう考えてもシュナイトの劣勢である。

 シュナイトの動きは素早く、あれだけ強烈な大剣の攻撃を何度も受け止めて致命傷は回避している。しかし、それを受け続けるための己の剣を利用しているせいで、次の攻撃に移ることができなくなっている。

 状況を変えるためにシュナイトは地面を強く蹴れば、ネクロと再び距離を空けた。


 『もう、終わりか?』


 ソウマの問いかけに虹星は顔をしかめた。

 虹星は、ソウマ達に聞こえないように小声でシュナイトに声をかける。


 「シュナイト、こうなったら……例のアレやるわよ」


 『まだ未完成のはずだろ!?』


 基本的にはきちんと話も聞かず、二つ返事で言葉を返すことの多いシュナイトだが、今回ばかりはその声に驚きと焦りを感じさせる問いかけだ。


 「それでも、今はやるかしないでしょ! 私達が、今以上の力を発揮するためには、多少無理はしないと勝てないのよ!」


 虹星とシュナイトが何か会話をしていることにネクロは気づいていた。しかし、目の前の存在が自分の実力も下だという事実が絶対的な余裕を持たせた。

 実にゆっくりとした動きでネクロは、大剣の刃先を荒野に引きずりながら迫ってくる。

 シュナイトにも虹星にも、自分達が目の前の敵に遊ばれていることに気づいていた。そして、その遊びがもう終わろうとしていることも理解できた。


 「お願い! シュナイトッ!」


 じっと黙っていたシュナイトだったが、覚悟を決めたように言葉を発する。 


 『……おう! マスター!』


 「……ごめんね、私の無理に付き合ってもらうわよ!」


 『おう!!!』


 シュナイトに接近していたネクロの足がピタリと止まる。

 シュナイトの目の輝きが強くなったかと思えば、突然――ネクロの視界から姿を消した。


 『遅いって、言ったでしょ?』


 背中を向けたままで、背後に出現したシュナイトに大剣を突き立てた。後方からの不意打ちを狙ったはずのシュナイトの体に吸い込まれるように突き刺さった大剣。しかし、それは支えを失ったようにグラリと体勢を崩す。――大剣に貫かれたはずのシュナイトの姿は、そこから煙のように姿を消していた。


 『えっ――!?』


 ネクロの体を横殴りの衝撃が襲う。まともに立っていることができなくなったネクロは、片足のバランスを崩した。そのまま砂煙を巻き上げて強引に横方向へと動かされる。致命傷を受けたわけではないネクロは、その赤い目を輝かせると衝撃が襲った方向に顔を向ける。


 『確か、ネクロと……ソウマて言ったわね。魔導師を舐めないでいただけるかしら』


 わざとらしく上品ぶって言う虹星。

 シュナイトが起こしたその光景を見たネクロは忌々しげに言葉を発した。


 『魔導師? 手品師の間違いじゃないの?』


 ネクロの視線の先に立つシュナイトは堂々とした姿をしていた。異変は、そうした雰囲気の変化だけではない、シュナイトの姿が増えているのだ。剣を手に持ち、その暗闇に映える青の機体が三体、ネクロを見ていた。

 驚くべきことに、シュナイトの数は三体に増えていた。


 『手品とか、そういう小手先のものかどうかは身を持って味わいなさい!』


 三体のシュナイトが同時に地面を蹴った。

 ネクロの懐に一体が飛び込んでくれば、ネクロは軽いステップでその一撃を避ける。着地後、懐に飛び込んだシュナイトに向けて蹴りを放つ。そのまま、先程と同じように攻撃が貫通すれば霧のごとくシュナイトは消えてしまう。


 『幻か……』


 ソウマは低く呟き、視線を上に向ける。

 頭上から剣を構えて飛び掛るのは新たなシュナイト。狙いを定めたネクロは、大剣を頭の上に持ち上げる。


 『隙だらけだなんだよ』


 ソウマの一言の後、シュナイトの体へネクロは刃を突き刺した。しかし、その攻撃を受けたシュナイトは透明になり大気へと消えていく。


 『アンタも、隙だらけよ』


 虹星の声を受け、ソウマが視線を向ける。片腕を挙げた状態のネクロの胴体へ向けて剣を真っ直ぐに突き立てるシュナイトの姿が飛び込んでくる。このままなら、まともに行けば胴体を貫かれるのは避けられない。――そのため、ネクロは避けるという行動をとることをやめた。


 『馬鹿正直に飛び込んできちゃったねー』


 飛び込んできたシュナイトの刃をネクロは、大剣を持たない方の手で鷲づかみにするように掴んだのだ。魔導人己の刃をまともに受ければ、並の魔導人己なら粉々に砕け散る。しかし、掴んだ腕にダメージの及ばない絶妙な力加減と操縦者の力量、さらにネクロという魔導書の持つ強大な力がその刃を通すことはない。

 ネクロは刃を掴んだ時に、確かに勝利を確信した。感触があるということは、これは幻ではない。そして、ここで刃を振り下ろせば確実に、この小賢しい手品は終わる。


 『バイバイ、ペテン師さん』


 ――ガキィン。と魔導人己の頑丈な装甲を貫く刃の音が轟いた。


 『隙だらけって言ったでしょ?』


 背後から現れた別のシュナイトによって、ネクロの大剣を持ち上げていた右腕の関節に深く刃が貫通していた。

 ネクロは、もう片方の手で掴んでいたはずの刃がぐにゃりと歪んだのを感じた。布きれのように軽くなり、そこには感触がなくなった。


 『コイツもニセモノっていうの……!』


 ネクロは動揺の声を上げた。

 大剣で叩き潰そうとしたはずのシュナイトの姿はそこにはなく、代わりに後ろから腕をシュナイトの剣によって貫かれた間抜けな自分がいるだけだ。


 『もしかして、全部で三体だと思っちゃった? 残念、大ハズレ』


 ネクロの腕に貫通させた剣を勢いよく抜けば、ネクロの魔導人己を構成する魔導筋肉から大量の血液を流す。魔力によって痛覚を遮断しているネクロからしてみれば、痛みもなく時間をかければ自然治癒できる程度の損傷。しかし、それ以上にネクロを苛立たせたことがある。自分より劣ると思っていた相手の攻撃を受けたことで、ネクロのプライドを傷つけることとなったのだ。

 

 『――うるさいわよっ!!!』


 ネクロは怒りのままに、大剣を大きな動作で振るう。既にそこには、シュナイトの姿はなく高く跳躍し、距離を空ける。

 戦うにしても逃げるにしてもシュナイトからしてみれば十分な間隔。同時に、それは戦いの流れを変えることができる状況に立っていることの証明でもある。

 虹星はゆっくりと息を吐けば、今までの緊張が和らぎ、程よい集中状態になっていくのを感じる。

 いい感じだ、これは実にいい状態だ。虹星は自分のコンディションの落ち着きに安心しつつ、しっかりと前方に立つ強敵の姿を見据えた。


 『――さあ、次は何人に増えるのかしら? ペテン師の魔術に付き合ってもらうわよ!』


 再びシュナイトが地面を蹴る時には、その数は五体にまで増えていた。

 冷静さを欠いたネクロへ、シュナイト達は一斉に飛び掛った。

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