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第三章 ⑦ ―魔導師になりました②―

 「それにしても、なんだか凄い人だったな……」


 城からの帰り道、勇吹はぼそりと呟いた。

 人というか、ロボットというか、なんというか……。相応しい言葉を探そうと思うが、それは出てこない。

 虹星も勇吹の感想に、自分でも思う所があるようでばつの悪そうな顔で視線を泳がせる。


 「そうね、確かに王様としては、かなり変わっている方なのかもしれないわ。まあ、私自身、王様というのをそれほど知らないけど……。ただ、ああ見えて、あの人が魔導人己の姿をしているのは、ちゃんとした理由があるのよ?」


 「理由?」と勇吹が聞き返せば、虹星は一度頷いて言葉を続けた。


 「ええ、百年以上前に、ここの都市にモンスターの大群がやってきたことがあったの。そして、その時にいた王様や貴族達は一部の魔導師と騎士を連れて、この街を放棄したのよ」


 「え!? ここに住んでいる人達をそのままにして、逃げ出したのか!? ていうか、百年!?」


 「最低よね。上に立つ者が下で支える者を見ていないのよ、下があるからこそ上があるというのに……。モンスターが迫ってきていることを知らなかった住人達は、突然の襲来に大混乱。そんな危機を救ったのが、たまたまそこに居合わせたイレシオン王よ」


 「燃えてきたぜええ!」とシュナイトは頬を赤くして、興奮をしていた。ゼナイダも、興味があるようで、珍しくこうした物語を興味深そうに聞いていた。

 周囲の反応に、気分を良くした虹星は言葉を続ける。


 「既に魔力人として、名前の知れていたイレシオン王は、残った騎士と兵士を率いて全方位からやってくるモンスターの群れを向かい討つことを決めるの。その戦いの話にはいろいろ説があって、魔導人己を同時に千体召還したとか、決して人間の言うことを聞くはずがないモンスターを自在に操ったとか……とにかく、その戦いが終わり、王様は瀕死の重傷を負うの。自身の命を繋ぐため、その体を魔導人己に転移することで一命を取り留めるの。それから先は、英雄になり民の信頼と騎士や魔導師の強い要望を受けて、この国の王になるわけ」


 (なるほど、その危機を救った時にそれなりの年齢だろうから二百歳を超えるとか言われているのか……。確かに、人間の姿なら、かなり厳しいよな)


 若干、興奮気味に話をした虹星は小さく息を吐く。

 騒がしくなるかと思ったシュナイトは、嬉しそうに両方の拳を握り、じーんと感動している。

 ふんふん、と頷くゼナイダの目の中には子供のような輝きがあり、見ているこっちが嬉しくなるような状態だった。


 「ね、勇吹が思ってた以上に凄い人でしょ?」


 「そうだな、確かに凄い人だ」


 最初に呟いた凄い人とは、また違う意味でその言葉を口にした。しかし、そう口にする反面、ずっと頭に引っかかったままのこともある。


 ――久しぶり。


 それ以外にも、王様には気になることがある。だが、今日のところはこれでいいのだろう。とりあえず、今はカモミールで働きながらガントゥを操っていた奴らを追うことにしよう。 敵を追うことは勇吹にとっても、最優先事項に思えた。

 奴らは、きっと大切な人達を傷つけようとする。カモミールのみんなを守るには、奴らの大本を倒すしかないだろう。

 強い信念を胸に、勇吹は守るべき人達がいるカモミールへの道を進んでいった。



                 ※



 「――では、虹星さんの歓迎会を始めます! 乾杯!」


 カーン。と、気分が良くなるような高い音が響く。

 いつの間にか、椅子の増えたカモミールの食卓では、先ほど乾杯をしたばかりのコップに口をつける一同の姿があった。カモミールの四名に、新たに生活を共にする二人だ。

 虹星が来ることをコゼットに知らせれば二つ返事で了承。さすがに、リデラは僅かに嫌な顔をしたが、喧嘩はするも内面では互いのことを認め合っているためか本気で嫌がるような真似をすることはなかった。

 既に自己紹介は済んでいることもあり、何故か気の合うコゼットとシュナイトは会話が盛り上がり、リデラと虹星は店の経営について話をしている。結果、リデラと喧嘩になるのだろうが、今は口を出さない。

 横で黙々と食事を口に運ぶゼナイダ。その頬に、ソースが付いていることに気づく。


 「ほら、ゼナイダ」


 親指で拭えば、それを自分の口に運ぶ勇吹。その光景を見て、頭から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にするゼナイダ。


 「ご、ごしゅぅ……」


 消え入りそうな声で言うゼナイダは、今度は勇吹に背中を向けて、先ほどよりも小さなった動きでもごもごとスープを口に運ぶ。


 (そんな食べ方したら、またほっぺに付いちゃうかもしれないのに……)


 その時は、また俺がふき取ってやればいいか。などと、ゼナイダが聞けば恥ずかしさで飛び出してしまいそうなことを心の中で思っていると――。


 「――ねえねえ、二人に聞きたいことがあったんだよ!」


 シュナイトと会話をしていたはずのコゼットがピシッと挙手をする。シュナイトは目を充血させながらうとうととしていた。そのグラス注がれたワインは半分も減っていない。もともと、調理用にコゼットが用意していたもので、せっかくだからと出したものだった。


 (魔導書なのに、酒弱っ……!?)

 

 どうやら、多くの魔力を内包する魔導書をもってしても、アルコールを分解することは不可能のようだ。


 「ねえ! 勇吹くん! 虹星さんっ!」


 まるで悪酔いしたように、またピッピッと何度も手を挙げるコゼット。

 酒は入っていないところを見ると、雰囲気酔いというものかもしれない。リデラも酒は飲まないので、酒を飲むシュナイト会話をしたことで、その雰囲気を余計に強く受けてしまったのだろう。


 (なんにしても、コゼットさんに酒を飲ませない方がよさそうだ……)


 これでこうなるのなら、アルコールが入った時のことを考えると、なかなかに怖いものがある。

 コゼットが不満そうにし始めたので、困り顔の虹星と顔を見合わせて、顔をコゼットに向ける。


 「ど、どうしたの? コゼットさん」


 「ええ、どうかしたの?」


 どういう思考でそうなったか分からないが、ドヤ顔のコゼットが腕を組む。そして、「ズバリ!」と言いながら目を見開いた。


 「虹星さんとイブキさんは、どういう関係なのっ!!!」


 シュナイト並に大きな声を出すコゼット。その声の大きさに、シュナイトはビクンと肩を震わせるが、周囲を見回して机に顔をつけて寝息を立て始める。


 「ど、どういう関係って……クラスメイトで……」


 「くらすめいと? えぇ? 本当にそんなものなんですかぁ。なんだか、虹星さんてぇ、イブキさんに対して熱いというかメラメラというかぁ」


 指をもじもじと擦り合わせながら虹星が言えば、チラチラと勇吹に視線を送る。

 勇吹としても、虹星と自分の今の関係に何かあるとかそういうのはない。しかし、過去に一つだけ違うことがある。さて、どうしたものか。言うべきか、言わざるべきか。

 虹星が、勇吹を気にかける理由。それは、おそらく過去のアレが原因だろう。


 「元恋人なんだよ」


 リデラが食後の茶を噴出し、コゼットが異国語でも語りかけられたように言語が理解できないのか目を点にして首を傾げ、虹星が顔を赤くして下唇を噛んでプルプルしている。


 「え、すいません。もう一度」


 コゼットの赤みのかかった頬は色が上から白で塗られたように変色していく。

 リデラも「あれ、普通のエルフだったけ?」と危うく言ってしまいそうになるほど、顔の色が白塗りのようだ。

 何度も言うのは、恥ずかしいんだけどな。などと、身勝手なことを言いながら、勇吹は口を開いた。


 「俺と虹星は昔お付き合いして、恋人同士だったんだよ」


 唖然と喋ろうとしないコゼットをそのままに、突然リデラが立ち上がる。


 「寝る。三年ぐらい」


 「へ?」


 「リ、リデラちゃあああぁぁぁん!」


 絶叫をして、手を伸ばして名前を呼ぶコゼットの声など聞こえないようにフラフラと歩き出した。歩きながらも、合間に壁にゴンゴンゴスンゴスンぶつかりながら、歩く音が聞こえた。


 「だ、大丈夫かな。リデラさん……」


 酒は飲まない人だよな、なんて思いつつグラスを見るが、そこは透明の液体。

 コゼットがおろおろと震える手を机に置き、勇吹を見る。


 「そ、それって、いつの話?」


 「え、子供の頃だよ。小学生……あ……十歳ぐらいかな」


 「十歳!?」


 なんてこった、そんなオーバーリアクションで虹星は自分の顔に手を置いた。

 まだ淡く赤い頬のままで、虹星は勇吹の袖を引く。


 「よ、よく覚えていたわね……。あんな昔のこと」


 「ああ、虹星が好きだって言ってくれたの嬉しかったしな。俺も好きだったし」


 ニッコリとした笑顔で笑いかければ、顔が茹蛸のように赤くしたと思えば、急に席を立ち上がる。


 「お、お手洗い……!」


 逃げるように居間を後にする虹星。その姿を呆然と見送る勇吹。


 「……女の人もいろいろ大変なんだな」

 

 「凄い誤解しているようだけど、今回は指摘しないでおくね……。ねえ、イブキさん」


 苦笑い気味にコゼットが言う。


 「とりあえず、虹星さんと恋人同士ていうのは十歳の頃だということをリデラちゃんに伝えて、謝ってもらえるかな……?」


 「……うん、分かったよ?」


 ギュゥ。と急に腕がつねられた。


 「いたた、何すんの!? ゼナイダ!」


 唇を尖らせたゼナイダは怒っている様子だった。


 「……ご主人様のアホさに頭が痛くなるですの」


 翌日、勇吹はリデラに謝りに行き、またそこで泣かれるという謎の事態になるのだが、今の勇吹はひたすらクエスチョンマークを浮かべ続けるだけだった。

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